救命
亮は小妹の指差した場所の人差し指1本離れたところに
シャープペンの先の部分をリードに銅線をさした。
「先生、AEDを」
「うん」
医師がボタンを押すと、患者はのけぞり
心臓が動き出した。
「やったぞ」
「はい」
亮は銅線を抜くとすぐにそれを丸めポケットに入れた。
「き、君」
医師は驚いて亮の顔を見た。
「先生、僕がやった事は傷害になります」
「なるほど」
「私のやった事はご内聞に」
「わかった、これは見なかった事にする」
「お願いします」
「私は東峰医大の鹿島だ」
鹿島は亮に握手を求めた。
「私は團と申します」
亮は所属が無いので一瞬返事に困った。
「しかし、どうしてそんなに医学知識があるんだ」
鹿島は亮が気になった。
「東大薬学部を出た後に
ハーバード大学の経済学部に留学して、
在学中、医学部の授業と
MITの健康科学を学んでいます」
「凄い!ハーバード大学医学部ですか。
でも変わった経歴ですね」
「はい、そうですね」
「ところで東大の先生は?」
鹿島は亮を少し疑って聞いた。
「下村教授です。ハーバード大学は
遺伝学のロバート・ハンクス教授です」
「下村先生には私もお世話になっています」
鹿島は手を返したように丁寧な態度を取った。
亮は思った、東京大学の教授の威厳は凄い。
鹿島はスマフォでロバート・ハンクスを
検索して唖然とした。
「ノーベル賞医学賞候補・・・」
「はい、彼は遺伝と病気の関係の研究で
我々薬の研究員に予防薬の開発を
依頼して来ます」
「予防医学か・・・しかし、
あなたのような知識を持った人の
活躍できる方法がもっと
ありそうなものですが」
「僕は良い薬を作れば、一度に何万人も救えます、
それに最前線で人を救っている。
お医者さんの手助けになります」
「なるほど、ありがとう」
鹿島は男の脈を見ながら、笑みが浮んだ。
「もう安心だ、脈が安定した」
「先生それで、他の乗客の様子は?」
「他の人はまだ発病していない、大丈夫だろう」
「わかりました。ありがとうございました」
亮は立ち上がり機内の後ろに向かった。
「さあ、みんな我々はエコノミーに引っ越しましょう」
亮と美咲と一恵と小妹はエコノミークラスへ移動した。
「私だけエコノミーの食事だったわ」
美喜が不満そうに言うと、
が頭を下げて謝った。
「ごめんなさい、あと1回食事があるから
美喜が食べて」
「ありがとう!小妹好き!」
美喜は香港で3か月間一緒に暮らした
小妹が妹のように愛しく思っていた。
「團さん、お席の件申し訳ありません」
チーフパーサーの豊島が深々と頭を下げた。
「いいですよ、所詮我々はエコノミーの
方が似合っていますから」
元々亮たちはビジネスクラスだったが
スチュアート上院議員がファーストクラスに
変更してしまったのでビジネスクラスは
埋まっていたのだった。
チーフパーサーは亮の謙虚さに驚いていた。
「当社からお礼とお詫びに
何か用意するように伝えておきます」
「はい」
「豊島さん帰国してから四人には
検査を受けてもらってください」
「はい、わかりました」
「すみません、ビジネスクラスの
1席空いおります」
秋山が報告に来た。
「美咲さん、行ってください。
僕たちは近くにいた方が都合が良いので」
「わかった」
案内に来た秋山は亮が行かない
事に落ち込んでいた。
「良かった」
一恵は警察の美咲から離れて
ホッとしていた。
亮たちが四人がエコノミークラスの席に戻ると
事情が分かっている客達が亮たちを拍手で出迎えた。
「まずい!」
亮はうつむいて席に座り下を
向いたままの亮に向かって美咲が聞いた。
「どうするの?亮。
顔を知られたらせっかくの・・・」
「あはは、髭でも生やしますかね」
美喜と一恵と小妹が亮の顔を見ると
小妹が吹き出した。
「だめか」
「日本に着いたら当分の間
サングラスで顔を隠すしかないわね」
美喜が亮の顔を見た。
「はい」
