チョコレート
今日は月曜日……学校が始まる憂鬱な日。
週末のアルバイトは本当に大変だったけど、凄い達成感に包まれたの!
仕事って大変だけど、ちょっと面白いわね。
毎週月曜日はお店が定休日だから今日はアルバイトが無いの。
……でも、今日の私は使命がある。
山田のダサい服をどうにかしなきゃ……
週末お店は早く閉店する。
珍しく山田と一緒にお店をでたの……
いつも制服だった山田は……超ダサい私服を着ていたの……
いや制服でもズボンの裾が短くて気になってたけどさ……
私は戸惑ってオーナーを見たら……オーナーが私と山田に言った。
「……山田くん。パティシエには美的センスが重要よ。あなたは教えられたケーキの飾りはちゃんとできるけど、自由に作らせた作品はダサいわよ。日頃からセンスを磨きなさい」
山田は不思議そうな顔をしていた。
分かってない!
「……俺がダサい? センス? そうなのか……」
意外とショックを受けている。
オーナーは私の服装を見て山田に言った。
「かなえちゃんの服のセンスは抜群よ! そうね……明日はお店休みだから二人で山田くんの服を買いに行きなさい! これは業務命令よ!」
え!? 一緒に買い物? 二人で? ちょっと恥ずかしいかも……
山田は頷いた。
「うむ。分かった。これも一流のパティシエになるために必要なことだ。飯田橋、面倒だがよろしく頼む」
「え、え!? ……分かったわよ。私で良ければ付き合うよ」
こうして私は今日の放課後、山田と一緒に学校から少し離れたショッピングセンターに行くことになった。
学校も終わり放課後になった。
……どうやって一緒に行こうかしら。
私の周りにはリア充グループの仲間がウロチョロしている。
山田は目がハートになっている小牧さんと勝手に教室に入ってきたルーシーに絡まれている。
そんな山田をクラスのみんなは不思議そうに見ている。
「あれ、小牧さんって山田と仲良かったっけ?」
「小牧さん可愛いよね〜、地味だけど」
「俺意外とタイプなんだよな!」
「あのクレイジーな一年生も顔はいいよね?」
「なんで山田なんだ??」
クラスで一番のイケメン拓海がみんなに言った。
「ほ、ほら、山田……君なんか気にしないで、今日もカラオケ行こうぜ! かなえ! 今日はどうだ!」
私は先約がある……いや、無くても行かないけどね。
「拓海君、ごめんなさい。今日は人と会う用事があるの……」
「何!? お、男か?」
面倒くさい男ね……確かに男だけど、でも山田よ? 何か起こる事なんてありえないよ!
「親戚のお兄ちゃんですよ! では待たせてるので……」
私はそそくさと教室を出た。
後ろから拓海の声が聞こえる。
「お、男だーー!! 絶対男だ!!」
うっさいわね……
私はスマホで山田にメールを入れておいた。
学校から一緒に行くと目立つから現地集合にする。
あのショッピングセンターは学校から離れているから多分この学校の生徒はいないはず……
一人電車に乗って、ショッピングセンターの前で待つことにした。
……山田から返信が着たわ。もうすぐ着きそうね。
アルバイトをしてなかったら山田と接点は無かったのに……
不思議ね。まさか山田と二人で出かけるなんてね……
スマホをいじっていたら変なチャラい男が近づいて来た。
「お!? 超可愛いじゃん! ねえ、一人? 俺と一緒にデートしようよ!」
……ナンパか。うざいな。どうしよう。
私が困っているとチャラい男はいきなり怯えた顔をした。
肩に手を置かれる感触がした。
え!?
見上げると山田が私の後ろに立っていた。
「俺の連れに……何か用か?」
山田は背筋を真っ直ぐ伸ばして髪をワックスで後ろに流していた。
肩に置かれている手はゴツゴツして男らしい感触がする。
凄い威圧感を出している。闘気?
ちょっと山田??
チャラい男は突然悲鳴を上げた。
「ひぃぃぃ!! あんたはヤバイ! ごめん! ほんと許してーー!!」
すたこら逃げて行った。
「ふん、またあいつか。バカな男だ」
山田は肩から手を離した。
「あんた何したのよ! 逃げるなんてよっぽどよ! ていうかその姿……」
「……オーナーからの業務命令だ。今日はお店と同じスタイルで行けと……」
少しだけ山田が照れている。
うん! まいっか! 誰かに見られても山田だってわからないし!
