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ゆきやこんこん

作者: 猫崎

リハビリです。山も谷も無し

「ゆーきやこんこん、あられやこんこんっと」


 ──もう、こんな季節か。


「こんな体だからか、時間が流れるのが早いんだよなー。最近はがきんちょ共も来ないし」


 一人って結構、寂しい。

 俺の体は死なないけど、もし死があるならそれは孤独死だな。


「最近疎かにしてたからな……久々に神社の掃除でもするか」


 ニートは起き上がる。

 縁側から外の景色を眺めているだけではなく、なんと外界に踏み出そうとしているのだ。

 これは歴史的快挙だ。我々にとっては小さな一歩だがー的な。


「…………さむ」


 ぶるりと、頭上と尾てい骨付近で何かが揺れる。


「はぁ、やめたーっ。ニートの活動には、良い天気っていうのが絶対条件なんですー。誰かこんな雪の日に外に出るかっ!」



  ◇  ◇  ◇  ◇  



 俺の名前は確か……なんだっけ。まあ、どこにでもいる高校生だった。

 ある日弟の高校入試が上手くいきますようにと、適当な神社にお願いしに行った。

 手が滑って諭吉さんを賽銭箱に落としてしまった俺は何とか取り出そうと色々やった結果、まあ色々あって女性の体になってしまった。


 目覚めたらこの神社に居て、敷地からは出られなくなってた。

 景色的に結構な田舎にあるらしく、参拝客は全然来ない。偶にある祭りの時に、ちょっとうるさくなる程度だ。

 いやまあ、人は来なくて良い。

 だってこんな姿見せられないだろ。


 髪は銀髪でサラサラで、肌も真っ白でシミ一つ無い。

 そんで、極めつけは何故か生えてた犬耳と尻尾。

 顔も超絶可愛いし、こんなのが人前に出ていったら大騒ぎだ。

 よく分からん不思議パワーのせいで服は巫女服固定なので、目立つ目立つ。


 最初の二、三年はどうにかここから出ようとしてたけど、十年超えた辺りからどうでも良くなった。

 この体、なんも食べてないのに生きてけるし排便もしない。そもそも年を取らない。

 ぐうたらしている内にいつの間にか時間が過ぎていって、現在に至る。


「ああもう、犬だからって雪掻きさせんなよなー」


 誰も居ない境内で一人愚痴る。

 ふと、俺の犬耳センサーが人間の音を探知した。

 数は三人。懐かしい匂いもする。


「がきんちょ共、やっと来たか」


 俺が最後に会った記憶のある人間。

 男二人女一人の小さな子供たちで、一時期は毎日ここに来てたっけな。


「ふふっ、いっちょやるか」


 参拝客をもてなすのも、巫女の仕事だしな。



  ◇  ◇  ◇  ◇ 



「悠斗よー、なんでいきなりここに来たいってなったんだよ」


「そうだよー。こんな寒いんだし、祐也の言うとおり家でゴロゴロしよー」


「そこまでは言ってねえよ」



「二人とも付き合わせちゃってごめん……。でも、僕たち小さい頃によく来てたでしょ?」



「……ああ、小三の夏辺りだったか?」


「小ニじゃない?」



「三だね。まあそれはどうでもよくて。

 ──僕たち確か、あの時、誰かと一緒に遊んでなかった?」



「そうだっけか?」


「あたし子供の頃の事なんて全然覚えてないよー。悠斗凄いね」



「僕も詳しく覚えてる訳じゃないんだ。……ただ、あの時は、僕たち以外にもう一人誰か居た気がして。それを思い出したいんだ。


 っと、着いたね」



「うおーなっつ」


「あー、ここの狐の像に皆で落書きしたよね。駄目だってごねる悠斗を、あの人が抑え込んで……」


「あの人?」


「居た、居たよ! もう一人居た! あたしたち、ここで四人で遊んだよ!」



「由美ちゃんも思い出してきたね。……でも、誰かは思い出せない。いくら子供の頃の話でも、こんな事って──」



「悠斗危ねえ!」



「──えっ?」



  ◇  ◇  ◇  ◇



 目標Aに着弾、指示を求む。


「なんつって。ははっがきんちょ共! 来ないと思ってたらいつの間にかこんな大きくなりやがって!」


「……ぶはっ!」


「ゆ、雪玉!?」


「おい大丈夫か悠斗!」


「あっはははは! 悠斗! そうそう悠斗だ! そんでお前祐也で、お前が由美だったっけな」


 あの時のがきんちょ共、いつの間にか高校生くらいになってやがる。

 そんなに時間が経ってたのか。



「うぐぅ……あなたは……」



「おいおい、俺の事忘れたのか? まあ俺もお前たちの名前今思い出したけど」



「思い、だした! 狐様!」



「はぁ? この耳と尻尾はどう見ても犬だろ」



「このやり取り、何回もしました!」



「そうだっけ?」



  ◇  ◇  ◇  ◇   



「わー凄い、雪ちゃんの耳ってホントに生えてるー!」


「……なんでこんな強烈な人忘れてたんだ、俺」


「いやー、俺も久しぶりに知り合いに会えて嬉しいよ。背伸びたな」



「狐様は何にも変わらないですね」



「だから、犬だって」


「えー、だって狐の像あるよ?」


「それとこれとは無関係だ。だってほら、犬耳じゃん」


「狐だろ」


「……なんだとぉ? こーんな小さいガキだった癖にぃ〜……」


「え、ちょ、なんだよ、おい、やめ、やめr──づあだだだだだだだ!!!! ギブギブギブ!!!」


「耳は?」


「犬です! どう見ても犬耳です!」


「よし」



「二人とも、じゃれ合ってる場合じゃないよ」



「んー? どうしたんだ悠斗。お姉さんはお前の事も忘れてないぞー?」



「いや、そうじゃなくて。今日ここに来たのは、ある重要な話をしたかったからなんです」



「重要な話って?」



「僕のお父さんの知り合いがそっち系の人でして、お酒の席で聞いた話なんですが」



「勿体ぶるなよ。さっさとはな──」



「──この神社、近々取り壊すようです」



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