9話 質問の意味は、誰にも分からない
「お、重い……」
「頑張って下さい。後少しですよ」
何で俺がこんな目に……!
俺たちはあの後、1時間近くかけて必要な部分を採取して、それを運ぶためにマラフィーが創造魔法を使って荷車を造った。
だが、問題はそこからだった。
『これで全部乗せたな』
『疲れましたね』
『そうだな。だから早く運んで今日は休むぞ』
早く帰りたい。
俺はそんな事を思いつつ、剣をしまって歩き出した時だった。
『待ってください』
『なに』
『これ、誰が引くんですか』
てっきり俺は、マラフィーが魔法か何かで進めると思っていたのだ。
だが実際は、最初から俺に引かせるつもりだったらしい。
特に言葉にして言われたわけではないが、顔に書いてある。
『俺に引けと?』
『もう残りの魔力量も少なくなってきましたし、いざという時の為に残しておきたいですね』
『だから俺に引けと』
『はい』
『この重量わかる?』
『大丈夫です。全然引ける重量なので』
「引くの俺だけどな!』
とまぁ、そんな感じで俺が引くハメになってしまったのだ。
流石に腕が痛い。
「あ、見えてきましたよ」
「ぁ?」
引いても引いても変わらない景色に飽き、地面と睨み合いをしていた俺に、マラフィーが声をかけてきた。
前を向けば、数時間前に出発した国の門が見えた。
「やっと……見えた……」
「お疲れ様です」
これでやっと、解放される……。
本当に……到着だ……!
今度は国に入るために、もう一度検査を受けなければならない。
国を守る為に必要な事なのだろうが、正直面倒臭い。
というか、こんな国なんて滅びてしまえばいい。
そんな事を考えながらしばらく待っていると、やっと俺たちの順番が回って来た。
人が変わってるな。
また面倒くさい事にならないといいが。
「ん……? おい、その荷車に乗っている肉は何の肉だ?」
濃い髭を生やし、目に傷を負っている衛兵は、俺が引く荷車を指差して顔を顰めた。
「これは狂奕狼の肉です」
「ほう……狂奕狼か」
「おいおい…… 狂奕狼って確かレベル4だよな」
「マジかよ……あれは高く売れるぞ……!」
衛兵に続いて、後ろに並んでいたやつたちも勝手に騒ぎ始めた。
「狂奕狼の肉を持って来たってことは討伐したということだろう?」
「まぁ……」
「そいつは凄いな。よし。特に問題はない。通行を許可する」
「どうも」
あれ?
今回は特に何もないんだな。
と、思ったのも無駄なことだったらしい。
「おいおいおいおい。いいんすか!? こんなやつ通して!」
衛兵の若者の方は、俺たちの姿を見るなりずっと睨んできていたが、とうとう我慢ができなくなったらしい。
「コイツは犯罪者っすよ!」
「それがどうした」
「どうしたって……こんなやつ入れるべきじゃないっすよ! それにこの肉だって誰かから奪ったやつかもしれない!」
言いがかりもいいところだな。
奪ったかもしれないなんて、一々言っていたらキリがないだろうに。
「いいか。俺たちの仕事は検査をして、問題がなければ許可を出す。それが今の俺たちの仕事だ」
「だからって……!」
「すまないな。コイツが言ったことは謝る」
「大丈夫です。何かが起こるわけでもありませんから。行きましょう、ルドス様」
「……ああ」
「ここでいいのか?」
「はい。依頼者の家はここで間違いないです」
コンコンッ
「はい……」
俺がノックをすると、扉の向こうから女性の声が聞こえた。
「依頼達成の確認に来ました」
「今開けます」
軋むような音を鳴らしながら、ところどころ日々の入る扉が開かれると、そこにはマラフィーと同い年くらいの少女が出て来た。
「依頼を完了したので確認をお願いします」
一枚の紙を、俺はその少女の前に差し出す。
そもそも依頼というのは、依頼者から直接頼まれるわけではない。
まず依頼者は、依頼受付案内所という場所へ行き、依頼を申請する。
通常依頼は依頼案内板というものに張り出され、そこで目にした冒険者などが依頼を受ける。
だが、確実に依頼をこなしてもらいたい場合は、指名制が使用されて、依頼受付案内所から指名された者に依頼書が送られる。
そのあと依頼を受けた者は、依頼を受諾するか拒否するかを決めて、受諾した場合は決められた日付以内に依頼を完了する。
そして、完了後に依頼受付案内所に向かい、依頼達成確認の後、紙に印が押されそれを依頼書に持って行く。
そんな流れだ。
「凄い……まだ期限日まで余裕があったのに、もう終わらせるなんて……」
印が押された紙を見て、目を輝かせながら感心している。
てっきり適当な態度取られて、報酬を受け取って終わりになるかと思っていた。
まさか感心されるとは。
「一つ質問をしてもいいですか」
「……?」
「俺を見てどう思いますか?」
「どう……て、勇者様……と思いますね」
「それだけですか? 俺を憎いと感じたり、外道と思ったりしないのですか?」
「そんな事は思ったり……しませんけど……」
そんな事は思ったりしない、か……。
「分かりました。では報酬を受け取ってもよろしいでしょうか」
「あ、すいません。今とって来ます」
忘れていたのか、依頼人の少女は慌てながら部屋に戻って行った。
「なぜあのような事をお聞きになったのですか?」
「さぁ……何でだろうな」