「うん、困ってたからありがと! じゃあ行こっか!」
私達はショッピングセンターに繰り出した。
山田のセンスは壊滅的だった。
運動もできて仕事もできるのに、本当に美的センスだけはひどかった。
「これはどうだ?」
「いやありえないから! どこの世界に虎柄シャツを着る学生がいるのよ! 却下よ、却下!」
「むう。ではこれは?」
私は山田のチョイスする服を全て却下して、一からお洒落の基本を教えてあげた。
「あんた元がいいから変な挑戦はしないの! 安くても自分に合った服を選べば大抵は着こなせるの!」
私に渡された服を着て試着室から出てきた山田。
そこにはモデルよりもかっこいい男がいた。
お店の肉食系女子の目が光り輝く。
「あれヤバくね?」
「なに芸能人きたの?」
「連れの子も綺麗だからムカつく……」
山田は不思議そうに自分の姿を鏡で見ていた。
「なるほど……これがお洒落か。自分に合った服を着る。勉強になった」
鏡の中でポーズを決める山田。
無駄にかっこいい。
「ということは……飯田橋、これはどうだ!」
山田が手に持ったのは可愛らしい猫の絵が入ったTシャツだった。
「バカ! 全然だめよ!」
どうやらこいつは重症らしい……
買い物も一段落した私達はショッピングセンターをウロチョロすることにした。
山田は買った服をそのまま着ている。
自分の姿が見慣れないのか、何度も服を触っている。
私は山田がいつもと違いすぎるから、あんまり見ない様にした。
いや、かっこいいのはお父さんで見慣れているはずなのにね……
「あ、あそこ有名なパンケーキ屋さんだよ! あっちは今流行のタピオカ専門店だ!」
こういう所はさっきみたいにナンパされるからあんまり来ないの。
だから久しぶり過ぎて楽しい!
「……飯田橋。お礼に何かくれてやる」
「え、いいの! やった!」
私は悩んだ挙げ句、有名なチョコレート屋さんが出しているカフェに入った。
ここもテイクアウトケーキだけじゃなくて、お皿でデザートを出してくれる。
私達は席に着いてオーダーをした。
程なくしてデザートが運ばれてきた。
「ほわーー! 美味しそう!」
「そうだな。ここのシェフは技術がしっかりしていることで有名だ。チョコレートのデザートは絶品だぞ」
私がオーダーしたものはフォンダンショコラ。
山田はチョコレートのスフレをオーダーした。
「フォンダンショコラは仕込みが難しい。チョコケーキを割ったら綺麗にチョコソースが出てくるのが重要だ。添えてあるベリーのアイスクリームと一緒に食べるがいい」
私はナイフでフォンダンショコラを切ってみた。
切った先から大量の暖かいチョコソースが出てきた。
「凄い! チョコの香りが広がるの! いただきまーす! ……あ、これ凄い質が良いチョコ使ってるね! 生地の表面はサクサクなのに中は凄く柔らかい! うん? チョコソースから別の香りがする……ハーブを使ってるんだ! なんだろう? うーん?」
山田が私のチョコソースをスプーンですくって食べた。
あ、ちょっと!
「……これは……カルダモン少量、レモングラスをメインに使っているな。爽やかさを演出している。うまいな」
「ずるい! 私も!」
私は山田のチョコレートのスフレをスプーンで取った。
スフレを口に入れた瞬間無くなった。
「わわ!? 泡みたいに消えて無くなったよ! 軽いのにチョコの味がしっかりしている! これも美味しい! あ、ミルクチョコだね、中に紅茶のチョコが入ってる!」
「……お前はやっぱり凄いな。中々わからない隠し味だぞ? まあいい。お礼だから好きなだけ食え」
「ありがと!」
私達はゆっくりとデザートを楽しんだ。たまに山田のスフレをつついたり、コーヒーを楽しんだ。
気がつくと、周りのマダムが暖かい目で見ていた。
「あらあら、初々しいわね。昔を思い出すわ……」
「食べさせ合えばもっといいのに……」
「若いって素敵ね」
私は状況を認識した。
山田と一緒にデザートを食べている……しかもお互いのデザートを突きながら……
顔から火が出るくらい熱くなった。
「あ、いまさら恥ずかしがってるわよ! 可愛いわね〜」
「あらあら、付き合いたてね」
「男子も素敵ね。昔の彼を思い出すわ……」
ちょっと奥様たち!
髪を上げた山田は素知らぬ顔で足を組んで優雅にコーヒーを飲んでいた。
お店にマッチしていてとても似合っている。
「うん? どうした? 足りないのか?」
違うわよ、バカ! 恥ずかしいのよ!
そのまま私達はコーヒーを飲みながらアルバイトの話しをして過ごしていった。
山田が私に言った。
「飯田橋。お前のセンスに脱帽だ。また服を買うときは……一緒に勉強させてもらいたい……」
え!? またこうやって一緒に出かけるって事?
楽しかったから全然いいけど!
「もちろんよ! しっかりセンス磨いてね!」
山田は顔を少しだけ赤くしながらそっぽを向いていた。