6.ここが無人島? 夏合宿編①
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「あの----」
フィッティングのカーテンを開けるのが恐ろしい。鏡をチラリと見れば似合うとはお世辞にも言えない水玉の水着。まだワンピース型なら分かるけど、ビキニを進められるとは思ってもみなかった。
「真衣ちゃん終わったの?」
「白尾さん開けますわよ?」
バッと音がしたと思えば鏡に美女2人の姿がうつる。
「あら似合うじゃない」
「白尾さん可愛いですわ」
微笑む2人に何も言い返せはしない。
よく見て下さいー。しょんべん小僧に水玉なんて似合いませんよー。
(まあ良いんじゃね?)白尾は私から背を向けて寝転がる。(少しは見てあげなさいよ)真衣が白尾を叱り出した。
うう、辛過ぎる。これは拷問に近いですよ。
「こっちはどう? 真衣ちゃんならピンクもいいんじゃない?」
「私はこの白のフリルが良いと思いますわ」
「そうねえ、確かに可愛いかも。真衣ちゃん次はこれ着てね」
白いフリフリの水着を渡されてニッコリとカーテンを閉じられてしまった。
ハア---- 何でこうなったのか。
明日から行く無人島ではビーチがあるらしく、水着がない私を心配したのか城ヶ崎先輩と鬼龍院さんが私の家に突如突撃してきた。
まだ寝巻き姿でゴロゴロとしていた私は玄関先で2人を見て驚く。城ヶ崎先輩がニコニコ顔で私をそのまま連れ出し今に至るのだ。
テストでお世話になった2人に断るなど無理な事。今回のテストでは70点を超える教科が3つもあった。両親からは驚かれ念願のお寿司が食べられたのもあり、神々には感謝の気持ちしかない。
項垂れつつお金持ってきてないと呟けば心配しなくていいの一点張り。何でも今いるデパートは城ヶ崎先輩の家が経営しているとか何とか言っていた。
何で私の物ばっかり---- 引き立て役に水着やら服を与えて何になるのだろう。
あっ、そか。被ったりしたら迷惑だからかな?
心配しなくていいのに---- 月6000円のお小遣いでは安い服か古着しか買えませんよー。
水着の値段を見て溜息を漏らす。
2万円の水着何て前世でも買ったことないですよ。
早く終わらないかなあ。長い時間をかけ最終的に選ばれたのは真っ白のフリルがついたワンピース型の水着。
お腹が出ない形で良かったと心から安堵し胸を撫でおろした。
「洋服に水着、後はサンダルかしら?」
「帽子もいりますわ。日焼けしては大変ですもの」
「ふふ。折角だし全部改造しちゃいましょうか?」
「それは良い提案ですわ! 白尾さんの髪が気になっていましたの」
「あら、私もよ。この長い前髪を切っちゃいましょ。可愛いのに勿体ないわ」
------ ど、どうゆうこと? まだ何かやるの?
「真衣ちゃん改造計画を始動させるわ!」
鬼龍院さんよりも強い力で引っ張られ抵抗など出来るはずもない。城ヶ崎先輩に引きずられるように着いた先は高級そうなサロン。
「私達に任せてね、真衣ちゃんは寝てるだけで良いから」
寝てるだけって---- 自分がどうなるのか分からないのに寝れませんよ。私だってそこまで愚かじゃありません!
そう言った1時間後。女性スタッフの滑らかな手つきで髪を洗われ頭皮マッサージを受けたら段々と眠くなりついに耐えきれず目蓋を閉じた。
******
「真衣ちゃん、お疲れ様。もう終わったわよ」
そっと目を開くと目の前に女神が立っている。
うっ眩しい---- 私何かが見て良い存在じゃない。
「白尾さん、1度こちらを見て下さる?」
鬼龍院さんの声がする方へ顔を動かしたが、鬼龍院さんも眩しくてハッキリと見えない。徐々にはっきりと目が覚めてきて2人の姿を見れるようになってきた。
「真衣ちゃん凄く可愛いわ!」
「ええ、思った通りです。前髪を切って正解ですわね」
「明日が楽しみね、皆何ていうかしら?」
「クリス先輩だけ想像出来ますわ。城ヶ崎先輩、これからどうします?」
「あら決まってるじゃない。真衣ちゃん家に行って荷物を取ってきましょ? 買った物でファッションショーをしないと」
「良いですわね! 私もご一緒して良いですか?」
「当たり前じゃない。夏合宿の前夜祭を女子だけでやりましょ」
「素敵ですわ! 早速向かいましょう」
えっ、えっ、えー?!!
前夜祭? まだ何かするつもりですか?!
