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12話 消えぬな命、ならば狩れ

 俺達は命を奪わないと先に進むことは出来ないのか?

 戦争でも、一体何人の敵兵を斬り殺した?

 依頼を達成するために幾つの魔物の命を奪った?


 もう俺の手は、赤く染まる場所が他にないほど血で染まってしまった。

 血は洗えば取れる。

 だが、俺の目に染み付いた血は、どれだけ洗っても取ることはできない。


 斬って、殺して、命を奪う。

 俺達はそうしないと生きていけない。

 

 奪われる前に奪え。

 自分の命を差し出したくなかったら、相手の命を奪え。

 たとえそいつが、共に戦った者だったとしても。


 剣を強く握りしめる。

 生きるために。

 死なないために。


 「なら、殺し合おうや」


 周りのざわめきは聞こえない。

 ただ聞こえるのは、俺の心臓の音と、呼吸の音。

 

 同時に踏み出す。


 相手に気づかれないように訓練された、音を消すその足の動かし方で。

 だが、見えてしまってる為意味がない。

 今この場で意味があるのは、力だけ。


 見逃すな。

 たった些細な動きでも全て頭に叩き込め。


 クレバランは、何一つ無駄のない動きでも俺の首を狙ってくる。

 俺の攻撃を受けないように、姿勢を低くしながらまるで毒蛇のように素早く動き、剣を振るう。


 だが、俺だって勇者だ。

 何度も戦場に赴き、何度も命を失いかけた。

 その経験を生かせ。


 俺の首に下から迫る剣を、横側から受け止めて受け流す。


 「おお、まさか今の攻撃を受け流すんやな。最初から殺すつもりで行ったのになぁ」

 「なめるなよ。俺だって勇者だ。そう簡単にやられてたまるか」

 「そうやったなぁ。あんたも勇者やったなぁ……」


 握っていた剣から左手を離し、右手だけで握ったまま剣を下ろした。

 つまり、()()()()()()()()のだ。


 あいつは何を考えている。

 敵が目の前にいるにも関わらず、何故剣を下げるのか?

 いや、もしかしたらこれも作戦かも――


 「なんかムカつくなぁ。あんたと同じ土俵に立ってんのは」


 空いている左手で顔を覆って、不気味な笑みを浮かべる口と片目だけ俺に向けてくる。

 そして、消えた。


 「どこに消えた……!」


 俺の目に問題が発生したわけではない。

 忽然と、音も何も立てずに消えたのだ。

 まるでその場には最初から居なかったように。


 「お前がぁ」

  

 後ろだ!

 俺は振り向きざまに、相手の首目掛けて剣を振るう。

 だが、何も手応えを感じない。

 それは当然だ。

 そこにないものに、どれだけ剣を振るっても当たることは無いのだから。


 「ガァッ……!」

 「ルドス様……!」

 

 突如、背中から腹に向けて焼かれるような痛みが走る。

 

 「お前が同じ勇者ってムカつくんや」


 クソッ……。

 俺はまんまと騙された……。

 冷静に考えれば、後ろから攻撃するのにわざわざ声を出すわけがない。

 後ろから声をかけたのは、俺の背後を完璧に取るため。

 

 何でそんな事にも気付けなかったんだ……!

 俺はクレバランに踊らされていただけじゃないか……!


 俺の体に刺さった剣を引き抜かれてもなお、焼けるような感覚は次第に増していく。

 

 「これは……やられたな……」


 どう考えても傷が深い。

 背中から剣が貫通してしまった。

 

 血が回らなくなったせいか、頭がフラフラし始めて地面に膝をついてしまった。

 

 「おいおい、あいつ死ぬんじゃね」

 「でもいいっしょ。これで厄介者が消える」

 「処刑される日がただ早まっただけでしょ」

 「しかし流石はクレバラン様だ。あの方の動きが一切見えなかった」

 「それに比べてあいつは……」


 あぁ……こういう時でも嫌なことは絶えずに聞こえてくるんだな……。

 それにしても……処刑が早まっただけ……か……。


 「これ以上あんたに手を出すと俺の評価に影響があるかもしれん。だからここで死ねや」


 吐きしてる言うと、剣に付いた血を払いしまいながらパーティーメンバーの所へ向かって行った。


 待てよ……まだ終わってねぇぞ……。

 声が出ない。

 視界がぼやけてしまう。

 でも俺は……戦わないと……。


 野次馬に紛れて俺たちの戦いを見守っていたマラフィーは、顔を真っ青にしながら駆け寄ってきて俺の傷口に手を当てた。

 

 「ルドス様……! 私が今すぐ魔法で処置いたしますので安静に――」


 俺の傷を処置するために伸ばしてくれた手を、上手く力の入らない手で掴んだ。


 「ルドス様……?」

 「お前は何もするな」

 「しかし、この傷では……!」

 「これは俺とクレバランの戦いだ。あと、処置くらいは自分で出来る」


 激しい痛みが走る傷口に手を当てて、何とかして血を止める。


 「これならまだいけるな……」

 「まだ戦うつもりですか! その傷ではもう――」

 「お前はあんなに言われて悔しくないのか」

 「それは……」

 「俺は悔しいよ。それと……」

 

 血を止めたところで足のフラフラが治るわけではない。

 地面に横たわっている剣を拾い上げて、それを地面について立ち上がった。

 

 勝手に偽りの罪で犯罪者にされ、町を歩くたびに暴言を吐かれる。

 そして、剣で刺されて俺の負け。

 ふざけるなよ。

 そんなの俺がいいと思うわけねぇだろ。


 それなのによ……。


 「お前ら、勝手に俺のこと殺すんじゃねぇよ」


 

 

 


 

 


 

 


 

 


 


 


 



 

 

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