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カレーと山田の髪


「やったーー!! 終わったよ!!」

「俺は自由だーー!!」

「もう駄目……」


 期末テスト最終日。

 テストは問題ない。授業を真面目に聞いていて、予習と復習をしていればわかる範囲の問題だ。


 ……仕事をして思ったのが、学校の勉強は大事だ、ということだ。


 人生はつねに勉強だ。

 学生のころから習慣をつけておかなければ後で後悔することになるだろう。


 テストはどうでもいい。

 今日はこの後、飯田橋にお願いしたことがある……


 俺の家で……俺の髪を切ってもらうことになった。






 俺は一足先にマンションに着く。

 飯田橋は道具を持ってくるため一旦家に帰った。


 ……もう何年も髪を切ってないな。


 俺がこんな格好だと、飯田橋が笑われるからな……


 マンションのベルが鳴った。


『お待たせ! 扉開けて!』


 柄にもなく緊張している俺がいる。

 俺は扉を開けた。


「ふふふ、風邪の時以来の涼君の家だね!」


「ふん、上がれ」


 飯田橋は「お邪魔しまーす!」と言って靴を揃えて、部屋に上がった。


「えっと、まずどうしよっか?」


「腹はへってないのか?」


「うぅ……ペコペコだよ……」


 俺は猫の絵柄が入ったエプロンを身にまとい飯田橋に告げた。


「少しまて、カレーを仕上げる」


「え!? いいの! やった!」


 俺は髪を切るまでの時間稼ぎをすることにした。

 ……切らなけばいけないが、心の準備が必要だ。


「座ってテレビでも見てろ」


「うーん……なんか手伝うよ! あ、野菜がある……サラダ? 野菜切ろっか?」


 キッチン台の上には色とりどりの野菜を置いてあった。


「……お願いする。俺はカレー用の肉を焼く。ほら、かなえ、これを使え」


 俺は飯田橋にエプロンを渡した。

 熊さん柄のエプロンだ。


「わ! これ可愛いね! へへ、じゃあ準備しよ!」


 俺たちは二人でキッチンに立った。


 カレーは昨日から仕込んである。

 大量の玉ねぎを3時間かけてキャラメル状にしたものを作っておく。

 スパイスを鍋で炒める。クミン、ターメリック、コリアンダー、カイエンペッパー等々のスパイスの中にトマトやヨーグルトを加える。

 しょうがや水を加えたり、火を調整して、ガラムマサラを加える。


 これでカレーベースの完成だ。

 今回はチキンと合わせる。


 カレーベースにチキンと特製スープを加えて煮込む……


 飯田橋が野菜をカットしながら鍋を覗いてきた。


「うわぁ、本格的ね……流石、涼君……」


「カレーは自家製が一番だ。辛さの調節もしやすいしな」


「あ、辛いの?」


「……いやこれは辛くない」


「良かった! 私も辛いの駄目だから!」


 飯田橋は手際よく野菜をカットして皿に盛りつける。

 戸棚にあるオリーブオイルと塩とバルサミコ酢でドレッシングを作っていた。


「ふふ、かなえ特製ドレッシングよ!」


「そうか。楽しみにしてるぞ。かなえの料理は旨いからな」


 最近は毎日弁当を作ってきてくれる。非常に助かっている。


「ふぇ!? ほ、褒めても何もでないよ!」



 昼食の準備が出来た俺たちはリビングのテーブルへ座った。


 テーブルの上にはチキンカレーと飯田橋特製サラダがある。


「うわーー、結構豪勢だね! ……高校生が作る料理じゃないよ」


「旨ければそれでいいんだ。……後でデザートもあるぞ」


「やった! ……ねえ食べよ! いただきまーす!」


「いただきます」


 飯田橋がカレーを一口食べた。


「あ、本格的なインドカレーと思ったら、凄く食べやすい! スパイスが効いてるのになんだろう? 旨味がある? 鶏肉も柔らかい……」


 もぐもぐ食べる飯田橋。

 俺もサラダを食べ始めた。


「ふむ……サラダもうまいぞ。ドレッシングが調度良い……」


「それだけ! でも、まあいっか! 野菜切ってドレッシングかけただけだし!」


「いや、なんていうか……かなえの作る料理は俺の口にあっている。いつももらっている弁当もそうだが、好きな味覚が似てると思うぞ」


「あーー、そうかも。私も涼君のケーキ好きだしね!」


 飯田橋はにっこりと笑っていた。

 俺もつられて笑顔になってしまう。


 二人のゆっくりとした時間が流れていった。 







「あ、これどこ?」


「む、それはこの棚だ」


 俺たちは二人で後片付けをしていた。

 二人とも綺麗好きだからキッチンが汚れることはない。


「ふう、おいしかったね! ……お茶にする? それとも私が髪を切る? どっち?」


 いきなり飯田橋は顔を俺に近づけた。

 くっ、近いぞ。


「……髪を切ってからお茶にしよう」


「おっけー! 準備するね!」


 飯田橋はだだっ広いリビングの真ん中に椅子を置いた。


「はい、涼君ここに座って」


「う、うむ」


 俺はおそるおそる椅子に座った。

 飯田橋が変なマントみたいなもので俺を被せた。

 まるでテルテル坊主みたいになってしまった。


 全身鏡を正面に立てている。

 俺と……かなえを映し出していた。


 頭がいきなり冷たくなった。

 かなえが霧吹きで俺の頭を必死に吹いていた。


「涼君髪長すぎ! ……どのくらい切ろうか? すっごく短くする? ツーブロック? うーん悩むな。少し天パも入ってるから……どうしよっか?」


 俺は少しだけ考えた。


「正直、髪を切るのが久しぶりすぎる。あの髪型でもいいと思っているが……」


 母さんと俺が写ってる写真を指さした。


「ああ、坊ちゃんカットね……」


 俺は続けてかなえに言った。






「お前が好きだと思える髪型にしてくれ……」





 鏡の中のかなえは……頬を染めながら小さく頷いて……俺の髪をカットしていった。


 ハサミの音だけがリビングに響く。

 俺とかなえの息遣いが聞こえる。


 ハサミはリズミカルにチョキチョキと跳ねるように動く。


 俺はいつしかまどろんでいた……


 かなえが、俺の、髪を撫でてくれている……


 起きたら、どんな風に、なってるだろう、か……


 楽しみ……だ……




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