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2話 勇者、そして監視者にも死を

 裏切り者の勇者ルドスの仲間達よ。この場で証言をしてもらいたい」

 「ええ、勇者でありながらも国を裏切る行為をしたことを、ここで全て証言させてもらいますわ」


 中央に向かって歩くたびに装備が音を鳴らし、メナは俺の横で立ち止まった。


 「それでは今から証言をしてもらおうかな」

 「はい。それでは先程の映像に映った出来事ですが、残念なことにこの国を裏切るような行為のほんの一部でしかありませんわ」


 メナは一体何を言っていたがるんだ。

 俺はこの国を裏切る行為なんて一度もしていないだろ。

 よくもそんなにでまかせが出てくるもんだな。


 「なんと。これ以外にも勇者ルドスは裏切り行為をしていたのか」

 「なんだと……」

 「全く。なんでこんなやつを勇者に選んだんだか」

 「こんな人間を、今まで様付けしていたなんて信じられない」


 クソ……!

 どいつもこいつも散々言いやがって……!


 「勇者ルドスは、日頃からこの国のことを非難しておりました。さらに、こんな国なんて滅んでしまえ、いつかこの国を混乱に陥れてやる、などとも言っておりました」

 「なんと……! それは本当か!」


 後ろで並んでいた他のパーティーメンバーに、国王は驚くような視線を送ると、全員迷わずに頷いた。


 「は? いやちょっと待てよ! 俺はそんなこと一言も――」

 「黙れ! 今貴様に発言権は無い!」


 ふざけるなよ!

 俺がお前らに一体何をしたって言うんだよ!


 「しかし、勇者ルドスの非道はこれだけではありません。勇者ルドスは、夜に外へ出るとそのままどこかへ向かう、ということが何日も続いておりました。

 疑問に思った私は、こっそりと後をつけてみると、1人で歩いている女性を見つけ声をかけて、強引に建物の中に連れて行きました」

 「お前! いい加減にしろ!」

 「はぁ? 何がですか?あなたが実際にしたことでしょう?」

 「こんなことをして許されると――」

 「もういい。勇者ルドスよ」


 俺の言葉は、国王の冷たく言い放たれた言葉によって遮られて、ざわついていた部屋に静寂が戻った。


 「お前は勇者でありながらなんということをしていたのか。本当に信じられない」

 「だから!こいつが言ったことは全て嘘なんだよ!なんで誰も俺の言うことを信じてくれないんだ!」


 声を張り上げて、俺は必死にメナの嘘を主張した。

 だが、俺に向かう視線は全て冷たいものだった。


 何が……一体お前らは俺を陥れて何がしたいって言うんだよ!


 「勇者ルドスのパーティーメンバーよ。前へ」

 「いいえ。私達はもう勇者ルドスの仲間ではございません」

 「そうだな。お前達は、仲間を裏切り、さらに国を裏切った勇者と仲間でいたのは、さぞ大変だっただろう。そんなお前達にはこれを受け取って欲しい」


 国王の前に、俺の横から移動したメナに続いて元パーティーメンバーは、一列に並んでいった。

 メナが一歩前出て、国王から何かが入っている大きな袋を受け取った。


 「この袋には金貨が100枚入っている。よくぞ我が国の裏切り者を見つけ出してくれた。心から感謝する」

 「やめてください。国王様。私は当たり前のことをしただけですわ。この国の裏切り者、そんな者を放っておくことなんて出来ませんもの。ね?」


 後ろを振り返って、俺の顔を見た後に受け取った袋に視線を移した。


 そうか……そういうことかよ……。


 「メナ、もしかして()()が目的で俺に冤罪をかけたんじゃないのか?」

 「何を言っているのかしら? そんな言いがかりはやめて欲しいわね」

 「そんなわけがない。じゃないと俺をこんな目に合わせる理由がないからな。

 勇者である俺を犯人として告発することによって、お前達に大金が支払われる。

それだけじゃない。

 国家反逆罪を犯した者を発見したことで、お前は人々から称賛される。どうだ? これで俺に冤罪をかける理由は十分だろ?」


 俺の反論によって、一時的に周りは静まり返ったが、すぐさま非難の声が浴びせられた。 


 「お前は今頃何を言っているんだ!!!」

 「貴様のしたことはこの国と他の勇者様達を汚したのだぞ!」

 「こんなやつは極刑だ!」

 「そうだそうだ!」


 こいつら……!

 こんな偽造された証拠なんかを信じて、口を開けば暴言ばかり!

 俺はこいつらを命をかけて守ってきた。

 それなのに……どうして誰も真実を見つけようとしない……!


