7話 呪われし者の瞳には
俺たちはしばらく歩いて、今回討伐の依頼された魔物の住処の森にやってきていた。
「あとは探すだけだな」
「そうですね」
「そういえば、マラフィーって魔法を無詠唱で使えるんだな」
「まぁ、簡単なものなら」
「そうか」
そこで会話が途切れ、沈黙が流れる。
「一つ聞いてもいいか」
「はい」
「勘違いかもしれないが、もしかして魔眼を持っているか?」
「……」
マラフィーは俺の質問に答えず、ただ真っ直ぐと前に生える一輪の花だけをずっと眺めていた。
魔眼、それは選ばれた者しか持てない。
選ばれた、と言ってもどこかの偉い奴がお前にやろう、と言って手に入れれるわけではない。
魔眼を持っている者は、この地に生まれ落ちた瞬間から持っているのだ。
魔眼を持つ者はこの世界に何人もいるが、どれも被ることのない。
つまり性能が違うのだ。
例えば《水の魔眼》の場合、どれだけ魔力量が少なくても、全ての水の魔法を無詠唱で使用することが可能だと。
《火の魔眼》でも同じだ。
魔眼は他者からしたら、普段の生活では見分けることが出来ない。
だが唯一見分けることが出来る瞬間は、魔眼を使用した時だ。
魔眼を使用すると、普段の目の色とは全く違う色に光る。
その現象が、さっきマラフィーに起こったのだ。
「さっき俺はマラフィーの目が赤く光るのを見た。瞳の色が、本来の色とは全く異なる色に光るのは、魔眼を発動した時に起こる現象だ」
そしてしばらく、風で揺れる葉の音だけが響き渡った。
「……その通りです。私は魔眼を持っています」
一輪の花から目を逸らし、上を向きながらマラフィーは答えた。
「私の魔眼は、《呪いの魔眼》。この魔眼を発動すれば、私が思うように相手を呪うことが出来る。こんな風に」
そう言うと、合わせていたマラフィーの目がさっきのように赤く光り輝いた。
俺は反射的に胸を押さえた。
だが、俺の体には何の異変も起こらない。
「ルドラ様にかけたのではありません。後ろを見てください」
「え?」
マラフィーは俺の後ろに目線をやり、そこを振り返って見ると身体中に茶色の毛を生やし、剛腕と巨体を持つ魔物の姿があった。
だがピクリとも動くことなく、すでに息絶えていた。
後ろにコイツが居たなんて全く気付かなかった。
緊張感がねぇな。
「死んでるのか……」
「はい。心臓を潰しておきました」
「その魔眼で?」
「その通りです。ですが、この魔眼を使いすぎると目が痛くなってしまうので、あまり乱用は出来ません」
自分も痛くなる……。
魔眼を使いすぎて、己の目が傷付いていくなんて話聞いたことないんだけどなぁ……。
でも実際にマラフィーの目が、さっきと比べて明らかに充血してしまっている。
「なら今日は使うの禁止だな」
「あ……」
「なんだ? 散々罪を犯した奴が人の心配することがおかしいって言いたいのか?」
「違います。後ろを見てください」
「後ろ? さっきマラフィーが倒した……マジかよ……」
もう一度後ろを向いて見ると、そこには魔物の死体――だけでなく、その死体を喰らう大型の魔物がいた。
「グララララララァァァァ……!」
硬い肉でも噛みちぎることの出来る牙の隙間から、ボタボタと唾液を垂らし、全身の毛を逆立たせて四足歩行をする魔物。
「探す手間が省けましたね」
「そうだな。早く終わらせてしまおう」
俺たちの目の前にいる魔物の名前は、狂奕狼と呼ばれる今回の討伐依頼された魔物だ。
魔物は危険度により、レベル1からレベル5まで定められていて、狂奕狼はレベル4に指定されている。
普通の冒険者が1人で挑んだならば、コイツの餌になって人生終了だ。
「囚われし真力を解放させよ。身体強化」
マラフィーは詠唱をして、俺に身体強化の魔法をかけた。
そのおかげで、体が一気に軽くなり素早く行動することが出来る。
俺は足に力を入れて、一気にその場から駆け出す。
「グララララァァァァァァ!!!」
狂奕狼の咆哮が辺りの空気を震わせ、前足を振れば一瞬にして木々が破壊される。
だが、その前足を目掛けて剣を一閃する。
「硬いな」
さすがレベル4。
少し傷がつくくらいで断ち切ることができない。
「ならあれを使うか」
そして俺は、剣を構えた。