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お題 天使 妖精 家の中のかけら

今回はいつもと違う雰囲気



夏のホラー2019に『幽玄のまにまに』

という作品を投稿しました。

こちらも読んでみてください

 

 僕side


 これは天使の心を持つ彼女と感情が欠落した僕のたった3日の逃避行だ。



「本当に僕でよかったのだろうか」

「今更そんなこと考えなくていいよ」


 彼女はそう言って笑った。

 彼女の心は優しく全てを受け止める海のような青だった。


「このまま2人でどこまでも行こうよ。私も君も知らない世界を知るために、どこまでも」

「いいよ。僕は君について行く」


 家族とはお別れだ。僕の私物で不必要な物は全部捨てたしこんな欠陥品はいらないだろう。

 彼女と話していると心がふわふわする。

 でもこれが嬉しいという感情なのかは僕にはわからない。


「僕は自分を責めすぎた」

「私は自分に耐えられなかった」


 僕は空っぽで、

 彼女は多くを抱えすぎた。

 そんな2人だったから今こうやって逃げ出せてるのだろう。


「僕は感情が欠落している。欠落していたから君と出会えることが出来たのだろうか」

「違いないよ。君は空っぽで中身を求めた。だから中身が溢れて破裂しそうな私に出会えた」


 それに、と彼女は続ける。


「私は聖人君主でも何でもない。他人からの期待を受け止めきれなかった。私に期待しない人なんていなかった」


 彼女はみんなから愛される人気者だった。

 頼りになる。彼女がいれば全てうまくいく。

 周りの奴らもそう言っていた。


「僕は何もしなかった。出来なかった」


 期待すらも。


「君だけは違った。私に圧倒的に何もしなかった。君はそれが嫌だったみたいだけれど私はそれに救われた。嬉しかった」

「僕は何もしてない」


 何もしていない。出来ない。思えないし想えない。

 そんな自分がどうしようもなく嫌だった。嫌いだった。


「でも僕は君が羨ましかった。君は何でも持っていた」

「私は望んで持っていなかった!出来るならば全て捨てたかった」

「それでも何も持ってない僕は君が眩しく見えた」

「私はそんな光じゃない!」


 僕には感情が心が欠けているから彼女の憤りの感情は何から来るのすら理解できない。

 僕には感情が心が欠けているから彼女の涙の意味がわからない。


「ごめん。君に言っても伝わらないことはわかってる。あなたには感情がないからないからこそ私はこうやって弱さを見せられるのかもしれない」


 どんなに罵られ貶されても僕は何も傷まない。

 それが僕の生まれつき持った唯一の特技だった。

 これが悲しいなんて思わないし思えない。


「気にしなくていいよ。僕はもうとっくの昔に壊れた存在なんだ。これ以上壊れても変わりやしないよ」


 嘘だ。壊れてしまって心に空いた虚空が広がっていくのを日々感じている。

 虚無に囚われそうになる。


 それでも僕は


「君を欺き付き続ける」


 心がなくても感情がなくても


「彼女の救いになれるならば」


 この3日間で僕が決意したことだ。



 ◇◇◇◇



 私side


 これは妖精のように不思議な彼と限界を迎えた私の存在し得ない4日目のお話。



「本当に私について来てくれるの?」

「君が望むなら何処までも」


 彼はそう言って笑った。いや笑ったのかどうかはわからない。

 彼の心はブラックホールさながらの深淵の漆黒だった。


「何処まで行けるかな」

「僕には見当もつかないや」


 私は手に持っているものを強く握りしめる。

 彼はおそらく、いや確実に家を捨てたことに後悔していない。

 彼は感情がない。あったら()()()()()するわけない。

 私は家族を捨てきれなかった縁を切るのが怖かった。


「何見てるの?」

「写真よ。家族との写真。私が家から持ってきた家族とのつながり」

「ふうん。家族との思い出なんてもう家の中にはかけらもないよ」


 最近、彼と話していて恐怖を感じるようになった。

 3日間こうして2人で歩き続けたけど、昨日から時折彼の言葉に狂気を感じる。

 何も思わないからこそ生じる怖さが。


 私は最初羨ましかった。

 なんの(しがらみ)からも開放されていた彼が羨ましかった。

 彼の言葉の通り私は全て持っていた。与えられてきた。

 怨嗟も憎悪も嫉妬も。


「君は一体……」


 何者なの?という言葉を引っ込める。

 聞いてしまったらもうあとには戻れない。そんな気がした。


「ん?なんか言った?」

「なんでもないよ」


 私と彼の物語は今日で終わる。

 感情がない彼は私に恐怖を与えてしまった。

 また一つ。私を縛る枷となるものが増えてしまった。


「ありがとう。そして……」



 サヨウナラ。



 私はナイフを取り出した。

 全てが赤い虚空で物語は終焉を迎える……

今回のお題は

「天使」「妖精」「家の中のかけら」

でした。

このお題は三題噺のお題メーカーというサイトから出たものを使わせていただきました。

お題がないときはこれから活用させていただきます。


登場人物紹介


僕  感情がない少年。家出をした理由は不明。

私  全てを受け止める多感な少女。限界を迎えたため家出。


はじめてのバットエンド?かもしれない……

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