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7.海は上級者 夏合宿編②

「真衣ちゃん、どうしてTシャツを着たままなの?」


 城ヶ崎先輩は私を見て驚いたように質問してきた。鬼龍院さんも同じ気持ちなのか目をパチパチとさせて私を見ている。


 ------ 私からしたら普通ですよ。


 ビーチパラソルの下で体育座りをしている私。水着を見せびらかしつつ、キラキラとした海で遊ぶなんて上級者の遊びだ。城ヶ崎先輩から渡された荷物の中にサングラスが入っていたので、目を保護しつつ神々の遊ぶ姿を見学している。


 ビーチボールで遊び、アラジンの絨毯みたいな浮き輪で遊ぶ神々はとても素敵だ。ヒロインであろう鬼龍院さんや女神の城ヶ崎先輩は海がとても似合う。


 やっぱりヒロインって違いますよね、私なんかとは大違い。


(比べる事が間違いだろ)白尾はカラフルなジュースを飲んでいる。(まあまあ、間違いないけどね)真衣は日焼けオイルを塗っているようだ。


 もうっ。比べてなんかいないですー。


「ねえ、真衣ぴーは海に入らないの?」


 唐突に話しかけられ肩がビクつく。幸松先輩は濡れた髪をブルブルとさせながら私に近づいてきた。


「折角だし皆で遊ぼーよ、楽しいよ?」


「あ、あの私は放って--- きゃあ」


「シゲマサ、マイはシャイだからね。こうしないと海まで行かないよ」


「そっかあ。じゃあ浮き輪にのせちゃお」


「それは良いね、マイの反応が楽しみだ」


 クリス先輩に横抱きされ意味が全く分からない。腕にクリス先輩の温かい肌が当たってしまい、緊張を通り越して体がピキっと固まってしまった。


 ----- こんなんじゃ息も出来ないよー。早くおろして下さいー!


 息が苦しくなり、バダバタと足を動かしたのが駄目だった。バランスを崩しクリス先輩の腕から落ちた私はそのまま勢い良く海の中へと落ちていく。


 バッチャーン!!


 海面から見える太陽の光は綺麗だったが、息を止めていた為に海の中は更に息苦しく感じた。足を砂につけようと一生懸命探してみるものの全く見つからない。


 やばい、溺れちゃう---- 必死にもがいていると海面から手が見えてきて私の体が持ち上がる。


 ぷはっ顔が水面から出てやっと息が出来た。しかし安心したのも束の間、私を引きあげてくれたのは龍王寺先輩。髪からは水が滴り、鍛えられた体からは色気が漂っている。


 ----- こ、こんなっ。


「大丈夫か? クリス気をつけろ」


「マイごめんね。まさか暴れるとは思わなくて」


「いえ---- もう大丈夫ですし」


 龍王寺先輩に立たせて貰えば自分が残念な存在に感じてくる。こんな浅い場所で溺れそうになったとは---- 肩くらいの深さに悲しくなりつつ、幸松先輩に渡された浮き輪の上へと登った。


 ハア。ゴロンとアラジンの絨毯みたいな浮き輪の上で寝転ぶ。照りつける太陽が波に反射し、眩しいやら暑いやらで何だか落ち着かない。


 海はやっぱり見てる方がいいですねー。目を瞑ると歯の欠けた親友がふと頭の中に浮かび上がってくる。


「この海のシーンやばい! ほら見てよっ、鼻血でそう!」


「---- そうかな?」


「なんだとぅ?! 私の推しにケチつける気?!」


「やっ。そもそも推しとか知らないよ」


「ふーん。じゃあこの海はどう? ウチらじゃこんなリゾート行けないじゃん!」


「そ、そだねー」


「カップルばっかりなんだろうなあ。爆発しろ」


 欠けた歯を見せながら尖らす口。爆発しろが口癖だったなあ---- あの時の私達って何歳だったけ----


 親友の散らかった部屋の中にいた筈の私はそのままくらい闇に包まれていった。


 *****


「では会議を始めよう。皆、去年の資料は手元にあるな?」


「ありますわ。昨夜はドキドキして眠れませんでした」


「ははっ。綾小路(あやのこうじ)先輩は熱烈だったよねー」


「重政やめてよ。恥ずかしいわ」


「そんな事ありませんわ。羨ましく思います」


「美玲ちゃんまで---- もう」


 ------ 綾小路先輩って、資料の中でストーカーみたいな発言してた人だよね? 城ヶ崎先輩が何で恥ずかしくなるの?


「それで? ヒメノは今幸せかい?」


「ええ、卒業したら結婚する予定よ」


「ふっ。あの会議で結ばれるとは、綾小路先輩は流石だな」


「城ヶ崎おめでとう」


「めでたいよねー、式には呼んでよ」


「勿論よ。皆で来て頂戴」


「楽しみですわ! 白尾さん一緒に行きましょう?」


 えっ?! 私? それよりどういう事です? 全然話が分からないんですけど----


 オロオロしていると、鵞戝先輩が察してくれたのか私に詳しく説明するよう話してくれた。


 城ヶ崎先輩を好きだった綾小路先輩は、去年の夏合宿で恋愛をテーマにした議題を出し熱烈にアタックしたようだ。無事二人は結ばれて婚約したという----


 ぇえ?! 怖くなかったのかなあ。資料にある発言を見て震える。私なら無理----


(あー、お前にはない安心しろ)白尾が私を見てニヤリとする。(安心なさい)真衣もニヤリと見てきた。


 ------ もう。震えるくらい良いじゃないですか!


