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4話 裏切り者はいつでも側に

 俺は3年前、国王により5人の勇者の中の1人に選ばれた。

 様々な依頼を問題なくこなし、国に貢献したことが理由だ。

 当然ながら他の勇者たちの実力は凄まじく、残念なことに勇者同士の模擬戦では数える程しか勝ったことがない。

 まあ要するに、最弱勇者というわけだ。

 

 しかし勇者となったからには、勇者の中で一番弱くても今まで以上に国に貢献していかなくてはならない。

 より一層増えた依頼に、多くの国との戦争。

 だが、俺は国全体で見ると実力は上位の方であったため、今まで通りに問題なくこなすことが出来た。


 そんな俺は、特別仲間を欲しいとは思っていなかったため、自ら募集することはなかったが、勇者となって1年が過ぎたある日、10人の冒険者が仲間にして欲しいと頼みに来た。

 それが、メナ達の出会いである。


 メナ達の実力は、冒険者の中でもトップクラスだったため、仲間にするデメリットは無いと考えてパーティーを組んだ。

 でも、この判断が俺にとって負の方向へ進んでいくことになるなど、この時は考えもしなかった。


 他の勇者達は随分と前からパーティーを組んでいたが、メナ達と俺はすぐに連携が取れるようになり、年間の勇者間の中で1番の功績をあげることが出来るようになった。






 「メナ!そっちに行ったぞ!」

 「はい!私達にお任せを!貴方達は後方で援護にまわって!」

 「了解です!」


 様々な依頼を経験してきた中で、1番大変だったのは天海竜の討伐だ。

 俺が攻撃しながら天海竜を引きつけて、その間にメナ達が急所を攻撃して絶命させる。

 少し危険な作戦でもあったが、当然ながらメナ達が失敗することなく急所を攻撃することに成功し、任務は無事終了した。


 「流石はメナ達だな」

 「これが私達の実力ですわ」

 「本当にメナ達が仲間になってくれて良かったよ」

 「尊敬するルドス様からのお言葉、大変光栄ですわ」


 いまだにあの時の会話が、共に過ごした日々が、頭の中で止まることなく再生される。


 皆で乗り越えてきた戦争に遠征、危険な旅、そして任務。

 その時にメナ達が俺に向けてきた笑顔、涙、弱音、信頼。

 全て嘘だったと言うなら……俺は一体何を信じればいい……。


 『ルドス様流石ですわ!』


 やめろ……。


 『私が弱かったばかりに……』


 やめてくれ……。


 『もう……こんなことなんか……』


 頼む……。


 『私はルドス様を信じています』


 やめろ!

 お前達の言うことなんか全て嘘だったんだ!

 あの笑顔も!

 涙も……! 


 そして気づくと、俺の周りはどこまでも続いていくような暗闇の中に立っていた。


 ここは……どこだ……?

 なんで俺はこんなところにいるんだ?


 すると突然、空中に巨大な映像が映し出された。


 あれは……俺の記憶?


 その映像には、様々な場面のメナ達が数秒おきに映し出されていった。


 俺に笑顔を向ける仲間、涙を流す仲間、そして俺に寄り添うメナ。


 なんだよ……こんなものを見せて何がしたいんだよ!

