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コンクール会場


 今日は山田に誘われてアルバイト前にどっか行くことになった。


 いやね、前に一緒に出かけているから大丈夫よね……

 でも、前回はオーナー命令だったし……

 今回は山田からなのかな? いったい何だろう?

 どうせ大した用事でもないと思うけどね。

 ……あいつ聞いても言ってくれないし。


『あれ、かなえどうしたの? 今数学の授業でしょ?』


 フランソワーズが不思議そうな顔をしていた。

 私は社会の教科書を出して、ぼうっとしていた……


『え!? あ、あはは……間違えちゃった……』


 私は笑ってごまかして、素知らぬ顔で授業を受けていた。




 お昼はいつもの5人で一緒に食べた。

 まだ2回目だけど、みんな好き勝手にしているから居心地が凄く良い。

 小牧ちゃんはフランス語の勉強をフランソワーズとしていた。


 山田は半分寝ているけど、少しずつみんなと喋る機会も多くなっていった。


 ……こんちくしょう! いい気に寝やがって……確か放課後になったらすぐ教室出るぞって言ってたわね。

 今日は5時限までしかないから早く終わるのよ。




 帰りのHRも終わろうとしている。


「はーい、じゃあ号令お願いね!」


 山田は素早く教室を飛び出していった。


 ーー!? ちょっとフライング! 先生はあんたのことだから動じてないけどさ!?


 日直が号令をかけて、HRはちゃんと終わった。


 や、山田……結局私は置いてきぼり?


 小牧ちゃんが声をかけてくれた。


「あれ、確か今日かなえさんと山田君って一緒にアルバイトに行く予定でしたよね……」


 不思議そうな顔をする小牧ちゃん。可愛い……


 フランソワーズは笑いながら私に言った。


『けけけ、あいつ怖くなって逃げ出したんじゃないか? 確か日本語で……ヘタレ!』


 ……しょうがない。とりあえず教室でるかな?


 私が席を立とうとしたら、山田が教室の入り口で立っていた……

 髪が……髪がセットされている!? シャツも着替えたのか、いつもよりもオシャレシャツになっていた!?


 や、山田!?


 小牧ちゃん達は何も言わないで見守ってくれている。


 教室の生徒たちが騒然となった。


「ええ!! あれ誰! 超イケメン!」

「モデル? あんな生徒いたっけ?」

「やっば! やっば! 誰か待ってるのかな?」


 女子が大興奮し始めた。

 誰も山田だって気が付いていない。


 山田は教室の騒ぎを知らん顔して私に手招きした。


 フランソワーズたちが私を見送る。


『ルーシーが来る前に行ってらっしゃい!』

「わわぁ、嫉妬しちゃいます!」


 私は山田の元に近づいていった。

 小声で山田が私に言った。


「これは……変装だ。これでクラスの奴らは俺とわからないだろう」


 まあそうだけど……どっかで待ち合わせすればよくなかった? 

 ……まいっか! せっかく山田がパティシエバージョンなんだし!


「じゃあ行こっか!」


 廊下で生徒たちが山田を驚いた目で見る。

 隣に私がいる事も驚いている。

 ……でも私たちはそんな目を気にせず学校を早々と出ていった。




「で、結局どこに連れて行きたかったの?」


「……そうだな。バイトまで時間がある。付いてきてくれ」


 電車を使って隣街に出ることになった。


 街に着くと、私に合わせて山田はゆっくりと歩いてくれた。

 場所を教えてくれないから私は学校の事やお菓子の事を話しながら山田と歩いた。


 ほどなくして大きな貿易センターに着いた。


「山田……ここは?」


「毎年ここで日本最大のお菓子のコンクールが開催されている。……男女二人で入館すると……割引になってな」


「先に言えばいいじゃん! もう! 色々期待しちゃったよ! あっ……」


「期待? ……あまり興味がなかったか? すまない。お前しか誘える奴がいなくてな……」


「えっ、いや全然大丈夫! お菓子のコンクールも超興味あったし、せっかくだから楽しんで行こうよ!」


「……よかった」


 私たちは貿易センターに入ることにした。


 入り口では少し恥ずかしい思いをした……

 男女割引あったけどさ……これカップル割引じゃん!