「さあ真衣ちゃん。今日は寝かせないわよ」
色気たっぷりのウィンクを見せられ私は全てを諦めた。もう逃げる事は不可能だろう-----
それからは地獄だった。昼食はもちろん、夕食も満足に食べられないまま、何着も何着も服を着るよう指示される。女王様は満足がいかないのかしまいにはメイクやら髪をセットされ、2人に写真を撮られる私。
楽しそうにカメラを向けてくる2人は笑顔だが、私の目には2人の頭に角が見える。地獄にいる為か神である2人が鬼やら閻魔大王に見えてくるから不思議だ。
もう限界---- 水色のワンピースを最後にお腹を空かせた私の意識は完全に消え去っていった。
******
んー、もっと食べるー。お菓子に囲まれる夢を見ていたら急にドロドロとチョコレートが溶け出した。
チョコレートの沼にはまりもがいていると、頭上からヘリコプターのような音が聞こえてくる。
バババ----
な、何? 段々と近づいてくる音にビビっていたら頭の上に何か大きな物が落ちてきて目が覚めた。
えっ! ここ何処?!
勢いよく上体を起こし回りを見ればどうやら飛行機の中にいるようだ。
「真衣ぴー起きた?」
幸松先輩が近づいてきて、私のおでこにおでこをくっつけてくる。クリっとした茶色の瞳と長い睫毛が見えて胸がドキドキと煩い。
何故おでこ?! これは心臓に悪い---- もう見てられないよー!
ギュッと目を瞑り耐えていたら、幸松先輩のおでこが離れていった。
「熱はないようだね。昨日倒れたんでしょー? 島に着くまでゆっくり寝てなさい」
「えっでも---- わた」
「だーめ! 副部長命令に従う事!」
「は、はあ-----」
再び横になりつつも心配するのは自分の荷物や鞄。ここに来るまでの意識がない為、どうやって飛行機に乗ったのか、どこに鞄があるのか知りたい。
(大した物ないでしょう?)真衣がニコニコと私を見ている。(何をそんなに気にしてるんだ?)白尾もニコニコとしてきた。
私にとっては大した物ですー。携帯でしょ? お財布でしょ? ------ と、取り敢えず心配なの!
ゴロンと体を横にすれば隣にある窓から雲が見える。綿飴みたいな真っ白な雲はフワフワと空に浮かんで気持ち良さそうだ。
いいなあ----- 私も雲になりたい。
学園に入った時は何もなかったのに、どうして今みたいになったんだろう。好感度を伝える役だとしても全くもって役に立ってないし、存在している意味があるのか自分でも分からない。
困ったなあ。このままだとどうなるんだろう----
「真衣ぴー、もうすぐ着陸するからシートベルトしてくれる?」
「えっ? あ、はい」
「全く真衣ぴーは。ほらちゃんと座って」
幸松先輩に起こされシートベルトをつけてもらう。ノロマなうえ飛行機に慣れていない私はシートベルトが何処にあるのか分からなかった。
もう恥ずかしすぎる----
「じゃあまた後でね」
爽やかな笑顔で去っていく幸松先輩を見送った後、窓から見える海を見つつ着陸の衝撃に耐えられるよう体に力が入る。怖いよー---- 着陸の不安が押し寄せてくる中、ついに飛行機が高度を下げ着陸が始まった。
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「皆、我が島へようこそ! 別荘に案内するよ!」
ほえ〜! 凄いここが無人島?
無事着陸し飛行機からそっと降りてみる。
「白尾さん大丈夫ですか?」
「真衣ちゃん鞄を渡しておくわね」
鞄を胸に抱きつつ目に映るのは大自然。色とりどりの花が咲き南国の木が沢山見える。神々の後ろを着いていくと、飛行機から降りた場所から数分の所に立派なホテルが立っていた。
外に大きなプールまであり、TVで見る海外のリゾートホテルそのもの。初めてのリゾートに少しだけ心が浮つく。
「お帰りなさいませ重政様」
「皆ただいまー」
玄関ロビーではメイド服をピシッと着た人達と白髪が似合う執事が並んで頭を下げた。
迎えられ事などないが、旅館のCMで見るような光景に目を見開く。本当にこんな事あるんだ----
「皆様をおもてなしさせて頂きます。ゆっくりとお過ごし下さいませ」
「じゃあ皆、部屋に荷物を置いたら再びここへ集合しよう」
「分かったよー。部屋へ案内するね」
メイド服を来た女性に案内された部屋は素敵の一言。女性陣は同じ部屋に泊まるようで、実家の居間よりも広い部屋に通されつい体が縮こまる。
昨日の城ヶ崎先輩の家も大きかったけど、このホテルみたいな建物に部屋はいくつあるのだろうか。考えてもさっぱり分からない。
私、こんな広いベッドで寝てもいいのかなあ----
真ん中のベッドが私に与えられたベッド。小さな鞄をそっと床に置きベッドに座ってみればフカフカとして気持ち良い。
「お荷物をお持ちしました」
「有難う、そこに置いてくれる?」
城ヶ崎先輩がメイドさんに指示を出しベッド近くに荷物が積まれていく。キャリーケースの数は8つ。1週間の為に必要な物がこんなに? と思っていたら、私の分の荷物が入っているそうだ。
「真衣ちゃんのはこの2つね。足りるかしら?」
「えっ? 2つ?!」
「そうよねえ。やっぱり足りないわよねえ」
「いやっ、そうじゃなくて----」
「心配ですわね、私のをお貸ししましょうか?」
「大丈夫、新しいのを後で届けてもらうわ。一先ず着替えましょう? 真衣ちゃんはこれね」
渡されたのは昨日意識を飛ばす前に着せられた水色のワンピース。着るのは良いんですけど、2個じゃ足りないってどれだけ着替えるんですか?
