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ブールドネージュ

 骸骨みたいな顔の数学の教師が告げた。


「もうすぐ期末テストだ。今日は小テストをするぞ!」


 生徒達は悲鳴を上げた。


 隣のフランソワーズが私の腕をつんつんしてきた。


『なに? どうしたの? なんかイベント?』


『……違うわよ。テストよ、テスト!』


『え、僕どうすればいいの!?』


『あんたは引き続き日本語の勉強をしなさい!』


「うん、わかた。わたち頑張るのね!」


 片言の日本語を話すフランソワーズを見てニコリとしている小牧さんがいる。


『日本語良くなってきたね』


「うん、マキと話す。学校終わるとき! 楽しい!」


 ーーうんうん、分かったから。ほら授業中だよ。


 数学の小テストの用紙が前の席から手渡された。


 私は後ろを向いて山田に用紙を渡そうとした。

 前髪で全く顔が見えない山田が用紙を手に取った。


 ……この髪を切るのか……なんで、あれっきりなんにも言ってこないよ!


 髪を切れ宣言のあと、すぐに小牧ちゃんとフランソワーズが来たから会話が中途半端に終わってしまった。

 その日のアルバイトの時もお互い切り出せないまま終わってしまった……


 いつ切ればいいの? ていうかどこで??


「……? どうした飯田橋。前を向け」


 私は後ろを向いたままだった。

 ていうかあんたのせいじゃん!




「よし今から20分、開始!」


 一斉に用紙に書き込む音が教室から聞こえてきた。





「はい終了〜、お疲れさん。別に成績に影響ないテストだから今から自己採点しろ。一個一個説明するぞ〜」」


 先生が黒板に答えを書いていった。


 隣の小牧ちゃんが難しい顔をしている。


「う〜ん、わたし文系だから数学は苦手なんですよ……かなえさんはどうでしたか?」


「え、私……特に問題なかったよ! どちらかというと理数系の方が得意だから!」


「わたち、フランスで……『僕はフランスでは神童って言われる位、頭良かったよ!』」


 私と小牧ちゃんは顔を見合わせて笑いあった。


 山田がフランソワーズにツッコミを入れた。


『では何故日本語ができない? 英語はどうした?』


『僕の才能はピーキーなの! 数学と物理だけは凄いんだから! 山田はどうなのさ!』


 そういえば山田って成績どうなのかな?


 小牧ちゃんが遠い目になっていた。


「山田君は……学年一位です……図書室の先生から聞きました……」


「そうらしいな。あまり興味が無い。所詮狭い世界の話だ。広い世界にはもっと勉強ができる奴がいるだろう」


 さすがね……達観してるわ……


「かなえさんもいつも学年上位をキープしてますよね? すごいな〜」


「……部活もやってなくて趣味も無いからね……クラスメイトと出かけるのもいつも断っていたし……勉強くらいしかやることなかったからね」


 採点結果、私と山田は満点だった。

 小牧ちゃんも自信が無い割に1問しか間違えていない。


「今日はここまでだ!」


 チャイムが鳴ってお昼休みの時間になった。





 ルーシーが私達の教室に飛んできた。


「山田様! 寂しかったですか!? このリア充に変な事されてませんか!」


「ご飯を食べるぞ」


「御意!!」


 ルーシーは大人しく席に座った。


 ……山田のスルースキルが上がっているわ。


 でも前ほどキツイあたりじゃないわね。


 慕ってくれてるから可愛く見えてくるのかしら?





 私達はみんなでお弁当箱を広げた。


 私はいつも通り自分で作ったお弁当。

 ルーシーも綺麗に作られたお弁当だった。

 小牧ちゃんは可愛らしいお弁当で、フランソワーズは……また焼きそばだった……


「焼きそば、美味しい、でも……飽きた……」


 どうやらフランソワーズは焼きそばしか作った事がないようだ。

 パスタとかパエリアとか挑戦したけどうまく行かなかったらしい。


「仕方ないです。ルーシーのお弁当を分けてあげるです! 焼きそばいただきです!」


『ありがと!! 僕嬉しいよ! ……これルーシーが作ったの?』


「そうです! 私が山田様に食べさせるために磨いた料理スキルです! ……山田様いかがですか?」


 ルーシーは卵焼きを山田のパンの上に乗せた。

 山田は考えているようだ……

 あ、食べた。


「……うむ。うまいな……ちゃんとした出汁で作っている卵焼きだ。焼き方も均一で素晴らしい」


「や、山田様に初めて褒められたーー!!」


「ちょっとルーシーさん、うるさいですよ……ほらリア充グループ達に見られてますから!」




 遠くで拓海が私達を悲しそうに見ている。


「……かなえ、楽しそうだな……俺もフランス語覚えようかな……」


 でも、他のリア充グループ達は違った……


「花子! 今日カラオケ行こうぜ!」

「うん! 今日も一緒だね!」

「あ、タケシ君さ……この前貸してくれた小説ありがと……すっごく胸がキュンキュンしちゃったよ……」

「へへ……じゃあ今度さ、その小説の聖地に行ってみようぜ! ……二人だけでさ……」

「!?」


 なにやら桃色空間になっていた。

 私はそっちを見ないようにした。




 山田は少し眠そうだけど、ちゃんと起きてご飯を食べている。

 それ、お店の朝食の余りものじゃない?