「では恋愛が議題だがもう少し絞ろうと思う。今日は恋人、または将来の伴侶に何を求めるかにする」


「伴侶かあ、僕は刺激かなあ。毎日新鮮な気持ちにさせてくれたら最高だよ」


「ふっ。俺は一歩下がってくれる女だ」


「セイヤは大和撫子が良いって事かな? 僕は愛だよ。愛して愛されたい」


「クリスは愛が深そうよね」


「ヒメノは愛されたいんじゃないのかい?」


「その通りよ。強く愛されたいの」


「では綾小路先輩とはピッタリでしたのね。羨ましいですわ」


「あら? 美玲ちゃんどうなの? 婚約者がいるじゃない」


 ------ 婚約者? 今婚約者って言いました?


 鬼龍院さんの表情を覗きみれば、頬を赤くして目を潤ませてる。


 嘘っ---- ヒロインに婚約者?!


「尊敬はしていますが---- 好きといって良いか。私、好きとかが分からなくて」


「ミレイはどんな男性が良いんだい?」


「私の事を温かく包んでくれる方が良いですわ」


 そんな展開ってあるの? 聞いた事ないよー。


 婚約者がいるって事は、婚約者と最後はお別れして真実の愛を見つけるのかな?


 そんな難しいゲームだったなんて----


「そうよねえ、同感だわ。この機会に龍王寺のも聞いてみたいわね」


「去年は考えても出てこなかったよね。議題にしたって事は答えが見つかったのかな?」


「---- 答えかは分かないが、結局相手には何も求めてない」


「どういう事だい? 相手からは何もいらないと?」


「ああ、俺自身が好きで側にいたいならそれで良い」


「ヒュぅ〜。司って無償の愛なんだね、驚いたよー」


「私も。龍王寺は本当分からないわね」


「流石は龍王寺先輩という事か。男として見習わねば」


「龍王寺先輩を尊敬しますわ。龍王寺先輩に愛される方は幸せですわね」


「どうかなあー。龍王寺はあまり自分の話をしないだろうから、大変だとは思うけどね」


「重政の言う通りよ。相手の子は不安になるわね、じゃあ次は真衣ちゃんの番ね! 真衣ちゃんは相手に何を求めるの?」


 ------ 私って何を求めてるんだろう。前世でも経験ないし。


 空っぽの頭で必死に考えるが何も浮かんでこない。そもそも私を好きになる人っていないと思うんですよねー。


 見た目は地味。背は小さくてしょべん小僧に並ぶ幼児体形。中身は至って平凡だ。何も面白くないし美人とかでもない女が求める男---- 求める事自体おこがましいですよねー。


「白尾さん?」


 鬼龍院さんに見つめられどう言えばいいのかより分からなくなってきた。取り敢えずこんな私を好きになってくれたらそれで十分ですよね。


「わ、私を好きになってくれたらそれで十分です-----」


 ドキドキとしながら神々の反応を待つ。そんな奴いねーよとか言われるかな---- あー、もう失敗した? 誰でもって言えば良かったかな-----


 緊張しながら待っていると、鵞戝先輩がゆっくりと口を開いた。


「ある意味尊い答えだ」


「そうだねー。真衣ぴーも司と一緒で中々読めないね」


「マイには愛するという事を教えたくなるよ」


「私は好きな人に愛される喜びを伝えたいわ」


「白尾君は自分の感情は二の次なのか?」


「そうですわ。相手が白尾さんを好きになったらお付き合いされますの?」


 何か思ったのと違う---- 戸惑いからモジモジとしながらもはっきりと自分の意見を言う事にした。


「あの、えっと---- 私なんかを好きになる人はあまりいないと思うので----」


「なんか?! 真衣ちゃんは可愛いわよ! もう龍王寺議題を変えて!」


「ああ。分かっている。皆議題の変更だ。議題は白尾君そのものだ」


「いいねー。真衣ぴーを解き明かそうか」


「面白そうな議題だ。細かく分析する事としよう」


「マイ覚悟してね」


 ニコニコしながらウィンクするクリス先輩を見て顔が強張る。


 私が議題ー?! 


 無理 無理 無理! 何で私?!


(分析も何もねえ?)真衣はニコニコしている。(凡人をどう解き明かすんだ?)白尾は笑い転げた。


 その通りですよ! 私を分析するだなんて、何てつまらない事を---- 何も出ててきませんよー!


 逃げ出そうにもここは無人島であり、幸松先輩の別荘だ。昼過ぎの穏やかな時間は消え、地獄のような質問タイムが始まる。


 まるで冤罪にも関わらず裁判にかけられた人のよう---- 痴漢と間違えられ必死に涙を流すおじさんが頭の中を埋め尽くした。悲痛のような心の声は、誰にも届かないまま私の中で叫び続ける。


 ------ 誰か---- 誰か助けてー!!


 夜になっても続く地獄に、幽体離脱を繰り返しつつ拷問のような質問責めに耐える事となった。

楽しく書かせて貰っています。読んで頂きありがとうございます。クスリとでも笑って貰えたら幸せです。

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