魔法と魔術
魔法と魔術。
ファンタジー小説で主人公や登場キャラに魔法や魔術を使わせている作者のみなさんなど、一度くらいは「魔術と魔法の違い」について疑問を持ったことがあるのではないでしょうか?
そもそも、日本においては「魔術」も「魔法」もほぼ同じ意味で使われていますが、ググって見ると違うんだよみたいなことを書いている人もいます。
言葉の本来の意味を知るためには、語源から探っていくのがベストです。
そこで「魔法」「魔術」のそれぞれの語源を調べて見ると-
【 魔 】
Wikipediaには:「魔とは一般に、人の心を惑わす悪鬼(悪魔)や災いをもたらす魑魅魍魎、人を一事に熱中させるもの(例:詩魔)や一事に偏執すること(例:電話魔)などを指す。
魔は、サンスクリット語のマーラの音写の短縮形である(漢字「魔」はその音訳のための造字とも言われる)。魔羅、殺者、障礙ともいう。仏道の修行を妨害したり、人の行う善事を妨げるものを指す。」
Wikiにある仏教由来の「魔」は、人の心を惑わす悪鬼(悪魔)や災いをもたらす魑魅魍魎とあり、「魔法」、「魔術」で使われている「魔」の意味とはまったく違ったものです。
これから見て、「魔法」「魔術」は後世に作られた造語だということがわかります。
【 法 】
Wikipediaには:「仏教における法(ほう、梵: dharma、巴: dhamma)とは、法則・真理、教法・説法、存在、具体的な存在を構成する要素的存在などのこと。本来は「保持するもの」「支持するもの」の意で、それらの働いてゆくすがたを意味して「秩序」「掟」「法則」「慣習」など様々な事柄を示す。」
とあり、語源はやはり仏教です。
法(dhamma)は、仏教の興起以前のインドで、長い間重要な意味を持っていた。「ヴェーダ時代には、「天則」・「理法」の意味をもつ「リタ」(ṛta)、「法度」を意味する「ヴラタ」(vrata) と併用されている。この「リタ」や「ヴラタ」は天地運行の支配者であり、四季(ṛtu)の循環などをも支配するもので、主に神意を表現する。これに対し「法」は人倫道徳を支配するもので、人間生活を秩序づけると考えられた。そこで「法」が、社会の秩序や家庭の秩序をさし、さらに人間の日課も「法」と言われた。」
この説明が興味深いですね。
”「天則」・「理法」の意味をもつ「リタ「法度」を意味する「ヴラタ」と併用されていて、この「リタ」や「ヴラタ」は天地運行の支配者であり、四季の循環などをも支配するもので、主に神意を表現する”というあたりが、「魔術」「魔法」と通じるところがありそうです。
なお、日本大百科全書には次の説明があります。
法ということばにあたる各国語は、その成り立ちや歴史の違いによって、その意味する内容が異なっている。
(1)語源 漢字の「法」はもと灋と書き、という獣に触れさせて正邪を決定したことに由来するという。字の由来について『説文』には「灋は刑なり。平らかなること水の如し。直からざる者に触るれば去る」とある。固有の日本語では、法は「のり」「おきて」などといわれたが、「のり」は「宣る」、すなわち神言を述べることを意味し、「おきて」は設定を意味する。
ヘブライ語のtorahは「教え」
ギリシア語のdikēは「慣習」
nomosは「配分」
ラテン語のiusは「命令」
lex(フランス語のloi)は「収集」
フランス語のdroitはラテン語のdirectumに由来し「整序されたもの」
ドイツ語のRechtは「正義」、
同じドイツ語のGesetzおよび英語のlawは「置かれたもの」を意味する語に由来すると言う。
(2)法と法則 lex, loi, Gesetz, lawなどのことばは「法」という意味と同時に、「法則」という意味をもっている。オーストリアの法学者・ハンス・ケルゼンHans Kelsen(1881―1973)によれば、これは未開人のアニミズムにおいて自然の万物もおのおのこの魂をもっており、相互に法で結ばれていると考えられていたからだという。たとえばギリシア語でaitiaということばが同時に「罪」と「原因」を意味するのは、古代ギリシア人が自然現象もなんらかの罪によって生ずると考えたからだという。
この説明の中で、“語源 漢字の「法」はもと灋と書き、『廌』という獣に触れさせて正邪を決定したことに由来する”というあたりが興味を引きます。
それと、“古来の未開人のアニミズムにおいて自然の万物もおのおのこの魂をもっており、相互に法で結ばれていると考えられていた”というところ。
「魔法」「魔術」との関連性がうかがえますね。
【 術 】
Wikipediaには:「術 (じゅつ)は、特別の技。技術。手段。方法。」とあります。
一方、国語辞典には:「術 の意味 · 1 人が身につける特別の技。技術。「剣の―」 · 2 手段。方法。てだて。すべ。「もはや施す―もなし」 · 3 策略。計略。はかりごと。たくらみ。」とあり、「魔術」に使われている「術」は、まさしく「魔(の力、効用)」を使う方法、手段となり、ピッタリしますね。
このように、語源などから見た結果、ファンタジー作品で使われている「魔法」「魔術」で使われている「魔」の意味は、本来の意味とはまったく違う意味、魔的なもの「人の心を惑わす... 災いをもたらす...」あたりからヒントを得た意味を使っていると言えるようです。
これに、仏教由来の「法」の意味である「秩序」「掟」「法則」を合わせて、「魔法」と言う言葉が生まれたと考えると納得がいくでしょう。
したがって、これらの意味から考えると、多くのサイトにも書かれているように、「魔術師」は使えるが「魔法師(士)」は使えないと言うのはおかしいことになります。
「魔法」を使うのであれば、「魔法師(士)」と言ってもおかしくない。それを使わないのは、やはりファンタジー作品を書く人たちが、あえて「魔術師」を使い、「魔法師」を使って来なかったためでしょう。