お題 濃姫 北政所 築山殿
前回の「織田信長」「豊臣秀吉」「徳川家康」
の続きだと思ったら大間違いですよ!
「おじいちゃん早く早く!」
「これこれ、危ないから走るんじゃないぞ」
今日は仕事が休みなので2人の孫とお出掛け。
小さな妹の方の孫は元気でよろしい。
仕事といっても最近はレトロゲームを次世代機対応にデータを書き換えるだけの作業だから楽でいい。
「ごめんね、中原のおじいちゃん。折角の休みの日なのに買い物に付き合わせちゃって」
2人いる孫の姉の方がそう私に言ってきた。
「いいんだよ。瑠璃ちゃん。こうして出掛けられるのも久しぶりだから」
「そう、ならよかった」
「それに今日は結衣の誕生日だからな」
私の娘、つまり孫達の母親である結衣が今日誕生日なので孫たちとケーキを作ろうと思い、材料を買いに出掛けたのだった。
「ケーキって何作るの?ケーキっていろんな種類があるでしょ?ガトーショコラとかチーズケーキとかブッシュドノエルとか……ブッシュドノエルは季節違うか」
「ねね、いちごのがいいー!」
前の方を走っていた孫、妹の音々がいつのまにか戻ってきて言った。
「いちご……ショートケーキのことね。いいと思う」
「じゃあそれにしようか」
「いちごー!」
ショートケーキの材料で買う必要があるのは生クリームと牛乳、スポンジケーキ、苺だ。
「おじいちゃん。ちょっと音々を見ててくれない?すぐ戻るから」
「あぁわかった。何処へ行くんだい?」
「戻ってきたらわかる」
そう言って瑠璃は行ってしまった。
「音々ちゃんおじいちゃんと一緒にお買い物しようか」
「するー!」
スポンジケーキは多分パンの売り場にあるだろう。
生クリームと牛乳は乳製品のところ。
最後に苺を買いに行こう。
計画を立ててから行動に移す。
◇◇◇◇
「あとは苺だな」
スポンジケーキは思った通りパンの売り場で見つかった。牛乳と生クリームもカゴにしっかり入っている。
おまけにホワイトチョコとチョコレートペンも入っている。これに名前を書いてケーキに乗せるのだ。
「苺は沢山の種類があるんだな……」
苺が並んでいるところまで行くと思わずそう呟いてしまった。
とちおとめにあまおう、紅ほっぺetc.
苺は冬が旬なのだが、促成栽培とかのおかげか様々な種類が並んでいる。
「いちごー!」
「おじいちゃんこれなんてどうかしら」
「瑠璃ちゃん……戻ってきたなら声かけてね……」
「うう、ごめんなさい。驚かすつもりはなかったの」
戻って来た瑠璃は片手に花束を抱えていた。
「それを買いに行ってたのかい」
「そう、こういうときは華がないとね」
偉いなぁ。
「で、瑠璃ちゃん。それは?」
「濃姫っていう種類の苺よ。お母さんにピッタリでしょ?」
なるほど。2人の母親の結衣はレキジョだ。
歴史好きの女。歴女だ。
確か濃姫は戦国時代の魔王と呼ばれた織田信長の正室の名前だったと思う。
「お母さんはほんとに歴史が好きだからね。音々の名前も歴史の人物のことなんでしょ?」
「音々……ねねは豊臣秀吉の正室のことだな。北政所って聞いたことあるだろう?」
北政所とは平安時代の三位以上の公卿の正室の呼び名で、宣旨をもって特に授けられた摂政・関白の正室の称号のことだ。
ねねもその北政所なのだ。
「私の名前もそんな感じだったら良かったのに」
「瑠璃ちゃんの名前も最初は歴史の人物の名前になるところだったんだよ」
「ほんと⁉︎どんな名前だったの?」
「駿河って名前だよ」
「駿河?男の子みたいね」
駿河とは徳川家康の正室、築山殿。別名、駿河御前のことだ。
実はこの駿河御前は夫である徳川家康の命令を受けた家臣によって殺されてしまっている。
そんな名前を孫に付けたくなくて反対したのだ。
「そうだったんだ……」
「まあ、瑠璃って名前も歴史が関わってたりするんだけどなぁ」
「もしかして奈良の正倉院のこと?」
「おぉよくわかったね。勉強熱心なんだなぁ」
東大寺正倉院の宝物、紺瑠璃杯が瑠璃の由来となっている。子供は宝という意味でも宝物殿からとったこの名前だ。
「それにしても濃姫って苺、聞いたことないね」
「どんな品種なんだろうね」
「私が説明しますね!」
後ろから声を掛けられた。
振り向くとそこには瑠璃と同じ中学生くらいの少女がいた。
「苺のことならこの苺にお任せです。なんせ自分の名前ですから!」
えーと?どういう状況?
「濃姫はですね。濃姫は岐阜県農業総合研究センターにおいて、1988年に「アイベリー」に「女峰」を交配して得られた実生から選抜、育成され1995年に登録出願され、1998年に品種登録された品種ですぅ。岐阜県ではじめてのオリジナル品種という事で出願時の名称は「岐阜1号」とされてたんですよ!」
「へー」
なんというかそれしか出てこない。
凄い知識量だな……。
「さらにさらに果実はアイベリーの血を受け継ぎ大きめで、形はやや縦長の円錐形で果皮の色は鮮赤色で艶があるんです!甘い香りが強く、切ると果肉は固すぎず柔らか過ぎず適度な固さで、肉色は中心まで淡い赤色をしていて……はっ!すみません私もう行かなきゃ。失礼しますぅ」
「…………」
あっという間に走り去ってしまった。
……まあいいか。帰ってケーキを作ろう。
◇◇◇◇
「ただいま。おじいちゃんに迷惑かけなかった?」
「おかーさんおかえりー!」
「おかえりなさい」
「二人ともいい子にしていたよ」
「はやくはやく!」
音々が帰ってきた結衣を連れてくる。
「おかーさんおたんじょーびおめでとー!」
「お母さんお誕生日おめでとう!」
結衣が嬉しそうでなによりだった。
今回のお題は
「濃姫」「北政所」「築山殿」
でした。
この歴史の登場人物がお題になっている作品かなり書くの大変です……。
楽しいからいいけども。
今回はお題を色々と変換して書きやすくしてみました。
登場人物紹介
中原のおじいちゃん 語り部。ゲーム会社に勤めてるらしい
瑠璃 語り部であるおじいちゃんの孫。姉の方。中学生。
音々 妹の方。まだ幼稚園児。
結衣 語り部の娘。姉妹の母親。
苺の少女 苺売り場で出会った少女。苺の知識が豊富。