 もう俺に何も思い出させないでくれ……。

 頼むから……俺の頭の中から……消えてくれ……。






 「ルドス様、起きてください」

 「はっ……!」


 聞き慣れない声に起こされ、目を覚ますといつもとは違う天井が目に入った。


 「ここは……」

 「何寝ぼけてるんですか。さあ、早く起きてください。依頼を達成しに行かなければならないのでしょう?」

 「……そうだな」


 まだ少し重い体を無理やり起こして、窓から外を眺めた。


 結局昨日は判決が下された後に拘束がとかれ、監視者となった魔道士マラフィーに連れられてボロボロの宿に泊まった。

 当然ながらパーティーを追放されてしまったので、パーティーハウスに置いてある私物も全て取りに行けずに奪われてしまった。

 最初は部屋を分けて泊まろうかと思っていたが、残念ながら2部屋借りるお金が無かったため、同じ部屋で寝る羽目になってしまったのだ。


 「お前もついて来るのか?」

 「当たり前です。私は貴方の監視者なのですから」

 「……」

 「何ですか?」

 「いや、別に」


 どうせこいつもいつか俺のことを裏切るんだろうな。


 その後も、早く早くと急かされ続けて身支度を整えた。


 「ていうか俺、武器奪われたんだけど」

 「知ってますよ。だから私が作ってあげます」

 「作るだと?」


 俺の疑問に答えないまま、マラフィーは目を瞑ると詠唱を始めた。


 「力の使用者たる我の声に答えよ。全てを切り裂き、盾をも破壊する剣よ、ここに現れよ」


 部屋に凛とした声が響き渡る中、今にも崩れそうな木の床に魔法陣が出現し、マラフィーを中心に広がっていった。


 「これは……」


 マラフィーの胸の高さの位置に、細かい光が集まっていき何かを作り出していった。


 これは恐らく、無属性魔法の中でも上位に分類される創造魔法だろうな。

 だが、これを使えるものは上位魔法というだけあり、そうそういない。

 つまりコイツは、相当な実力を持っている魔道士ということだ。


 その何かは、次第に形を作っていき1本の剣となった。


 「はい。これで完成です。どうぞ」

 「……いいのか?」

 「私は魔法しか使えませんので。それに作ってしまったので貰って下さい」


 マラフィーの手から、俺の手の上へ剣が移されると、しっかりと金属の冷たさと重さを感じた。


 「傷が一つもなく作られている……」

 「この魔法はちょっと大変ですから、1日1回ぐらいしか使えません。頑張れば、2回使えますけどね」


 傷がひとつもなく創るというのは、あまり凄さを感じないかもしれないが、傷を一切つけずに創るというのは本当に難しいことらしい。


 今までに、何人か創造魔法を扱える人物と出会ったことがあるが、そいつらが創った物はどこかが破損しているか傷がついたりしていた。


 それにもかかわらず、傷をつけずに創ることの出来るマラフィーは……。


 「お前……」

 「感心してる時間なんてありませんよ。武器を手に入れたのですし、早く行きましょう」


 それだけ言い残すと、マラフィーは部屋を出て受付の方へ行ってしまった。


 ボロい部屋で1人きりとなり、魔法陣が消えた床を見たあともう一度窓から外の風景を見た。

 窓からは俺が裁判を受けた王宮が見えた。


 俺は昨日から犯罪者、か……。


 それにしても、どうしてマラフィーは俺のことを怖がったり罵ったりしないんだ?

 もしかしたらアイツはいいやつ……いや、騙されるな。


 どんなにアイツが俺に親切に接してきたとしても、結局は監視者なのだ。

 俺を見張って王へ報告する者。

 つまりあいつは、どれだけいいやつだとしても……


 「俺の敵だ」







 高級な家具が並び、木の床には絨毯が敷かれている。

 いかにも金持ちが住んでいそうな家は、昨日までルドスとパーティーメンバーが住んでいたシェアハウスだ。


 全てのパーティーとはいかないが、パーティーを組んだらそのメンバー全員で同じ家に住むことが多い。

 一緒に住んでいると情報共有がしやすいからだ。


 「クフフフ……。これだけの金貨を貰えればやりたい放題ね」

 「だな。それにしてもあいつ馬鹿だよな。まんまと俺たちに騙されやがった」

 

 10人は使うことのできそうな机が部屋の真ん中に置かれ、メナを始め6人がそれぞれ少し距離をとりながら椅子に座っている。

 それだけでかい机があって、わざわざ詰めて使う者はほとんどいない。

 そのでかい机の真ん中に座るのは、勿論元副リーダーのメナだ。


 「確かにルドスも馬鹿だけどさ、この国自体が馬鹿だよね。国王が馬鹿だとみんな馬鹿になるのかな?」

 「あ、国王を馬鹿にするのは犯罪だぞ。あのジジイだって頑張ってるんだからさ。あ」

 「はい、お前も馬鹿にした〜」


 メナの向かいに座る双子のオラルとリリスは、そんな下らないやりとりを行う。

 国王を侮辱することは、この国では重罪だ。

 もしこの事がバレれば、恐らく悲惨な事になる。

 だが、この中に今の会話をばらす者はいない。


 「ていうか、何であんなやり方したん? あそこにいた奴ら皆殺しにして高そうなヤツ持ってけばよかったんに」

 

