タピオカ
山田が教室に入った瞬間、クラスがパニックに陥った。
今日はギリギリで登校するって言ってたもんね。
「あ、あいつは誰だ!!」
「くっ!? 転校生か?」
「え、地味に可愛い小牧ちゃんが手をふってる?」
「おい、あいつ、かなえちゃんグループのところへ歩いていくぞ??」
私は山田の姿を見て嬉しくなった。
……うん! かっこよくカットできて良かった!
アルバイト以外で見る山田の格好いい姿は久しぶりだな〜
あ、今度洋服も買わなきゃね!
小牧ちゃんが拍手していた。
「うわぁ、かなえさん、やりすぎですよ……山田君は元がいいからちゃんとしたらモテモテになっちゃいますよ……」
フランソワーズは山田を見てサムズアップをした。
『ビアン! さすが僕が目をつけただけあるね! 僕のおかげだよ!』
小牧ちゃんがフランス語で返した。
『いや、ありえねーから、あんた何もしてねーよ』
……あれ、小牧ちゃんのフランス語って砕けすぎてない? うん、まいっか!
「うん、わたち、フランス人、おしゃれの国!」
「フランソワーズちゃん、意味わかんないよ」
山田はクラスの喧騒を無視して自分の席に向かった。
私の前に立つ。
「……どうにか教室までこれたぞ? 正直恥ずかしかった」
私も席から立って、山田の身なりをチェックした。
「でも来れて良かった! ……髪のセットもよし、制服もよし。……完璧ね!」
私は山田の肩をペチペチ叩いた。
「ふん、お前のおかげだ」
「あ、お前言っちゃだめだよ!」
山田はちょっと照れた感じで言い直した。
「……ふん、かなえのおかげだ」
クラスメイトが悲鳴を上げた。
「ええぇーー!! 山田だと!」
「あれ、確か前にかなえさんと一緒に帰った奴だよね!」
「やっぱり私の目に狂いはなかったのね……」
「山田……様……」
クラスメイトは騒いでいるが、今まで山田と話したことがない。
山田は陰キャでボッチである。
今まで話しかけていなかったクラスメイトに、急に話しかけるのは気まずいと思っているようだ。
山田本人は普段と全く変わりがない。
清々しいくらいクラスメイトに興味がないようだ。
私達はそのまま小牧ちゃんとフランソワーズと山田で先生が来るまでおしゃべりをして過ごした。
昼休みになると、山田パニックは全校生徒に伝播していったようだ。
……他のクラスから女子がうちのクラスに殺到している。
みんな山田目当てだ。まるでタピオカミルクティーを求めて行列に並ぶ女子高生だ。
流石に教室内まで入って来ないけど……
あ、ルーシー入って来れるのかな?
私が心配してると山田は席をたった。
「……あいつの気配がするな」
あいつ? ルーシー?
「……ちょっと連れてくる。すぐ戻るから弁当の準備を頼む」
「オッケー! 気をつけてね!」
「あわわ、あの野獣の群れの中に行っちゃうんですね!?」
「山田、がんば!」
山田は大量の生徒達が塞いでいる教室の入り口に向かった。
ていうか、ルーシーどこにいるの? 小さいからわからないわよ……
山田が動くと出待ちの生徒達が沸いて騒がしかった。
「「きゃーー!!」」
「立ち姿も素敵!!」
「王子よ! 本物の王子様がいるわよ! 夢じゃない……異世界じゃない! 現実なのよ!」
ヒートアップする生徒達。
流石にクラスメイトもうるさすぎて眉をひそめていた。
山田が出待ち生徒達の前に立つ。
その姿は無駄に堂々としている。
右腕をゆっくりと目の高さまで上げた?
山田が息を吸うと胸が一瞬大きくなった。
手を払う仕草と同時に山田は生徒達に一喝した。
「黙れ」
山田の低くて透き通るような声が辺りを支配した。
生徒達はまるで魅了された様に静かになっていった。
授業中と同じ静寂が辺りを包み込む。
山田……あんた魔法使い!?
山田が歩くと生徒達が道を開けた。
私も気になってあとを付いていく。
クラスメイトの誰かがつぶやいた。
「モ、モーゼだ…………山田のモーゼだ」
「道が……開いた」
あれ、近くにいた拓海だけ怯えている? なんかブツブツ言ってるわ?