「……山田っていつもパンだけどさ、料理作るのが面倒くさいの?」


「……昼は何でもいいと思っている……」


「ばっか! そんなんじゃ駄目じゃない! パティシエなんだからちゃんとしたもの食べないと!」


「分かってる……そんな事分かってる……だがな……今までは昼休みは寝ていただけだ。……昼ご飯を用意するという習慣がなかったんだ」


 ーーあ、そういえば休日のアルバイトの時、山田は昼ごはんを食べていなかった。


「山田さん、健康に悪いですよ?」


『けけけ、僕は焼きそば作れるもんね!』


「ルーシーのご飯を分けます! ……あぁ!! フランソワーズ! 食べすぎです!」


「……仕方ないわね。今日はちょっと多く作ってあるからあげるわよ。私もうお腹一杯だし……」


「……む、すまん」


 私のお弁当は半分ちょっと食べた所だった。


 ……あれ!? どうやってあげればいいの?


 小牧ちゃんが良い笑顔で言い放った。


「ふふふ……そのままお弁当箱を山田くんに渡せばいいんですよ?」


 ふぇ!? 小牧ちゃん? なんかワクワクした顔になってるよ!


「なるほど、そうか。……しかし、箸が無いぞ? ケーキスプーンしか持ってないぞ? 仕方ない。これで食べるか」


 フランソワーズが山田の小さいスプーンを奪い取った。


『ノン! かなえの箸を使えばいいの!』


「なるほど、使っていいのか?」


 山田が私に聞いてきた。

 ……ああ〜〜、もうどうにでもなれ!!


「いいわよ! 使っていいわよ! しっかり私のお弁当を堪能しなさい! 」


 私は恥ずかしくなって山田を見てられなかった。


「くっ!? リア充の魔の手です!! ルーシー悔しい!!」




 山田が私のお弁当を食べ始めた。


 お箸を綺麗に使って山田がお弁当の残りを食べ始めた。


「これは……懐かしい味だな……ご飯の炊き具合が好みだ。……アスパラの火加減も最適だ……肉も固くなっていない、処理がいいのだろう……人参のグラッセも良くできている。……旨いな」


 ちょっと、あんた! 恥ずかしいわよ! 


 山田はどんどん食べる。

 やがて綺麗に食べ終わった。


「ご馳走様だ。……正直驚いたぞ。まさか飯田橋がこんなに料理ができるなんて……想像だにしなかった」


「ちょっとそれ失礼じゃない! 私だって女の子だもん!」


「……食いしん坊だからか……」


「食いしん坊じゃないから!」


 山田は私の言葉を無視して、自分の鞄の中に手を突っ込んだ。


「では、これは俺からだ」


 机の上に筒状の容器に入った焼き菓子を取り出した。


「山田様、これはなんですか!?」

「わぁー可愛いですね」

「ぶーるどねーじゅ」


 筒の中にはまん丸の形をしている焼き菓子が10粒位入っている。

 粉砂糖がまぶされていてとっても可愛い。


「そうだ、これはブールドネージュだ。食べたらすぐに崩れるようなクッキー生地にローストしたくるみを加えてある。焼き上がって冷えたら粉砂糖をふりかけて筒に詰める」


 そういえば昨日作っていたね。

 でも、ロスなんて無かったよね?

 もしかして、昼休み用に買ったの?


「まあ、なんだ……みんなで食え」


「わーい! いただきます!」

「ありがとうざいます!」

「メルシー!」


 私もブールドネージュを食べることにした。


 昨日焼いていた時はとてもいい匂いがしていた。

 バターをたっぷり使っていて、クルミの香りが凄く漂っていた。


 小さなブールドネージュを一口で食べる。


 口の中で一瞬で崩れてしまった。

 それでいてクルミの歯ごたえがある。


 バターの香りが鼻を通り過ぎる。


 クルミとクッキーの旨味が口の中に広がる。

 とても優しい味がする……とても美味しい……


 ……小さいからもう無くなってしまった。




 私は無意識に次のブールドネージュを手に取っていた。


 みんな同じでどんどん食べて行った。

 みんな笑顔で山田のブールドネージュを食べている。



「美味しいです!! さすが山田様!!」

「美味しいですね! いくらでも食べれそうです……」

『スッゲ!! 山田すげえよ! 何で山田が作る菓子は繊細な味なんだよ!』



 私は……そんな……友達達を見て、嬉しくなって来た。


 山田も照れ隠しでブールドネージュを食べていた。



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[一言] 拓海くんなんか可愛くみえてきた
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