大魔王を倒したっていうのに、なんでカインは帰ってこないのよ!? 別れる時に、「大魔王を倒したら結婚しよう」って言ってたくせに! こうなったら絶対見つけ出して一発なぐってやんなきゃ気が済まないんだから!
そして村を飛び出して2分、私はついにカインの奴を見つけ出した。
あのトーヘンボク、やっぱり村のすぐ裏手の森に隠れてた! 昔から何か嫌なことがあると、いつも隠れるのはあそこの洞窟だった。中にきれいな川が流れてて、火も使えて、周りは食べられる果物がいろいろ採れて、私とカインだけの秘密の隠れ家。私たちはいつもあそこで――って、そんな小さい頃の思い出にひたっている場合じゃなかった。
のほほんと洞窟から出てきたアイツの前に、私は素早く立ちはだかる。
「メ、メアリー!? どうしてここが――」
「どうして? 幼なじみナメんな! さあ、どうして約束を破ったのか、教えてもらいましょうか、カイン? 事と次第によっては――」
言いながら拳を構えた矢先、カインの後ろから小さな女の子が姿を表した。それも2人も。
そして――
「……パパ、知ってる人?」「ヒト……?」
“パパ”!? “パパ”ですってぇ……!?
「ちょっ、メアリー、これには訳が――」
稲妻よりも速い速度で私の右フックが奴の顔にめり込んだ。次は左ストレート。そのまま右、左、右、左、と立て続けに拳をめり込ませる。顔に、腹に、みぞおちに。
ふと気が付くと、さっきの女の子たちがシクシク泣いていた。
「パパを……もう、いじめないで……」「で……」
時すでに遅し。カインはもう虫の息だった。
川の水で冷やしてあげると、少しは人間らしい顔に戻った。まったく世話が焼けるんだから!
だけど話を聞くと、またまたとんでもない話だった。倒した大魔王の死にぎわに、娘を託されたのだという。それも2人も。
私は呆れ返った。
「あんたバカなの? こんな小さな女の子2人、それも大魔王の娘を、かくまいながらあんた1人で育てるなんて、無理に決まってるでしょう!」
カインはムスッとして答える。
「無理じゃない。無理だと思ったら、できることだってできなくなる」
その言葉に、私は思い出した。
そういえば、村を出る時もそんなこと言ってたっけ、こいつ。
私は大きくため息をついた。
「しゃーない、あたしも手伝うわ!」
大きく目を見開いたカインに、帰ってきたら見せようと思っていた、とっておきの笑顔を見せた。
「もう決めたからね? 今度は、置いて行かせないわよ?」
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