11話 いつでも苦しめる奴は現れる
周りが騒然となる。
それはそうだろう。
街の真ん中で、しかも勇者同士で争いが起きているのだから。
「あんた何やってんのか分かってんの!?」
「クレバラン様に剣を向けるなど――」
「黙れ。お前らじゃどうせ俺に勝てないだろ。俺に勝てない奴が口出しするな」
クレバランのパーティーメンバーを黙らせた後、視点を目の前に戻してそいつを睨みつける。
「お前、どう言うつもりでその事を言ったんだ」
「人殺しのことかな……?」
クレバランは少し焦りを感じているようだ。
余裕をこいて口を開いていたら、いつの間にか首元に剣が当てられている。
そんなことが起これば焦って当然だろう。
「そうに決まってるだろ。何で今、ここでそれを言う必要があった」
額に少量の汗を浮かばせながらクレバランは笑う。
「そんなん決まってるやろ。あんたらを苦しめるためや」
「はぁ?」
「俺はお前が苦しむのを見るのが好きや。やから、監視者の悪事をこの場で言って国民からイメージを下げて罵声させる。そしたらお前は苦しむやろ」
「俺は苦しまない。マラフィーは俺の監視者だ。何を言われようが気にならない」
「ほんまに?」
「ああ」
「でもさ、お前今、監視者のこと助けてるやん」
「それは……」
確かにマラフィーを助けなくても別に良かった。
でも、体が勝手に動いてしまって……
「だから結局、お前が苦しむことになるや、ろ!」
「チッ!」
俺の意識が一瞬それた隙に、背中から剣を引き抜いて剣を弾かれた。
「さぁ、どうやって苦しめようか」
「こんなところで殺りあうつもりか」
「当たり前やろ。でもここで戦うと、あんた最悪処刑されるからな。俺にとっては都合がええんや」
この状況をいったいどうやって抜け出すか。
このまま戦闘を始めたら、俺が全て悪いことになってクレバランの言うように本当に処刑されかねない。
でも、戦わなければクレバランに殺される。
コイツは勇者であっても色々腐っている。
だから、俺を本当に殺すつもりでいるはずだ。
実際に模擬戦で何度か殺されかけたからな。
そして殺しても先にルドスに攻撃された、とでも言って自分の無罪を主張するのだろう。
こうなったら戦って、その後どこかへ逃げるしかないか?
でも見つかったら死刑は免れない。
俺は勇者というだけあり、他国にも顔が知れ渡っている。
逃げても見つけられるのは時間の問題だろう。
「確かに……死ぬのは免れないかもな」
「へぇ……分かっとるやん」
俺と比べて随分余裕をこき、片手で剣を握って構えてすらいない。
だが、目だけは違う。
俺の一つの動きも見逃さず殺す、そんな目だ。
「ルドス様……私は大丈夫です。だから……」
まだ少し震えているが、右手で左腕を握って何とか震えを抑えようとしていた。
「これはマラフィーだけの問題じゃなく、俺とクレバラン問題でもある」
「ルドス様……」
クレバランは体が震えるような笑顔を顔に浮かべる。
「なら、死んでもらうな」
「死ぬのはお前だ。クレバラン」
辺りのざわめきは、少しずつ、ゆっくりと俺の頭から排除されていく。
今することは、目の前の奴を殺すこと。
それだけに意識を全て向けろ。




