8話 見える剣で、見えぬ刃で
俺は剣を構えて、体の力を抜く。
「フーーー……」
息を整えて、目の前で暴れている魔物へと全ての集中を注ぐ。
「閃光刹龍」
さぁ、これで今日の仕事も終わりだ。
俺の体は薄い白色の光に包まれ出して、獲物を捕らえるかのように地面を強く踏み込み、一気に狂奕狼との距離を詰めた。
「風魔法。空から舞い降りし暴風の刃。今ここに吹き荒れよ。暴切乱風」
何も説明をしていないのに、マラフィーは俺の攻撃に合わせるように風魔法を使った。
「ガルラララァァァァァァ!!!」
魔法の攻撃を食い止めようとしたのか、狂奕狼は俺から目を離してマラフィーに向かって咆哮した。
だが当然、そんなことでは魔法の攻撃は止まらない。
ゆっくりと吹いていた風は、次第に音を立てながら暴風へと変わっていき、岩をも切り裂く刃へと変化していった。
マラフィーは刃と化した風を、さっきと何も変わらない表情で操りながら、狂奕狼を襲っていく。
「ガアッ! ガルララァァァ!!!」
目で捉えることが出来なければ、躱すことも出来ない。
俺の剣でも少ししか傷つけることの出来なかった体を、問題なく切り裂いていく。
やはりマラフィーの魔法の技術は素晴らしい。
体を切り裂かれる痛みで、悲鳴に近い咆哮を上げると、後ろの2本の足だけで立ち上がって腹を見せた。
これは絶好のチャンスだな。
狂奕狼の皮膚はどの部分も硬いが、それでも腹部は一番弱い。
つまりアイツの弱点だ。
俺はこのチャンスは逃さないと、さらに地面を強く踏み込んで狂奕狼の心臓付近まで跳躍した。
「ガラララァァァァァァ!!!」
俺の存在に気づいた狂奕狼は、前足を地面に着地すると同時に俺を踏み潰す気のようだ。
だが残念だな。
俺の方がお前を早く殺せる。
閃光殺龍は、通常の斬撃の5倍の威力を出すことが出来る。
これは魔法ではなく、俺が独自で作り出した技だ。
さっきと比べて、威力が5倍も有れば、狂奕狼の皮膚でさえ簡単に切り裂ける。
俺は何も戸惑うことなく、深部にあるであろう心臓目掛けて横に剣を振った。
「グララァァァ……!」
皮膚を切り開き、骨、そして肉を断つ。
だがそれでも斬撃の威力は止まることなく、やがて心臓を切り裂いた。
「ガラァァ……」
口から血を噴き出しながら、ゆっくりと俺の方に傾いてきた。
「こっちに倒れて来んなよ」
もうすでに息のない狂奕狼に、もう一度下から斬撃を入れると、俺を避けていくように体が2つに分裂して、砂埃を立てながら地面に落下した。
「これで依頼達成ですね」
マラフィーはローブに付いた砂埃を手で払いながら、俺に近づいてきた。
「そうだな。こいつの皮や骨を持っていこう。高く売れるぞ」
「それなら肉も持っていきましょう」
「肉? 肉は売れないぞ」
「売るようではありません。私達用です。まだろくにお金もありませんので、しばらくこの肉で過ごしましょう」
「でも腐るだろ」
「大丈夫です。私が魔法を使って保存をしておきます」
「便利だな」
「はい。便利です」
俺は剣をしまって、短剣を取り出そうと腰に手をやる。
「あ……」
だが残念ながら、俺が求めていた短剣は無かった。
国に奪われたのを忘れていたのだ。
ちっ、思い出すだけで頭にくる。
俺は苛立つ気持ちを抑えて、たった今しまった剣をもう一度引き抜き右手に持った。
「なら、もう一仕事するか」
「そうしましょう」