16話 新たな勇者が加わる時
もう情報が国王にまで伝わっているのか。
異常な速さだな。
国王がララクを俺の元に向かわせた理由が、さっきのことだとしたら、俺がクレバランを殺してパーティーメンバーと揉めている間に情報が伝わったという事になる。
何故こんなに早いのか。
もしかしたら俺はマラフィー以外に監視されているのか。
「なぁマラフィー。俺ってマラフィー以外からは監視されていないんだよな?」
俺は隣にいる立っているマラフィーにボソッと喋るかける。
「はい。通常は空中から監視されていますが、今回は私が直接監視していますので私以外監視していないと思います。ですが、もしかしたらもう一人の魔道士に空中から監視されている可能性も否定できません」
マジかよ……。
でも確かにあの時、通常は空中から行うが今回は直接監視を行うって言われただけで、空中からの監視をしないと言われたわけじゃないからな。
一体俺は何人に監視されているのか……。
いや、もしかしたらクレバランが監視されていた可能性もあるよな。
……考えれば考えるほど分からなくなる。
「言わなくても分かるだろう?」
「クレバランのことか」
「その通りだ」
まぁ、そうだよな。
聞かなくても分かったことだ。
俺はさらに言葉を続けようとすると、ファイスとメデューラルが口を挟んでくる。
「おい、クレバランの事って何だよ」
「私も知りたいですわ」
「何だ知らなかったのか。クレバランは死んだ」
「はぁ?」
「え……」
ララクは真顔のままそう言い放つ。
まるで赤の他人が死んだ時のような表情だ。
だが、そんなララクとは違い、メデューラルは顔を青ざめ、ファイスは驚いた表情を保ったままさらに質問を続けた。
「クレバランが死んだ? 一体誰に殺されたんだよ」
まさか同じ戦場に立ち、同じ称号をもらったやつがが死ぬとは思っていなかったのだろうな。
そして同じ戦場に立ち、同じ称号をもらった俺に殺されるとも――。
「俺だ。俺がクレバランを殺した」
俺の発言に、2人は動きを止めた。
当然その反応になるよな。
勇者の中で1番弱かった奴に負けたのだから。
「お前が殺した……? そんなわけないだろ。お前みたいな雑魚が勝てるわけがない」
「でも、実際に殺した」
「ファイスよ。ルドスが言うことは事実だ。クレバランはルドスに敗北した」
国王は俺の意見を肯定する。
こいつらの中では、国王が絶対。
つまり、俺が言ったことを信じなければいけないと言うことだ。
でも、信じたら信じたで、また別の疑問が生まれたようだ。
「お前……仲間を殺して何とも思わないのか……?」
やはりその質問が来るか。
どうせお前達だって、同じ勇者でも仲間だと思っていないくせに。
「何か思う思わないの前に、先に殺しにかかってきたのはクレバランの方だ。殺さなかったら、俺が殺られていた」
「だからって殺していいのかよ」
「なら、逆に聞くが、今からお前を殺すって言われて、お前達は黙って殺されるのかよ」
「そろそろいいかの」
俺たちの言い合いを、玉座に座りながら髭を撫でていた国王が、声を発した。
それと同時に、ファイスは俺を睨みながらも黙る。
国王は一人一人顔を見ていき、完全に黙ったことを確認すると、もう一度口を開いた。
「今日ここに呼んだのは、もう一人新たな勇者を加える」
新たな勇者を加えるだと?
普通に考えればクレバランの代わりだろうが、誰が考えても早すぎると思うだろうな。
まだ、1時間程しか経っていない。
勇者を加えると言うことは、国全体に関わる一大事だ。
だから、この場にいる者全員が動揺する。
ララクでさえも。
「国王様、それは一体――」
「説明は後だ。出てこい、シュフラン」
「はーい」
国王の手招きに、軽率な返事をしながら出て来たのは、光で反射する金髪を頭の横で縛り、金の瞳を持つ綺麗な顔立ちからは、想像が出来ないような剣を背中に背負う女だった。
「これから君たちの仲間になるシュフラン・スクーガルと言いまーす。よろしくお願いしまーす」
シュフランという女は、ニコッと笑みを浮かべながら、場違いの挨拶を部屋に響かせた。
「シュフラン、一つ訂正しておくが、俺たち勇者は仲間じゃない。ただ同じ称号を与えられただけだ」
流石はララク。
他の奴たちが動揺している中、シュフランに冷たい視線を向けながらそう言い放った。
それにしても、変な奴が勇者として加わってしまったな。
何故、あいつが新たな勇者に選ばれたか知らないが、国王は人を見る目がないのではないかと思ってしまう。
いや、多分実際にないのだろうな。
でなければ、あんないかにも頭のおかしそうな奴を仲間にしないだろうしな。
「ここ最近シュフランは力を付けていき勇者の称号を与えるには十分過ぎるくらいだ。そして今日偶然にも、丁度空白になった。その為、今をもってシュフラン・スクーガルを勇者として加える。異論のある者はいるか?」
国王は皆を見渡す。
「うむ? なんだ、ルドスよ」
誰も手を挙げない中、俺は躊躇せず手を挙げた。
「このタイミングで挙げたが、正直シュフランが新たな勇者になろうがどうでもいい。だが、一つ聞きたいことがある」
「なんだ」
「俺とクレバランの情報が、なんでそんなにも速く伝わったんだ? どう考えても速すぎる。マラフィー以外にも、俺に監視をつけているのか?」
俺の質問に、玉座に肘をついて髭を触りながら、国王は答えた。
「いや。マラフィー以外に監視はつけていない。そして何故こんなにも情報が伝わったかと言えば、シュフランのおかげだ。シュフランは、そういう事が得意だ」
「そういう事?」
「そうだ。シュフランは独自で創り上げた魔法で、いつでもこの国の情報を手に入れることができる」
それは凄いな。
素直に感心してしまう。
それだけすごい魔法なら、相当な時間をかけて創ったのだろう。
「他の者は何かないか?」
国王はもう一度見渡すが、今度は誰も手を挙げない。
「緊急の招集に集まってくれた事に感謝する。では、本日は解散とする」
そうして俺たちは、この最悪な部屋を後にした。