「ひぃ……ヤバいって……オーラがみえるよ……」
道を開けた出待ち生徒の先に……ルーシーがちょこんと立っていた。
「ふえ? や、山田様!! ルーシー……今日は一緒にご飯食べれないと思ってました……でも、山田様が迎えに来てくれて、ルーシー感激です!!」
ルーシーは山田の胸に飛び込もうとした。
山田はルーシーの頭を片手で押さえる。
「……ふん、お前がいないとせっかく持ってきたデザートが無駄になる。早く来い」
山田はそのままルーシーの頭をポンポンと叩いて、撫でてあげていた。
いつも冷静なルーシーは珍しく顔が赤くなって恥ずかしがっている。
「は、はい! 山田様!!」
出待ち生徒達は唖然とした表情でルーシーを見ていた。
山田とルーシーは教室へ無事入って来れた。
出待ち生徒達はまだ静かだ。
みんな胸に手を当てている……これもしかして山田の言葉を待っているのかしら?
山田とルーシーは私達の席に戻って来た。
山田は一度後ろを振り返った。
少し考えたあと、出待ち生徒達にひと言告げた。
「戻れ」
出待ち生徒達は悲鳴を上げながら自分のクラスへ戻って行った。
「よし、これで大丈夫だ」
「涼君、ちょっとドン引きよ……少し髪を切ったくらいでこんなになるなんて……」
「え、かなえさん、当たり前じゃないですか! 山田君は格好いいですよ!」
「いやね、小牧ちゃんさ〜、ここまで騒ぐとは思わなかったのよ……」
「かなえ、山田イケメンだ」
「そうですよ、かなえ先輩。……ルーシー予測ですが、かなえ先輩は自分が超絶美人だから、あんまり美醜を気にしないのですよ」
そうなの? でも小牧ちゃんもルーシーもフランソワーズもかわいいよ?
「そうですね? 山田様?」
「……俺はよくわからんが……かなえは綺麗だと思うぞ」
「ちょっと!?」
山田は少し照れながらバックからタッパーを取り出した。
「……少しまて、準備する」
山田は……説明しながらデザートの準備を始めた。
「今日はタピオカドリンクだ」
タッパーを開けたら、艶々で黒くて大きいタピオカが入っていた。
「タピオカは澱粉質の塊だ。元はキャッサバという芋の一種だ。まず、沸騰したたっぷりのお湯で茹でる。だいたい30分くらい茹でたら蓋をして火を止めて蒸らしに入る。好みの固さでストレーナー(ザル)でお湯を切る。水で軽く流して、ボールにあけて黒糖をまぶしたら出来上がりだ」
「結構面倒なのね?」
山田は用意したカップにタピオカを入れていった。
「この中に、ミルクティーを入れる。甘さはなしにしてある。茶葉はアッサムを使っている。ミルクティーに合う茶葉だ。今回はコーヒージュレと練乳のムースをのせて香港風タピオカミルクティーの出来上がりだ」
……だんだん学校で食べるレベルじゃなくなっている気がするけど、まいっか!
「コレが噂のタピオカドリンク……」
「わたち、はじめて」
「ふふ、私好きなんですよね」
「ルーシも初めてです!」
「これを使え」
山田は大きなストローと長いスプーンをくれた。
そうね……このドリンクはもはやパフェに近いかもね。
私はストローを刺して、タピオカドリンクを飲んで見た。
「うわぁ……タピオカが柔らかい! 甘さもちょうどいいね……」
もちもちしたタピオカの食感が気持ちいい。
味もしっかり付いていて、タピオカ単品で食べても美味しい。
ミルクティーも美味しい……茶葉の質がいいけど、蒸らし具合がちょうどいいのね?
コーヒーゼリーと練乳のムースと一緒飲むと、まるでケーキを食べているみたい。
固めのゼリーとすごく柔らかくて練乳が強いムース。
タピオカドリンクって美味しいんだ……
ただの流行りじゃなかったのね!
山田も美味しそうに飲んでいる。
ふふ、いつも山田の表情がわかるって良いね、
髪切って良かった。
山田もなんか楽しそうだし。
アルバイトへ行ったら、オーナーびっくりするだろうな。
山田を見ていたら、目が合ってしまった。
「……どうした?」
私はなぜか慌ててしまった。
「な、何でも無いわよ!?」
山田はイメチェンして変わったけど、私にとっては今まで通りの山田だ。
小牧ちゃん達も山田に対する接し方が変わらない。
やっぱり、ここは居心地がいいね……
涼君が笑っている。
涼君、本当に良かったね……




