パフェ
今日もクラスは平和だな。
帰りのHRも終わり、みんな好き勝手に放課後を楽しもうとしている。
こうしてみるとクラスのグループも面白いよね。
私は色々あってリア充グループに入っているけど……正直テンションがしんどい……
大人しい男子のグループがあったり、スポーツ好きのグループがあったり、独りぼっちの子もいる。
独りぼっちはもちろん山田だけどね。
でも、この前のマラソンで仲良くなった図書委員の小牧真紀さんも独りボッチなのよね……
小牧さん可愛いのに……
話した感じは超おどおどしているけど、小さくて小動物みたいで見てて癒されるわ。
内気な性格で、いつも本ばっか読んでるわね。
うーん、小牧さんに友達出来ないかしら……あんなに素敵な子なのに……
あ、山田が起きた。
今日は委員会があってバイトが遅くなるって言ってたわね。
何委員かしら?
……今日、私はバイトがお休み。さっき友達に顔が疲れてるって言われたしね。
流石に毎日は学業に支障が出ちゃうから。今夜は勉強しなきゃ!
6月末には期末試験もあるし!
……山田って頭いいのかな?
あれれ? 山田が小牧さんの所に行く……
ぼそぼそと話しかけた。
影が薄い二人だからクラスのみんなは気が付いてない?
あ! 二人でどっか行っちゃう!?
追いかけなきゃ!
「……なえ。……かなえ! 今日こそカラオケ行こうぜ!」
後ろで拓海君がなんか言ってるけど、それどころじゃないの!
どうせ大した用事じゃない。年中ギラギラしてる男子高校生だ。
無視よ。無視。
「……あ」
私は山田を尾行するために廊下に出た。
山田は廊下でルーシーと対峙していた。
山田は様子を見ている。
ルーシーは目をギラギラさせて手をワキワキさせていた。
……この子、普通にしてたら超かわいいのに。もったいない……
ルーシーはハーフみたいな顔をしてて、金髪を巻き巻きにしている。
大きな青い目で肌も真っ白だ。
普通、こんな子に迫られたらイチコロなのに……
山田は見た目を気にしないみたいね。
山田は興奮しているルーシーに焼き菓子を渡して、かがんでルーシーの耳元に何か喋っていた。
ルーシーはおとなしくなって、奇声を上げて走っていった。
「きゃぁぁぁぁーー!! ルーシー嬉しいです!」
何があったの?
あ! 山田と小牧さんが行っちゃう。
山田達はのんびり廊下を進んで行った。
ていうか山田、小牧さんの速度に合わせてるのね?
やるわね。
前から広がって歩いてくる部活少年たちを小牧さんが通れるように、山田の威圧で退かしてるわ。
……山田。何者? これもパティシエに必要なの?
二人は図書室に入っていった。
あ、図書委員か!
せっかくだから仕事ぶりを見てみようかしら。
……新しい本も入荷してるかもね。
私も図書室へ入っていった。
放課後の図書室はガランとしている。
この学校の生徒はあんまり図書室を利用しない。
塾か予備校で勉強している生徒ばっかりだ。
山田と小牧さんは図書室のカウンターで何やら作業をしている。
私は適当に本を取って、カウンターから程近い席に座った。
後ろで小牧さんの声が聞こえた。
「……放課後はやっぱり暇ですね。……山田君はこの本読みましたか?」
「小牧が勧めていた本か? もう読んだぞ。前半は退屈でつまらなかったが、後半が面白かった。特に伏線の回収とラストのカタルシスが素晴らしい」
……山田が饒舌!?
小牧さんは少し照れていた。
「えへへ……面白いですよね! 今度はこの本を読んで見てください! これも面白いですよ! 主人公が苦難を乗り越えて成長する物語です」
「うむ。パティシエ理論の合間に読んでみるぞ」
「山田君はパティシエを目指してるんですよね? すごいな……私なんて……全然なのに……」
「小牧は何になりたいんだ?」
「私は……恥ずかしいけど……うん……山田君ならいっか? 笑わない? しょ、小説家になりたいんだ……」
山田は背筋を伸ばして邪魔な前髪を持ち上げて、ちゃんと小牧さんを見た。
「……マーベラスだ! この年でちゃんと夢があり、目標がある。小牧がスマホで何か書いているのをクラスで見たことがある。目標に向かって突き進む姿は誰しも美しい」
や、山田!? お前前髪あげちゃ駄目だよ! また犠牲者が出たらどうすんだよ!
「え、ええ!? 山田君……その顔!? というよりも笑わないの?」
「夢を笑うやつは俺が許さん」
なんで無駄にかっこいいんだよ!