神々って凄い---- 凡人である私からすれば1つあれば十分足りるだろう。6個も何が入っているのか気になりつつも、待たせてはいけないと直ぐさま水色のワンピースに着替える。2人の準備が終わるのをベッドの上で大人しく待ってからロビーへと移動した。
「皆、集まったようだな」
「わお制服の時と違って素敵な装いだね。マイ何て雰囲気が全然違う、ワンピースがとても似合っているよ」
「昨日、城ヶ崎先輩と3人で買い物に行きましたの」
「へえ、さっきから思っていたけど真衣ぴー髪型も変えたよねえ? そっちの方が可愛いよ」
「そうでしょう? こっちの方が可愛いわよね?」
「ふっ。磨けば光るとはこういう事だな」
「我財先輩ったら、白尾さんは元から輝いていましたわよ?」
「そうだな。洗練されたというのが正しいだろう」
「龍王寺もたまには良い事言うじゃない」
「たまにとは何だ。俺は素直に言っているだけだ」
「あらそう? 女性を褒めるだなんて初めて聞いたわよ」
「司は女性に冷たい印象が強いよねー。僕も驚いた」
「ツカサは女性に冷たいのかい?」
「冷たいなんてもんじゃないわ。昔から女性とあまり話もしないの」
「我が部長はクールと言うことか」
「---- コホン。その話はそこまで。まずは合宿日程の確認を行う」
城ヶ崎先輩と幸松先輩、そして部長である龍王寺先輩は皆3年生。幼稚園からの付き合いらしいが、いつ見ても仲が良い。
いいなあ。私にも幼なじみとかいたら楽しかったかな?
ううんここはゲームの世界。いても凡人が来るような学園ではないから一緒に進学するのは無理だったと思う。
普通の学校に行きたかったな----
「では明日の昼まではビーチにて自由行動。15時から会議を行う。明日の議題は恋愛について話し合おう」
「ふっ。恋愛とは---- 統計学で分析するのもいいな」
「楽しそうね。去年とは違う答えになるのかしら?」
「去年も恋愛について話し合ったのかい?」
「そうだよー。去年までいた部長が恋に悩んでたんだ」
「あの時は色んな意見が出て割れたわよね」
「私も聞きたかったですわ。どんな意見だったか気になります」
「去年の意見はまとめてある。後で皆の携帯に送るとしよう。我財、宜しく頼む」
「お任せ下さい。直ぐに送りましょう」
「皆、明日までに我財から送られる資料へ目を通しておくように。少し早いが夕食にしよう」
夏合宿1日目の夜は、夕食を美味しく頂き資料へと目を通す。
最初の議題が恋愛だなんて---- 何も言う事ないよー。しかもこの部長さん、誰に恋してたんだろう。言ってる事が怖すぎる。
発言を読めば読む程ストーカーだと感じてしまう。この目があっただけで気持ちが伝わったとか----
(漫画で読んだ知識があんだろ)白尾がアロハシャツを着て現れた。(まあ適当でいいんじゃない?)真衣はサングラスをして水着を着ている。
何でそんなに浮かれてるのー? 私だって初めてのリゾート。でも浮かれたらおのぼりさんになっちゃう。
まだ1日目---- あと6日も耐えられるだろうか。
不安の気持ちが拭えないまま、ついに夏合宿がスタートした。
夏合宿編スタートです。
次の議題は恋愛。攻略者達の恋愛思想をお伝え出来るよう頑張ります。