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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ハムスターと助手と天井

作者: 槇田モスモス

 窓の外が明るくなってきた。もう何時間こうしてるのか。

 フローリングに横たわって、天井を見上げている。点と線が混じったような模様が見える。モールス信号のように、この模様にはメッセージがあるのかもしれない。伝わらないメッセージほど意味のないものもない。どんなに意味が込められていようと伝わらないなら無意味と変わらない。この天井に意味はない。模様が変わろうと気づかない。私の存在はこの天井と同じだと思っていた。

 テーブルに乗せられたケージから物音がする。中に居るハムスターのカウンセラー(以下ハムンセラー)が私の心情に点数をつけてストレスレベルを測っている。穴を掘り始めた。ストレスレベルは低いらしい。大変正確である。

 ハムンセラーは優秀だ。人間のカウンセラーは仕事が無くなったので、ハムンセラーの助手として生計を立てている。もっとも自分はカウンセラーではない。この部屋の人間がハムンセラーの助手だったのだ。


 ハムンセラーは言語を喋らない。代わり助手が言語を喋る。私は職場にカウンセリングを勧められるがまま、マンションの一室に訪れた。ハムンセラーと男が居た。

 ハムンセラーは大きめのジャンガリアンハムスターのように見えた。淡々と何かの粒を食べている。

 男は、ハムンセラーの助手で恩田と名乗った。恩田は私より若く見えるが、身なりや態度が落ち着いており、同い年と言われても違和感がないような男だった。


 ハムンセラーの感覚カウンセリングは素晴らしかった。しかし恩田の言語カウンセリングは、とにかく傾聴と確認と共感を繰り返していた。同じことの繰り返しに、だんだん怒りが沸く。

 3回目のカウンセリング。恩田の態度はまったく変わらない。ストレスレベルが上がりハムンセラーは滑車を回す。困らせるつもりで「恩田を殺したい」と言ったら「分かるよ」と共感した。滑車の音が強くなる。恩田の言葉はハムンセラーの診断をまったく反映していない。なんてテキトーな助手なんだ。この男に私の意思など一切届かない。

 私は椅子から立ち上がり、恩田の首を締めた。恩田は座ったままで、まったく抵抗しなかった。どんなに手の力を強めても、目を閉じて、ただ耐えている。ただ受け止めている。恩田は私の言葉ひとつひとつに、本当に共感していたのか。手に恩田の首の暖かさが伝わる。人間の温度を、初めて”ぬくもり”と表現するのが分かった。

 人間の真意に初めて触れて感動を覚えた時には、恩田の顔はもう真っ白になっていた。恩田は死んだ。私は人殺しになった。ハムンセラーは穴を掘っていた。


 きっと私はこれから法律に裁かれる。きっと死刑にはならない。だが生きていても恐らく私は殺人か殺人未遂を繰り返すだろう。真意に触れて、人を心から信じられる感動を知ってしまった。

 床から起き上がる。テーブルとその上のケージと、90度の配置で隣り合った2脚の椅子。ハムンセラーはケージの隅で丸まって寝ている。

 椅子に座ったままの恩田。心から私を理解し、共感してくれた初めての人間。ありがとう。心からの感謝と別れの寂しさで抱きしめる。温度は消えていたが、”ぬくもり”を感じた。

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