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10話 その手は震えている

 今回の依頼達成で、受け取った報酬は銀貨50枚。

 今回は、レベル4の魔物とあっただけあり報酬は多めだ。


 「これだけあれば、しばらくは宿に泊まれますね」

 「そうだな。後は食料とか装備にあとは――」

 「あれあれ? こんなところで何してるん? 裏切り勇者ぁー」

 

 今回の報酬を何に使うか考えていると、聞き覚えのある声が聞こえた。

 さらに複数人の笑い声がする。

 

 「おいおい無視すんなや。俺たち同じ勇者やん」


 そう。

 俺を煽って呼び止めたのは、5人の勇者の1人であるクレバラン・オーラだ。

 こいつは、正直言って本当にめんどくさいやつだ。

 俺がこんなことになる前から、何かと嫌がらせをしてきていた。

 

 だから俺はこいつが嫌いだ。

 

 俺が無視をするために振り返らずにいると、マラフィーは俺とは違い振り返った。

 

 「こんにちは。クレバラン様」


 マラフィーは丁寧に挨拶をし、頭を下げた。


 「なんや。近くで見ると魔道士さんかわええな。うちのパーティーに入らんか?」

 「すみません。私はルドス様の監視者ですので」

 「そっか。残念やなぁ。そんな勇者と一緒におらんとあかんのは」


 憎たらしい笑顔を向けてきながら、さらに煽ってくる。

 だが、俺も言われっぱなしでは困る。

 

 「よっぽどお前より俺の方がマシだと思うんだけどな」 

 「はぁ? お前何言ってんや?」

 「あんな奴らに騙されて、それでも勇者かよ」

 「あぁ? お前俺に勝てへんくせに何言うてんねん」

 「そんな事は今関係ない」

 「関係あるに決まっとるやろ。この世界は力が絶対。俺に勝てへんお前は俺に口答えすんなや」

 「そうよそうよ」

 「クレバラン様に歯向かってんじゃねぇよ!」


 クレバランの背後にいたやつのパーティーメンバーも、流れにのって俺にヤジを飛ばしてくる。

 

 「なんだなんだ?」

 「勇者同士が揉めてるぞ!」

 「勇者同士って言っても片方は裏切り者だけどな」


 人通りの多い場所で言い争ってしまったため、近くで買い物をしていた者達が、俺たちを囲うように集まって来てしまった。


 「勇者対裏切り勇者か」

 「分かりやすく言ったら正義対悪だな」


 はぁ?

 何が正義対悪だよ。

 何で俺が勝手に悪者にされてんだよ……!

 俺はお前達を守って来たのに……!

 

 そこで俺は何かがプチッと切れた音がした。

 俺が命をかけて守って来た存在から、罵声を浴びせられる。

 俺が守って来なかったら、今無い命だってあるんだぞ!

 感謝の気持ちも忘れて、簡単に相手を罵れる命なんざ……


 「消えちまえよ」

 「はぁ? お前何ボソボソ言うてんねん」

 「黙れ。お前ら1人ずつ斬りころ――」

 

 頭が真っ白になり、言ってはいけないことまで口から溢れそうになった時、隣から力強く腕を握られた。


 「黙ってください」


 どんな強敵でも対応できるように鍛えた俺の腕は、マラフィー程の力では痛みなど殆どないに等しい。

 だが、マラフィーから伝わったのは力ではなく、特別な何かが流れてきて……。


 「これから用があるので失礼します」


 そのまま俺の腕を放す事なく引っ張り、俺たちの様子を見に来た野次馬達に向かって行った。


 「ちょっと待てや」

 「なんだ。 まだ何か用が――」

 「お前や無い。その隣におる魔道士にや」

 

 何でクレバランがマラフィーに用があるんだ?

 もしかして、まだ自分のパーティーに入れることを諦めていないのか。

 

 少し冷静になった頭で色々考えたが、そんな事とは全く別のことだった。


 「あんたについて色々聞いたんやけどな……人殺したことあるやろ」

 

 人殺し、この言葉にあたりにいた者達は一斉に息を呑む。

 確か、俺たちが止まっていた宿を出た時にも通行人から同じような事を言われていたような気がする。

 

 「マラ――」

 

 え……?

 こいつの手……


 「あんたが魔法科学校にいた時の話やろ。ちょっと聞かせてくれんか? 人を殺した時の話を」


 今だに俺の腕をはなそうとしない華奢な腕。

 だがさっきとは違う。

 この場から離れるために、俺を強く握った手とは違い、今は助けを求めているようなそんな手だった。

 

 何故そんなふうに思ったか。

 それは、俺を掴むこいつの手が()()()()()から。


 「人殺しだってよ」

 「それが本当ならやばいんじゃない?」

 「だよなぁ」

 「国王様は知ってるのか?」


 野次馬の反応も次第に大きくなっていく。

 それにつれて、マラフィーの震えも増していく。


 「なぁ、教えてくれん? 何で殺したか、さ」


 クレバランは笑う。

 

 あぁ、こいつは何を考えているのだろうか。

 昔からこいつのことはよく分からない。

 何故俺に構うのか。

 本当にわからなかった。

 だからこそ俺は無視をしてきた。


 さっきは反応をしてしまったが、あれはどちらかと言えば野次馬に頭に来てしまった。

 正直クレバランとパーティーメンバーだけだったなら、適当に言い合いをして終わっていただろう。


 こいつに反応すれば面倒ごとが増える。

 さっきだって反応してしまったせいで、面倒ごとが増えてしまった。

 だから今は、クレバランも野次馬も、皆んな無視をしてこの場から離れて仕舞えば、何も面倒なことは起こらない。


 この場から離れて仕舞えば――

 

 「っ……」

 

 震える手で腕が強く握られる。

 まるで助けてくれと言わんばかりに。


 やめてくれよ。

 マラフィーは俺の監視者なんだ。

 仲間でも友人でも何でも無い。

 だから助ける必要はない。

 無視して、この場から離れればそれでいい。


 「ねぇ? 教えてよ。人を殺すのはどんな気持ち――」

 「お前、黙らないと殺すぞ」

 「えぇ?」


 別にこんなことしなくてもいいのに。

 この場から離れればよかったのに。

 何故俺は、クレバランの首に剣を当てているのだろうか。


 俺は震える手を優しく掴むと、落ち着かせるように俺の腕から離した。

 そして剣を引き抜き、クレバランに剣を向けたのだ。


 「なんや……お前は興味ないん――」

 「黙れって言ってるだろ。今自分がどういう状況に置かれているか考えるんだな」




 


 

 


 


 

 

 


 

 

 

 

 

 


 

 


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