1話 なぜ、俺はここにいるのか
俺を囲う人々の視線は、酷く冷たくて、心底失望したようなものだった。
俺が何をしたというのか。
なぜこんな目に遭わなければいけないのか。
「おい、なんだ貴様。その目は」
「なんだと申されましても、普通の目です」
高価な物が幾つも飾られている、広々とした空間に、玉座に腰をかける国王であるノルヴァルの声が響き渡った。
俺は現在、重大な罪を犯してしまい、裁判にかけられていた。
だが、これは冤罪だ。
実際にはしていないのにも関わらず、裁判にかけられることになってしまったのだ。
それにもかかわらず、貴族や国民は、俺に重い刑が下ることを望んでいた。
「勇者ルドス・カーナベルよ。貴様は勇者でありながら、重大な罪を犯した。一体何の罪かわかるよな?」
「いえ、全く分かりません」
冤罪で裁判にかけられてしまっている俺だが、実はこの国の勇者に選ばれている。
勇者は全員で五人存在していて、この国の主戦力となっている。
だから当然、俺以外の勇者もこの場に参加していた。
「ちっ! 忌々しい奴め!
貴様は、敵国に我が国の情報を漏洩させたのだぞ! つまり貴様は国家反逆罪を犯したのだ! 国を守る勇者でもありながらな!」
「それは何かの間違えだ。俺は何もやってない。何を根拠にそんなに信じているんだ」
全く、勘違いも程々に……いや、ちょっと待てよ。
ここに連れて来させられてからバカ馬鹿しいと思っていたが、もしかしたらこれは誰かにはめられているのではないか?
普通に考えて、国民や兵士が勇者である俺に冤罪をかけようにも簡単にはいかないだろう。
それに、もし見間違えられたりしていたとしても、もう少し調査が行われるはずだ。
なら、もしこの冤罪が誰かにはめられたものだとしたら……犯人は一気に絞られてくる。
この国で発言力の大きな者、もしくは――。
「証拠だと? そんなものあるに決まっているだろ」
「……」
「これを見ろ」
国王は嘲笑うかのように、巨大な映像を空中に流した。
国王が得意とする光魔法で映し出しているのだろうな。
その巨大な映像には、俺の姿と俺が創ったパーティーのメンバー達が映し出されていた。
そして映像とともに音声も流れ出した。
光魔法は自らは音声を作り出すことはできない。
だが、水晶に映像とともに音声を保存し、それを光魔法によって映し出す場合は音声を出すことが可能だ。
つまりこの映像は、パーティーメンバーが国王に提供したということだ。
しかし、映像の提供者が判明したところで、この映像が止まることはない。
『俺はこれから敵国に行って、この国の情報を伝えに行く』
『やめてよルドス様!』
『そうです! そんなことをしたらこの国は――』
『黙れ! 俺にとってこんな国はどうでもいい! こんな勇者なんてやっていられるか!』
『ルドス様!』
そこで映像が停止されて、空中から姿を消した。
今の衝撃的な映像により、周りにいた国民はざわざわとし始めた。
「どうだ? これが何よりもの証拠だ。クククッ」
証拠……こんなものが証拠かよ……!
当然ながら、俺はパーティーメンバーとこんな会話をしたことは一切ない。
つまりこの映像は、様々な魔法が掛け合わされて作られた合成映像だ。
恐らくこの水晶はコピーされた物のはずだ。
この映像が保管されている水晶を見つければ、簡単に嘘を暴くことが出来る。
だが、俺が水晶を見つける方法はない。
しかし、なぜあいつらはこんな真似を――!
国王が口を押さえて笑い始めるのと同時に、俺の後ろの扉がゆっくりと開かれてパーティーメンバーが入ってきた。
なんで……何でだよ……!
俺の頭の中で今までの出来事がフラッシュバックする。
俺を騙したのかよ……。
長い間仲間としてやってきたのに!
すると、だんだん悲しみが怒りへと変わっていくのを感じた。
ふざけるなよ……!
何で俺を騙した……!
俺が一体何をしたって言うんだ!
だが、湧き出てくる怒りをどうにか押し殺してコツコツと足音を立てて近づいてくるパーティーメンバー達に声をかけた。
「なあ、お前らがはめやがったな?」
「はめた? 何を言っているのか分からないですね。勇者様。フフフ」
俺のパーティーの副リーダー、メナの冷たい眼差しとともに俺にしか気づくことのできない程の笑顔を見せてきた。