 「静粛に」


 この国王の言葉を聞いた瞬間、判決が言い渡されるのを悟ったのか、さっきまで暴言を吐き散らかしていたやつ達はすぐさま口を閉じた。


 「勇者ルドスよ。お前が犯した国家反逆罪は、本来ならば国外追放だ。だが、今ここでお前を追放してしまうと敵国に我が国の情報を漏らされてしまう可能性がある」


 何が情報を漏らされてしまう可能性だよ。

 ろくに正しい情報を掴めないくせに、想像力だけは豊かなんだな。


 「そのため、追放が可能ではない場合は処刑となるが、お前はこの国の大きな戦力でもある。何かあった時は勇者として戦ってもらうからなぁ。だから殺してしまうのは惜しい。そのためお前は監視処分とする」


 監視処分、この単語が言い放たれた直後、この場にいる者に大きな衝撃が走っていったようだ。


 「なぜなのですか国王様!」

 「そうです!そんな勇者は処刑にすべきです!」

 「監視処分なんて軽すぎませんか!?」


 急にギャーギャーと騒ぎ出したせいで、室内は完璧に混乱してしまっている。


 でも、どうやメナと他の元パーティーメンバーは驚いていないようだ。

 まあそうだろうな。

 目当ては俺への判決ではなく、金なのだから。

 俺のことなど、どうでもいいのだろう。


 「確かに監視処分は軽いかもしれん。だが、勇者ルドスには特別な監視処分を行う」

 「特別な監視処分……?」

 「国王様は、一体何を考えていらっしゃるのだ?」


 特別、と付け加えられたことで、さらにこの場にいる者の興味が引きつけられた。


 「本来の監視処分は魔道士が魔法により空中から監視を行うだけだ。だが勇者ルドスに行う監視処分は、魔道士が直接監視を行う。それにより、魔法妨害などで監視から逃れることが不可能となる」


 俺に直接監視をつけるか……。

 だけど、それって俺が罪人(本当は冤罪だが)なのにも関わらず、そんな危険人物と誰かを一緒に過ごさせるということだろ?

 国王は俺のことを本当に罪人と思っているのにも関わらずに、なぜ魔道士にそんな危険な真似をさせるのだろうか。


 「そして、通常の監視処分の場合、魔法の追尾を逃れて逃亡しようとした、もしくは更なる罪を行なった場合、対象者は処刑が執行される。

 だが今回の場合、対象者である勇者ルドスが魔道士から逃げたり更なる罪を犯した場合、処刑となる。だが……」


 誰かの息を吸う音しか聞こえないほど、空間は静まり返る。


 「勇者ルドスの監視者に就く魔道士も、場合によっては共に処刑を行う」

 「なんと……!」

 「だが、それくらいはしないと逃げるかもしれないからな。流石に魔道士を見捨ててまでは逃げようとも思わないだろう」

 「監視者にされた魔道士は気の毒だが、我が国の為にも仕方がないことだ」

 「その魔導師もまともなやつではないんじゃないか?」

 「きっとそうだ。国王様が忠誠を誓う国民を危険な目に合わせるはずがない」


 ああ、なるほど。

 最初から魔道士の命なんかどうでもいいってことか。

 それにこの国の民も頭がイカれた奴らばかりだな。

 自分が選ばれないとわかったら、安全な場所から危険な場所にいる者へ上から言う。

 俺からしたらお前達もまともなやつじゃないんだよ。


 「勇者ルドスよ。貴様は勇者と言えど、何をしでかすかわからん。逃げた時に報告されるのを恐れて、魔道士を強引に連れて逃げる、ということは可能だ。しかし……」


 国王はニヤリと笑う。


 「魔道士の魔力は、禁魔の部屋にある魔石と繋がっている。その繋がりを通じて、魔道士の位置情報は定期的に送られてくる。

 もし仮にだが、連れて行くのではなく殺害したとしても、魔道士の生命活動が停止した時点ですぐさま魔石に変化が現れる。

 すぐに我が国の精鋭が貴様の元に駆けつけるだろう。貴様は逃げられない。

 少し大きな檻の中で、監視され続けるのだな」


 少し大きな檻。

 結局は檻だ。

 どこにいても監視され続け、怪しい行動をしたのなら処刑される。

 偽りで作られた罪で監視という檻の中に閉じ込められる。

 ふざけるなよ。

 俺は自由を奪われた。

 

 「おい、魔道士を連れてこい」


 近くにいたやつに国王はそう声をかけると、急いで奥の部屋へ走っていき、魔道士らしき人物を連れてきた。


 「魔道士よ、前へ」

 「はい」


 こんな大役を任されたにも関わらず、黒色に所々紫の線が入ったローブを纏い、紫の髪を伸ばし、髪の色と同じ瞳を持つ少女は、堂々とした声を響かせた。


 「この者が勇者ルドスの監視者だ」

 「私の名前はマラフィーと申します。国家反逆罪という国家の存続を脅かす重大な罪を勇者ルドスを、魔道士である私が責任を持って監視致します」


 先程まで、俺の監視者に選ばれた魔道士を悪く言っていた者達は、少女が現れたことにより驚愕の表情を見せていた。

 それもそうだろう。

 勇者を監視するという大役を、魔道士になったばかりのような少女が行うと知ったのだから。


 「勇者ルドスよ。お前が何かおかしなことをすれば、この若き魔道士はお前と共に処刑されることになる。くれぐれも、余分なことはするなよ」

 「お前達はこんな事をして、本当に人間か?」

 「ああ、勿論。人間だとも」


 そして国王は、不気味な笑顔を見せたのだった。

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