勇者の父。それ故の苦悩とて
勇者の父って、文字だけ見ると強そうですね。
俺の名はクロード・ボアネットだ。
この村の村長をやっている。
まぁなんだ、俺の愚痴を聞いてくれないか。
最近な、三人目の息子が産まれたんだ。
俺に似て可愛いやつ産まれた時に全く泣かないし、それどころか言葉を発したんだ。
これにはびっくりしてなにかの病気なんじゃないかと心配してしまった。
その後も、産まれて1ヶ月でなんと1人で立って歩きだしたんだ。
これにはさすがに驚いて妻に相談したんだが、妻は「うわ~、家の子は皆優秀ですね。」と言って喜んでいるばかりで、何も相談に乗ってくれないんだよ。
はっきり言って長男や次男はまだはいはいもしてなかったんだぞ? だからだんだん不気味になってきてな。
とりあえず、経過を見ようってことにしたんだ。
そして2歳の時に事件が起こった。
当時は毎晩俺の家から強力な魔力の気配がするという噂を耳にしていたから、その日は仕事を休んで見張ることにしたんだ。
そしたら息子のショウが庭に詠唱大百科を持って出て行ったんだ。
こんな夜中に一体どうしたんだと、ショウの後をつけていったんだ。
どうなったと思う?
なんと詠唱をして魔法を放ったんだよ。
俺は自分の目を疑ったよ。
まさか、2歳のショウが魔法を使うなんて思いもよらなかった……。
レンマ族、族長の俺だって魔法を使えるようなったのは17歳の時だぞ?!
まぁ、それはまだ許せる。
いや、かなりヤバいけど100歩譲って良いとしよう。
問題はこの後だった。
ショウはさっきの魔法に納得がいかなかったのか、何かを呟いて1時間程魔法を練習していたんだが……。
突然ショウが立ち上がったかと思うといきなり無詠唱で魔法を放ちやがったんだ。
これは流石に問題だ。
各国の宮廷魔導士が毎日研究して出来るか出来ないかレベルの話だぞ?!
流石の宮廷魔導士も2歳の赤ちゃんに追い越されるとは、思っても見なかっただろうな。
この世の常識が覆った瞬間だった。
これ以上は俺一人の手に終えないと思い友人に相談したんだが、相手にしてくれなかったよ。
挙げ句の果てには、俺が疲れて変な夢を見たと言う始末……。
何の解決にもならんだろうが、とりあえず妻に相談したんだ。
そしたら、1か月くらい前から魔法の練習をしていて、今は詠唱と無詠唱の威力の違いなど研究しているそうだ。
おかしくないか?
だって2歳だぞ??
そんなまだ赤ん坊に毛が生えたくらいのヤツが、宮廷魔導士でさえ未だ到達出来ていない魔法の深淵に片足突っ込んでるんだぞ?
と、めちゃくちゃ慌てていた俺だがこれ以上気にしていたら、俺の精神が崩壊しそうなので目を瞑ることにした。
しかし、ショウは俺が思っている以上に化け物だった。
ある日、家で休んでいたら庭からものすごい爆発音が聞こえたんだ。
まさかな、と思いつつ俺は起き上がり音のする方へ向かった。
そしたら何があったと思うか?
クレーターだよ。
庭にクレーターが出来てるんだ。
おかしくないか?
しかもそのクレーターの中心にいるのはショウだ。
ちょっとやり過ぎちゃった! てへっ、みたいな顔をしてこっちをみている。
そして驚いて言葉も出ない俺を横目にショウは呪文を唱え始めた。
また爆発するんじゃないかと身構えた俺だったが、一向にその時は来なかった。
恐る恐る目を開けてみると、そこには先程の爆発なんてなかったかのように綺麗な庭が広がっていた。
…………………………。
もう俺はこのことについて考えるのを止めた。
こうでもしないと俺の精神が本格的に崩壊し始めないからな。
ふと、ショウを見ると宙に浮いていた。
もうショウは何でもアリだな、と思いショウの将来を思い浮かべる。
ショウがどんな化け物になるか少し楽しみな俺だった。