17話 何を考えているか分からない奴は、問題事を持ってくる
あぁ……疲れた……。
俺は部屋に置いてある椅子に腰掛けて、体の力を抜いていた。
今日一日で色々なことがありすぎて頭が痛い。
マラフィーは、今俺が居る隣の部屋に泊まっている。
依頼を達成した報酬がそこそこ良かったこともあり、2つの部屋に分けたのだ。
ちなみに、逃げられると困るということで、部屋の入り口の扉は魔法でロックされている。
逃げると面倒臭いから、逃げたりしないけどな。
今日あった出来事が、順番に頭の中を駆け巡っていく。
シュフランか……。
あの勇者、どう考えても国王と馴れ馴れしすぎだろ。
この国で住んでもう長い間経つが、今までにあんな馴れ馴れしく接する奴はいなかった。
もし、あんな風に接したら絶対拘束されるからな。
それに、国王が言っていたシュフランの独自で創り上げる魔法。
国の情報をいつでも手に入れることができるとか、どう考えても強すぎだろ。
ていうかそんな魔法なんて、創ることができるのか?
あの時は、色々あり過ぎて納得してしまったが、落ち着いて考えてみれば不思議なことばっかだな。
まぁ、考えても仕方がないか。
どうせ俺には関係にないことだ。
このまま、問題もなく……今日問題は起こしてしまったが……これ以上起こさず過ごしていければ何の問題ない。
着替えるために、椅子から立ち上がり服を脱ごうとした時、俺の部屋の扉の前に誰かが立っている気配がした。
マラフィーか?
でも、マラフィーならすぐにノックするはずだよな……。
なら、一体誰――
誰なのかを確認するために、扉に近づこうとしたら、突然扉が引かれた。
おいおい、やめてくれよ……。
いま今、問題を起こさないようにって思ったばかりなんだぞ!
もう一度扉が引かれるが、マラフィーの魔法でロックがかかっている為、開くことはない。
頼むから、マラフィー魔法頑張ってくれよ……!
だが、俺のそんな願いは一瞬にして崩れ去った。
「開かないじゃん。仕方がないか。こわそ」
そんな、どこかで聞いたことあるような声と同時に、俺の部屋の扉は凄まじい音を立てながら粉々に壊された。
破壊された扉は、跡形もなくなり、俺のベットや服の上に撒き散らされていた。
やりやがった。
マラフィーの魔法を無視して、破壊しやがった。
扉を壊したことをどうとも思っていないのか、パキパキと粉々になった扉の破片を踏みながら、1人の女が入ってくる。
「え、ぇ、え!? ルドス様!?」
隣の部屋から物凄く慌てた声が聞こえた直後、隣の部屋の扉が勢いよく開く音が聞こえる。
どうやらマラフィーは、今までにないほど慌てているようだ。
いつも冷静でいることが多かったから、少し驚いた。
あんな風に慌てるんだな。
て、今そんなこと言ってる場合じゃないだろ!
さっき聞いた声には、聞き覚えがある。
俺の耳が勘違いしていなければ、こいつは――
「こんばんは。ルドス・カーナベル君」
「やっぱりお前か。シュフラン・スクーガル」
着替えてしまった後なのか、マラフィーは装備も一切装着しないまま、柔らかい生地の服を纏う格好で俺の部屋の前に駆けつけた。
「えぇ……。私の魔法が……」
木っ端微塵に砕かれた扉の破片を見つめながら、唖然としている。
扉が砕け散るという異常事態に、自分の魔法が破られるという衝撃的な出来事のせいで、頭の中が混乱しているのだろう。
それよりも……。
「何の用だ。シュフラン・スクーガル。俺を殺しに来たか?」
俺の部屋の中でニコニコしながら立っている、シュフランという不審者を睨みつけながら、そう言い放つ。
「やだなぁ、殺すなんて。それに、シュフランでいいよ。これから、一緒にやっていく仲間なんだし」
「はぁ? それは一体どういう――」
「ということで! 今日からシュフラン・スクーガルは、ルドス君の仲間でーす!」
いやいやいやいや!
ちょっと待てよ!
仲間ってなんだよ。
話が急に進み過ぎだろ。
「なぜ、お前が仲間になろうとしてるのか分からんが、絶対お断りだ。
俺は今仲間とか受け付けてないし、それにこれ以上面倒事は増やしたくない。だから、ぶっ壊した扉の修理費を払って出て行ってくれよ」
俺は早く出て行け、という意味で手を払うジェスチャーをして、部屋に備えてあったほうきを手に取って、飛び散る破片を集めた。
こいつが俺に関わるようになったら、どんな未来になるか容易に想像ができる。
絶対に、毎回毎回問題を起こして、この国の奴らの目が俺に向けられてしまう。
ただでさえ、町を歩くだけで必ず視線を向けられるのに、これ以上目を付けられたら、たまったもんじゃない。
とにかく俺は、こいつと絶対関わらない。
出ていったか気になり、シュフランがいた場所に視線を向けると、ボヘッとした顔で突っ立っていた。
なんで一歩も動いてないんだよ。
変わったの表情だけだぞ。
「なぁ、なんでまだ居るんだよ」
「え?」
「あ?」
なんで、そんな不思議そうな顔をするのか。
シュフランの反応を聞いて、俺もつらてて変な反応をしてしまった。
「なんでって、仲間が仲間の部屋にいることって不思議なこと?」
「ん? はぁ……、あのな……」
手に持っていたほうきを、元あった場所に戻して頭をかいた。
「何を勘違いしてるのか知らないが、俺とお前は仲間じゃない」
「なんで?」
「なんでって何がだよ。いいか。俺とお前は今さっき、初めて会話をした。それなのに、仲間? 何を勘違いしたらそうなるのか分からない」
「でも」
そこでシュフランは言葉を止めて、俺に近づいてきた。
「国王様に、お前は、ルドスのもう1人の監視者に任命するって言われた。共に仲間として頑張るように、とも言われた。だから、ルドス君と私は仲間ってこと!」
「意味分からん。さぁ、早く出て行ってく――」
「国王様が言ったから仲間なのです! ということで、私は寝まーす」
そうシュフランは、俺に宣言してくると横を通り過ぎてベットに向かった。
手で木の破片を払うと、まるで自分の部屋にあるベットのように飛び込むと、そのまま目を瞑って寝てしまった。
なんなんだ……。
一体こいつはなんなんだ……!
俺は仮にも犯罪者だぞ!
よくもまあ、犯罪者の部屋で、それも犯罪者の隣で寝ることができるな。
俺には到底無理だ。
はぁ……本当にどうすれば良いんだよ。
もう今すぐここから逃げ出して、こいつから逃げるしかないか……。
マラフィーは現在放心状態の為、俺が頭の中でシュフランの対応を考えていると、すごい足音を立てながら宿の管理人が走ってきた。
「はぁ!? 扉が壊れてる! どうしたらこんな事になるんだ!」
全部シュフランのせいだ。
あのベットに寝てるシュフランのせいだ。
俺は何度もこう説明したが、なぜか俺が払う羽目になったのだった。