表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/31

スコーン


「涼君おはよ!」


「おはよう、かなえ」


 なんか山田と一緒に学校へ行くのが習慣になっちゃったの。

 毎日じゃないけど、山田がお店を休む日は大体一緒に行ってる。


 今までも友達がいたけど、私は仮面を被っていたの。

 ……でも、山田と一緒にいるときは本当の自分が出せる。


 私は山田を見た。


「……うん? どうした」


「ううん。何でもない!」


「ほら、今朝もらってきたスコーンだ」


「あ、ちょっと。……あ、まだあったかいよ!」



 山田はポンっと投げて私にスコーンを渡してきた。

 スコーンは少し温かい。


「焼きたてのスコーンはなにもつけなくてもおいしい」


「ふーん、いただきます!」


 私たちは歩きながらスコーンを食べ始めた。

 小ぶりなスコーンを少しかじる。


「あ、柔らかい。もっと固いと思ってた。……素朴な風味だけど、深い味がするよ……しかもサクサクするし……こんな高級感あるスコーンは初めて!」


「卵と牛乳が多い配合だ。ミルク感が強くて軽いスコーンだ。もちろんクロテッドクリームに付けて食べてもうまいぞ」


 山田はクロテッドクリームが入った小瓶を取り出した。


「へへ、さっすが涼君! これを、えい! ……あ、高脂肪のクリームとスコーンが超マッチしてるね! 紅茶が欲しい……」


 思わず笑顔になるおいしさだ。


 山田は懐から小さい魔法瓶を取り出した。


「ほら、アールグレイだ」


「わーい!!」


 魔法瓶のカップにアールグレイを入れてくれた。

 湯気が立っている。

 とてもいい香りがする。


 口に含むと、ベルガモットの香りが広がる。スコーンとクリームのおかげでアールグレイがもっとおいしく感じる。


「ふぅ……幸せ……涼君ありがと!」


 山田は小さく笑っていた。







 正直まだ、涼君って言うのは恥ずかしい……今までずっと山田って言っていたからね。

 山田って呼び方も好きだし、せっかくだから終わらせたくない。

 だから心の中では山田って呼んじゃうの……


 心の中まで涼君って呼んだら……恥ずかしい!


「おい、顔が赤いぞ? 風邪か?」


 山田が私の額に手を当てて来た。


「だ、大丈夫よ! ちょっと動揺しただけだから!」




 私たちはお菓子の話をしながらゆっくりと登校していった。




 途中でルーシーたちも合流して、みんなで学校へ向かう。

 バカ騒ぎをしながら周りの目を気にせず登校する。


 ……私が生徒たちの間で有名だから、生徒たちの山田に対する当りは強い。


 でも、その生徒たちはわたしは全く知らない人たちだ。


 なんで知らない人が私の大切な人を馬鹿にするの?


 リア充ってなに?


 そんなに偉いの?


 私は好きで有名になったわけじゃない。勝手に騒いで、勝手に理想を押し付けて……私は窮屈な毎日を送っていた。


 山田は凄いんだよ? 私の事を知らなかったし、はじめから遠慮ない口調だったし、ぶっきらぼうだったし……でも、最初から優しかった……


 山田はお店に出せるケーキを作れるんだよ? 

 学生でここまでできる子はいないよ?


 山田と登校できるのは嬉しい。


 ……でも、山田が何か言われるのは……嫌だ。


 ルーシーは山田が何か言われるのをわかっているから、率先してバカ騒ぎをしてくれる。

 やっぱいい子ね。


 学校内に着くと、私たちを噂する声が強くなってくる。


 正門から下駄箱までが一番凄い。


「あ、また変な奴と一緒だ」

「もしかしてかなえさんって趣味悪いの?」

「かなえさんってB専。だっさ」

「あのキモイのが一緒に来てるんだったら俺でも良くね?」

「山田って言うらしいぜ? 超絶陰キャだろ?」

「山田! ぷぷっ、モブすぎる名まえじゃん!」


 ……あーー、うるさい……、私は普通に学生生活したいだけなの。大切な友達と一緒に。


 ルーシーが山田に聞こえないように騒いでいるけど、山田は耳が良いから絶対聞こえてるよ。


 ……馬鹿な事を言わなきゃいいんだけど。


 山田は小声でつぶやいていた。


「……俺はどうでもいい。かなえの悪口を言うやつは……許さん」


 ……ちょっと! あんた駄目よ! あ、こら!


 山田は私の悪口を言った生徒の元へ行こうとした。が、途中で足を止めた。



 クラスメイトの拓海が女子生徒の前に立っていた。


「……おい、俺の友達の悪口をいうなよ? 君はどこのクラス?」


「え!? た、拓海さん……す、すみません……悪口を言うつもりじゃ……」


 少し怒った拓海の顔が、にっこりと笑顔に変わった。


「おっけ。じゃあこれからは悪口は言わないでね! 俺は良い子が好きだよ」


「……は、はい!!!」


 女子生徒は拓海にメロメロだ。


 拓海は私たちの噂話をしていた生徒たちに向かって大声で言った。


「君たちもいい加減くだらない話をやめて、早く教室へ行きなよ? 山田は君らが思ってるほど安い人間じゃないよ」


 ーーえ!? 拓海が山田を上げてる??


「拓海君、かっこいい……」

「はーい! すぐ行きます!」

「さすがキングオブリア充……」

「……でも、拓海君にそこまで言わす山田って何者?」



 拓海が山田の方へ近づいてきた。


「む?」


 山田は不思議がっている。


「山田。お前がなんで色々隠しているかわからないが……俺よりも凄い奴が馬鹿にされるのを見るのは好きじゃない……自分が馬鹿にされた気分だ」


 拓海が軽く息を吐いた。


「……すまん。ただの自己満足だ」


 拓海は颯爽と歩いて学校へ入っていった。



 ……そうね。拓海はお調子者だけど、無駄に正義感が強かったからね。クラスで拓海だけが山田を意識してたもんね。


 私は山田の手を引いた。


「遅れるから早くいこ! 後で拓海にお礼言わなきゃね!」


「……そうだな、助かったからな。よし、行くぞ……………………俺もそろそろちゃんとするか」


 小声て呟いた山田は自分の髪を気にしながら、小走りで教室へ向かった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