小牧さんを見てて私がキュンキュンしちゃうじゃん!
小牧さんは赤い顔をしながらすごく、本当にすごく嬉しそうに笑っていた。
超かわいい!!
「む。そろそろ俺はバイトの時間だ。それでは今日は失礼する。……今度小説を見せろ」
山田は颯爽と図書室を出ようとした。
小牧さんは別の世界にトリップしているようだ。
私の席の近くを通る時にいきなり私に声をかけた。
「おい、行くぞ」
え、き、気づいていたの?
「きょ、今日は私、休みよ!?」
「……オーナーが新作を作った。お前も試食だけしろ」
「え!? いいの! やった! 行く行く!」
この時間は学校に人はほとんどいない。
帰り道誰かに会う心配もない。
私たちは初めて並んで歩いた。
……あれ、山田。私の速度に合わしてくれてるの?
やるじゃん!
猫背でだらっと伸びた前髪がうざくて服装ダサくて陰キャ丸出しできつい事ばっかり言うけど……山田は優しいね。お菓子くれるし。
そのままゆっくりと歩いてお店まで向かった。
お店に着くとオーナーのテンションが凄かった。
「かなえちゃん! 来てくれたの! 嬉しいわ!」
大きな胸を押し付けて私に抱き着いてくる。
ーーちょっと、お客さんが見てるよ!!
山田が無言でオーナーを引っぺがす。
「おい、さっさと新作をだせ」
「もう! 山田君ったら真面目なんだから! ……ちょっと待っててね!」
私たちはカウンター席に座った。
今日のサービスは終了していて、あとはテイクアウトの販売だけだ。
オーナーがカウンターに立つのは初めて見るの。
ーーえ!?
そこにはいつもふざけたオーナーはいなかった。可愛らしいエプロンに身を包んだオーナーにはオーラが出ていた。
ーー芸能人みたい!
オーナーは大きなワイングラスを取り出した。
手際よく作業を進める。
めっちゃ早い! しかも綺麗! 何やってるんだかわかんないよ!
フルーツをカットしたり、グラスにアイスを入れたり、フランベして炎を出していた。
色々なパーツが入ったワイングラスの上に、最後に飴細工の飾りをつけた。
「はい、これで完成よ! もう暑くなるからパフェっぽいのを作ったのよ!」
目の前には綺麗なパフェがある。
まるでアートみたいなパフェだ。こんなパフェ見たことない。
山田を見ると、真剣な表情でメモを取っていた。
ーーあ、ちょっとかっこいいかも。前髪あるのに。
「ほら早く食べてね!」
私はスプーンを手に持った。
まずはパフェの上の部分を食べてみる。
糸みたいな飴を食べるのは初めて!
「甘い! 触感がぱりぱりしてる。あ、上のクリーム……ピスタチオのクリームだ! 濃厚なピスタチオの香りが口の中に広がるわ。……チェリーのシャーベットにたどり着いた! うん! ピスタチオとすごくマッチしている。あ、これこの前山田が作ってくれてチェリーと一緒だ! ……グラスの上にクッキーがある……えい! 壊れて中に入っていった! 面白い。このために空洞があったのね? 中には……杏仁豆腐みたいなアイスクリーム?? おいしい! 白いワインのジュレも爽やか! これフルーツワインだ!」
オーナーが引いていた。
「か、かなえちゃん? あなた凄いね。そんな風にちゃんとわかる人って珍しいわよ?」
そうなの?
無口だった山田が口を開いた。
「ああ、そうだ。それは一種の才能だ。そこまで判別できるのはすごいことだ」
や、山田に褒められた!
「……ありがと」
素直にお礼を言っておこう。
「……お前は試食係に任命だ」
「え! なによそれ! 食いしん坊みたいじゃん!」
「いや食いしん坊だろ? 食いしん坊は悪い事じゃない」
「ええー! 馬鹿な子みたいじゃん!」
「うるさい。さっさと仕事しろ」
「今日は休みですーー」
オーナーが仲裁してくれた。
「はいはい。夫婦喧嘩はやめて仕事しようね~」
「「夫婦じゃない!!」」
見事にハモってしまった……
その後、山田は仕事に戻り、私はまっすぐ家に帰った。
やっぱり初めてのバイトは身体がきつい。
でも、オーナーのパフェ食べてちょっと元気になった。
甘いものって凄いな。
あれ、もしかして山田は疲れている私をみて、試食に連れて来たのかな?
……うん、考えても分からない! 今日はぐっすり眠れそう!
私はそのまま勉強をせずに、爆睡してしまった……