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プリン

 私は飯田橋かなえ。

 クラスでリア充してるわ! ……わけあって今はお菓子屋さんでアルバイトをしてるの。


 初めは変なクラスメイトがいて、どうしようかと思ったけど……意外と素直で悪い奴じゃないってわかったわ。

 口が悪すぎるけどね!


 今日の昼休みにクラスでお弁当を食べていると下級生の女の子がうろうろしていた。


 小さくて可愛らしい女の子だ。

 あれ? 私見たことある?


 あ! 山田がパンをあげた子だ!


 知らない子だから声をかけるのも変だし……ちょっと様子を伺ってみた。



 女の子は誰かを探しているようだ。


 誰だろ? 委員会とか部活とかかな?


 あ、目があっちゃった……


 女の子は意を決した顔で私の元まで歩いてきた。


「おいおい、かわいこちゃんが来たぜ!」


「お前馬鹿か! 怖がってんだろ!」


「一年かぁ、懐かしいな~~」


「もしかして拓海君目当てとか?」


「ありえる~~」


 女の子は私に向かって言った。


「あ、あの! 人を探しています! ……この学年って言うのはわかるんですが……クラスがわかりません……他のクラスは調べたのであとはこのクラスだけです」


「「人?」」


 私は寝ている山田を見た。

 おい起きろ! 絶対お前の事だよ!


 私は仕方なく女の子と喋ることになった。

 だって他の奴らはからかうだけなんだもん!


「えっと、あなた……」


「はい! 一年の柏木瑠丑井かしわぎるーしーです! ルーシーって呼んでください!」


 きらきらしてる名まえね。


「ルーシーさん……どんな人を探してるの?」


「はい! 多分……この学校で一番イケメンで背が高くてスタイルも良くて声も素敵で……ルーシーの理想の王子様です!!」


 リア充グループが騒ぎ出した。


「おいおい、やっぱり拓海じゃねえかよ……少しは俺かもって期待したのに!」


「あ~あ、拓海なら仕方ないか~、つーか毎週告白されてんよな?」


 拓海がルーシーに話しかけた。


「ルーシーさんだっけ? ごめんね……俺好きな人いるからさ……諦めてね……」


 拓海は上級生の風格を出しつつ、やんわりとお断りを入れた。

 うん、やっぱり馬鹿だこいつ……


 ルーシーは半眼になった。


「はっ? あんた誰? こんな下品な人は知りません。勘違いしないでください。というか、私の王子様と一緒にしないでください。あのお方は光り輝いてます! そこらのモブは黙っててください!」


 ルーシーが拓海を一喝した。


 え、この子大丈夫??

 拓海も一応かっこいいよ? タイプじゃないけどさ。


 拓海とその仲間たちは固まってしまった……


「絶対このクラスにいるはずです!」


 ルーシーは辺りを見渡した。


 寝ている山田のところで視線が止まった。


「……も、もしや……どきどき」


 ルーシーは小走りに山田に近づいていった。

 私も気になってルーシーの後ろに立った。


 机で寝ている山田の正面に立つ。

 ルーシーは机の前にかがんで山田をガン見した。

 時折山田の髪を上げたり、顔を両手で持ち上げたり、ほー、とか、ふえー、とか言っている。

 傍から見たらヤバい子だ。


 ルーシーが両手で山田の顔を上げている時に山田の目が開いた。


 山田の目がルーシーを飛び越えて私を見る。


「……おい、飯田橋。これはどういう状況だ?」


 私は目をそらした。


 ルーシーが泣き出した。


「ああ、あああ、ああああ、ついについに……私の王子様と出会うことが出来ました!! ああぁぁぁぁーー!!」


 クラス全員ドン引きだ。


 山田は私に目で訴えた。

 ……こいつをどうにかしろ。そして俺の安眠を奪うな。

 はい、了解です。


 私はルーシーの首根っこを掴んでクラスからたたき出した。


「何するんですか! 私の王子様との劇的な再会を邪魔するんですか! ていうかあなたなんで王子様と目と目で通じ合っていたんですか? ……もしかして恋敵ですか? きーー!! 悔しい!! 私は負けません! たかが顔がいいくらいのリア充になんかに!」


 あれ、この子ムカつく。


 やがてチャイムが鳴って、ルーシーはいそいそと自分のクラスに帰っていった。


 ……疲れた。

 バイトで甘いもの食べよ。






 不機嫌さを隠して、スマイル全開の山田がカウンターに立っていた。


 今日はデザートを作っていた。

 綺麗なコックコートを着て、流れるような動きでデザートを作る。

 お客さんの目がハートになっていた。


 ……学校とのギャップが激しすぎんのよ。


 私もいつも通り洗い物に入った。


 サービスが一段落したら山田が話しかけて来た。


「おい、飯田橋。あの変な女はだれだ?」


「私が知るわけないじゃん! ていうか誰かれかまわず優しくするからよ!」


「?」


 こいつは本気で理解してない。

 説明するのも面倒くさくなってきた。


「頭がおかしい女の事は記憶から消そう。……これを食え。あり合わせで作ったものだ」


 山田が持っているお皿の上にはプリンが乗っていた。

 プリンの上にアイスクリームと生クリーム、チェリーのコンポートが添えてある。


「え、食べていいの!! やった!!」


 最近はこれが楽しみでアルバイトに来てる感が強い。


「さっさと食え」


 私はまずプリンを食べた。

 あ、意外と固い。スプーンで口に入れると濃厚な卵の香りが広がる。

 固いと思ったら超なめらかで……おいしい!


「このプリンは卵黄と生クリームの割合が多くて濃厚だ。疲れた時にいい」


 アイスクリームも食べてみる。

 これもすごくなめらか! バニラの香りも強いし、こんなおいしいアイスクリーム初めて! 


 チェリーも食べてみる。

 ん!? すごい……チェリーが凝縮されているみたいに味わい深い。

 赤ワイン使ってるのかな? 臭みもなくていくらでも食べられる!


 全部一緒に食べると……ばらばらの味が一体化する!


 私はペロっと全部食べてしまった。


「はうぁ……山田……これも超おいしいよ!!」


 山田は私が食べている間ずっと横にいた。

 ちょっと恥ずかしいよ……


 少しだけ嬉しそうな山田の顔。


 やっぱ、パティシエさんは自分が作ったものを食べて喜んでもらえると嬉しいんだね!


 なんか疲れも吹き飛んだ!


「……元気になったな。さっさと洗い物をしろ」


「はいはい、わかりましたよ!」


「……うん? ずいぶん物分かりがいいな」


 そりゃこんなにおいしいものが食べれたからね!


 その後、私たちはルーシーの事を記憶から抹消して、楽しんで仕事をしていた。





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