亮は上着からケイトから貰った
サングラスを取ってかけた。
「怪しいけど、うふふ」
美喜が笑っていた。
亮は小妹の耳元で囁いた。
「亮凄かったよ。銅線の先から凄い気が出ていた」
「小妹、禁鍼穴31ヶ所以外に
秘穴をどれくらい知っている?」
「密穴11ヶ所。ここは刺してから1時間後に死ぬわ」
「まさか使っていないだろうな」
「残念ながら」
「絶対使うなよ」
「はい」
小妹が残念そうに言った。
「ところで、文明が暗鬼を
十人日本に遣すと言っていたけど」
「今日本に住んでいる三人は帰ってから
連絡をしてくる事になっているわ。
残りの七人はエキスパートだから私も知らない人たち
タイムリミットの頃に来ると思う」
「おい、暗鬼は日本に住んでいるのか?」
「うん、ちゃんと仕事をしているわ」
「えっ?人を殺して?」
亮の声が小さくなった。
「大丈夫、国家反逆罪の逃亡犯が日本に
逃げてきた時に処理するだけだから」
「そうか・・・」
亮は複雑な気持ちだが安心したが
処理方法は恐くて聞けなかった。
「小妹、文明が一文字を殺すタイムリミットが
5月8日。それまで絶対手を出すな」
「うん、それは聞いている。でもその前に
私の使命は亮を守ることだよ」
「ありがとうでも、大丈夫。日本は安全だ」
「それは安全だと錯覚しているだけ、
殺された人の死体が見つからないだけだよ」
亮は黙って聞いているしかなかった。
「日本は四方が海で囲まれているから密入国は簡単だし
偽造パスポートで簡単に入国できる」
「うん」
「犯罪が少ないのは日本が裕福なので
強盗や泥棒がすくないだけよ」
「そう言われるとそうだ」
美喜もそれを聞いてうなずいた。
「私もそう思うわ、日本人は平和ボケしている。
だから振り込め詐欺で400億円ものの
被害にあうのよ。だいたいオレオレと
言われて息子と信じる親なんて外国にいないわ」
「そうですね」
亮はため息をついてしばらく眠り
目を覚ますとファーストクラスの席へ行った。
「どうですか?」
亮が秋山に聞いた。
「はい、落ち着いたようです」
「そう、良かった。薬が効いたようですね」
「團さま、本当にありがとうございました」
「いいえ、到着すると取材が来ると思いますが
すべて鹿島先生にお願いします。
私は医師ではないので」
「分かりました」
「ところで、四人の食中毒の原因は機内食で
はないようです。発症の早い
セレウス菌や黄色ブドウ球菌のような
食中毒の極度下痢ではなく、
呼吸困難の症状が出ているので
おそらく飛行機に乗る前に菌に汚染されている
肉とかハムとかソーセージを食べたんでしょう」
「ほ、本当ですか?」
パーサーは安心して微笑んでいた。
そこへ秋山が来て小声で言った。
「團君、あなたに嘘をついて居たの」
「なんですか?」
「沙織に彼氏が出来たというのは嘘だったの」
「別にいいですよ。おかげで他に素敵な
女性達と出会いました。半年くらい前、沙織さんが
神戸で男性と食事をするのを見かけました」
秋山は凄い美人三人と美少女を連れている
亮を見て寂しそうに話をした。
亮たちは16時45時に空港に到着した。
救急車で運ばれる四人を横目に
到着口から外に出ると
二人の人相の悪い男が立っていた。
「お疲れ様です」
亮が二人に声をかけると二人は
野太い声で深々と頭を下げた
「あっ、お帰りなさいませ」
「気が付かなかったですか?」
「はい、まあ。以前と感じが変わっていまして」
二人はカートに亮と美咲と一恵と小妹と美咲
の荷物に乗せて運びながら亮は
気になって男の一人に聞いた。
「そんなに変わったかな?
サングラスをかけているからかな」
「なんか、がっちりしたと言うか、
男っぽくなったと言うか」
「そうですかありがとうございます」
外に止めてある黒いSUVに荷物を積み込み終わると
SUVは走り出した。
「会長が市ヶ谷の家でお待ちです」
亮は助手席の男に初めて話しかけた。