 受付のハゲたおじさんに本当にカップルですか、って確認されたし……


 山田はいきなり私の手を握ってきておじさんに言った。


「こいつは俺の女だ」


 握られた瞬間、ドキっとしてしまった。


 おじさんはにこやかな顔で入場を許可してくれた。




 コンクール会場は恐ろしく広かった……

 様々な作品が並べられている。

 マジパン細工や飴細工、チョコレート細工にバターデコレーション。


 多分1000点くらいあるんじゃないかな?


 人がすごい。まるでお祭りみたいな人混みになっていた。



 ……私たちは……入り口のおじさんがずっとこっちを見ていたから、そのまま手を繋いだまま先に進んで行った。


「……飯田橋、すまない。こんな目に合わせてしまうとは……」


「ふぇ!? だ、大丈夫よ。ほ、ほら、凄く混んでいるし、迷子になりそうだし……」


 顔が赤くなって山田の顔が見られない……


「了解した。ではお前の審美眼で作品を見るぞ」




 私たちは作品を絞ってみることにした。

 入賞作品で山田がいいと思った物を私が意見を言う。


「これはどうだ?」


「うーん、色使いがいいわね。でも、空間のバランスが悪いわ。ここをこっちに移動すると良くなるわね」


「……こっちの作品はどうだ」


「あ、これは全然だめね。なんで入賞してるの? パーツの形も悪いしゴテゴテしてるし……」


「ああ、これは審査員のごり押しだろうな」


「え、そんなことあるの!」


「見る人が見ればわかるから不正は少ないが、無いわけじゃない。審査員をしている大物シェフが自分の後輩を入賞させたくてごり押しするときもある……」


「へぇーー、色々大変だね! あ、こっち見てみよ!」


 私たちは人ゴミをかき分けながらどんどん移動していった。

 いまだに手は繋いでいる。


 でも作品を見ているうちに気にしなくなってきちゃった。

 なんか自然だな……



 移動しているとなにやらパティシエさんが実演しているブースに来ていた。


 女の人だからパティシエールって言うのかしらね。


 凄い綺麗な女の人が手際よくデザートを作っている。


 あれ、この動きどっかで見たことある……


 山田は私の手を引きながらぐいぐい前に進んで行った。


 パティシエールさんが山田に気が付く。

 パティシエールさんがウィンクした!


 え、知り合い?


 パティシエールさんはデザートを作り終えてマイクを持って話し始めた。


「はーい! これで実演終了でーす! みんな楽しかった? 私はとっても楽しかったよ!! 久しぶりの日本で大興奮だよ! ……この作ったデザートは……誰にあげようかな♪」


 美人パティシエールさんが周りを見渡す。

 私の所で止まった。


「おおっと!! そこのかわいこちゃん! あなたに決めた!」


「私!? や、山田、どうすればいいの?」


「もらっておけ」


 こうして私は美人さんのデザートを食べることになったのである。


「実演は終了だよ~、質問あったらこっちで聞くからね~、あ、かわいこちゃんはここで食べていいよ!」


 ブース内にあるテーブルと椅子を指さした。


 山田は私の手を離した。

 あっ……まだ手にはぬくもりが残っている。


 私は自分の手を見た。

 山田は大きな手だったな……あの手でお菓子を作るんだ……


 山田は私に席を引いてくれた。


「ほら、溶けないうちにさっさと食え」


 言葉とは裏腹に優しい口調だった。






 デザートを食べながら山田は作品について語っていた。

 その表情はとても真剣だった。

 いつか山田も出場したいみたいだ。


 ……お菓子が本当に好きなんだな。


 どうやら私に作品の良しあしを見てもらいたかったのと、実演のデザートを食べさせたかったらしい。


 うん、このデザートとってもおいしいよ。

 山田が作る物と似ているね。


 どうやら美人パティシエールさんは山田の師匠だったようだ。


 山田が時計を見る。

 もうすぐアルバイトの時間だ……


 そろそろ行かなきゃね。


 山田が席を立った。


「そろそろ行くぞ。そんなにゆっくりしていると置いてくぞ」


「ちょっとまってよ!」


 山田がそっぽを向きながら手を差し出してきた。


 私は山田の手を取って席から立った。


 私は笑顔になって、山田と手を繋いで歩きながら会場を後にした。




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