 金貨を転がしながら、クレナは言う。


 「でもこっちの方が確実でしょ? 僕たちなら出来たかもだけど、あのやり方の方が安全且つ確実」

 「確かにそうやなぁ〜。でも暴れたかった」


 クレナは机に突っ伏す。

 どこか不満のようだ。


 「まぁ、こうして金貨も手に入ったことだし、次はもっと派手に行きましょう。ふふふ」

 「魔女や」

 「魔女がいるな」

 「出てけ魔女」

 「じゃあな魔女」

 「魔女さんさよなら〜」

 「魔女なんて失礼な! 聖女って呼んでもいいのよ?」

 「誰もよばねぇよ」


 そんな言い合いをする6人。

 だが、その6人全員は不気味な笑顔を浮かべている。

 自分たちがした行いを反省していない。

 後悔していない。

 ましてや、楽しんでいる。


 「でも、金貨100枚は驚いたわ。正直50枚ぐらいかと思っていたけど」


 この作戦は大成功ね。

 これで()()の期待にも応えられるわ。

 

 「今頃あいつどうなってるのかしら」

 「泣いてるんじゃない?」

 「キャハハ! それは面白い!」

 「でも僕たちは?」

 「泣くわけでもなく」

 「悲しむわけでもない」

 「ええそうよ」


 メナは金貨をかじる。


 「私たちは誰かを苦しめて、最後に笑う。なぜなら私たちは――」


 そして6人は、声高々に笑った。





 辺りはすっかり静まり返り、国は夜の暗闇に包まれる頃、家の扉を開けて花壇に腰を下ろす影があった。


 「おいクレナ、こんな真夜中に何やってんだ」

 「あれ? フリュズ、もしかして起こしちゃった?」


 花壇に腰を下ろしたまま、扉を開けて立っているフリュズを見上げた。


 「俺まだこの時間寝ねぇから」

 「体に悪いよ?」

 「もう慣れたわ」


 と、言いながらもフリュズの頭には寝癖がついている。

 今の今まで寝ていたのだろう。


 寒っ、と身震いをしながら扉をゆっくりと閉めてクレナの隣に腰を下ろす。


 「で、何をやってるんだ?」

 「涼んでただけやし」

 「嘘だろ」

 「その通り」

 「認めるのかよ」


 クレナは自分のすぐ横に咲いている花を撫でた。

 微笑みながら。


 「あいつといた時も楽しかったんやけどね」


 クレナの言う”あいつ“は言った誰を指すのか、フリュズはすぐに察した。

 

 冷たく、涼しい風が建物の間を駆け巡っていく。


 「まぁ……そうだな。あいつとは半年以上パーティー組んだからな」


 フリュズは空を見上げる。


 「楽しかったっていうのは否定しねぇよ」


 クレナはフリュズと反対の方向に咲く花から、一切目を離さない。


 「あいつを騙して、金貨100枚貰ってすごい楽しかった。でも……寂しさも感じた……」

 「……」


 クレナはようやく花から目を離し、前を向く。


 「もし、私とあいつがこんな出会い方をしなかったら、あのままずっとパーティーを組んでたのかな……」

 「騙したこと、後悔してるのか?」

 「……」


 クレナは俯き、冷たい空気を吸った。


 「俺も楽しかったよ。あいつとの生活は。普通に笑えて、普通に戦って、普通に遊んだ。だけど、俺はやったことを後悔してない」


 俯いていた顔を、クレナは少し上げる。


 「俺が普通のことが出来るのも、ボスのおかげだ。もし、ボスと出会ってなかったらこうやってお前と話してるどころか、死んでいたかもしれない。

 俺はボスに救われた。

 だから、俺は楽しい日々を捨ててもボスについて行きたい。お前はどうなんだ、クレナ」 


 フリュズのその言葉にクレナは、俯いていた顔をゆっくりと上げた。


 

 

 

 


 

 


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