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異世界転生

 俺は自分の頬を撫でられる感覚で目を覚ました。目の前には深めにフードをかぶった人物がいたが、あたりが暗く顔まではよく見えない。

 驚いた俺は、周りを見回そうとするが自分の体が重い道理に動かないことに気付いた。

 どうやら俺の体は、子供サイズになっているようだ。いや、異世界への転生が成功して子供に生まれ変わっているというのが正しいだろう。


「■■■、■■■」


 声は女性のものだったが、その女性が話している言葉は、今までに聞いたこともないものだった。

 俺は急いでスキル振り分けを脳内で唱えると、スキルの一覧の中にグレーの『オーラム大陸語』というスキルが追加されていた。とりあえず『オーラム大陸語Ⅲ』までとることにする。この世界の言葉ならいつかはとらないといけない。


「だからごめんなさい。あなたを育てることができないの。母を恨んでくれても構わない。でもあなたには生きてほしい。」


 話を聞く限り、この女性は俺の母親なのかもしれない。

 名残惜しそうにこちらを見ていた女性はタオルで包んだ俺を夜の道端に置き去りにして走り去っていった。


(マジか。異世界に転生した途端に死ぬかもしれないなんてついてなさすぎる。もしかしたら貴族の家に生まれて楽に生きられるかと思ってたのに)


 自分の考えがどれだけ甘いか考えながら、リースに祈りつつ周りを見回していると、近くをきれいな鎧を着た男が通りかかった。


(こうなったら、恥を忍んででも生き残るしかない)


 覚悟を決めた俺は自分の出せる全力を持って大声で泣き始める。


「おぎゃー! おぎゃー!」


 俺の鳴き声を聞いた鎧姿の男はこちらに近づいてきて、俺を抱きかかえた。いまだに泣き続ける俺を見て困り果てた顔をしていたが、最後は俺を連れていってくれるようだ。


(よし! これで最低でも孤児院に連れて行ってもらえればなんとか死ななくてすむな)


 俺が捨てられていたのは路地裏だったらしく、男に抱えられた俺は表通りを進んでいく。街は石造りの家が多く、道幅も広い。日本で言えば四車線ぐらいはありそうだ。通りには多くの人がいて、この街がかなりの大きさであるとわかる。

 そうしているうちに男はとある一軒家の前で止まり、何かを決意した顔でその一軒家の入り口を開ける。


「おかえりなさい。あなた」

「ただいま。ミール」


 家の中から男に声をかけてきた女は、男の抱えている子供を見て不思議そうに尋ねる。


「あなた、この子はいったい?」

「実は帰ってくる途中に捨てられていたんだ。さすがにそのままにしておくわけにもいかなかったから仕方なく連れてきてしまった」

「それはかわいそうに。ではその子は孤児院に連れて行くんですか?」

「前回の戦争のせいで戦争孤児が増えている。孤児院も限界だという話も聞くし受け入れてもらえるかわからん」


 ミールと呼ばれた女の質問に対して男は困り果てた顔で返答するが、あまりいい答えにたどり着けないようだ。

 するとミールが男に笑顔でとある提案をした。


「でしたら我が家で育てるというのはどうですか?」

「確かに俺たちの間にはまだ子供ができていない。だがいいのか? まだ可能性はゼロじゃないだろう」

「ですが私はもう今年で35歳になります。この先、子供を授かる可能性はとても低い。それならいっそ、その子を引き取るのも良いかもしれません。あなたがその子を拾ったのは神のお告げかもしれませんよ」


 そういって微笑むミールを見て男は諦めたようにため息を漏らす。


「やはりミールにはかなはないな」

「そんなことありませんよ。あなたは私が何と言おうと、その子を助ける選択をしていたはずですから」


 無事に俺の新しい家が決まったところで二人に鑑定のスキルを使ってみた。

 男のほうの名前は、エイガー・ランテルツ。短く癖のある茶髪の爽やかなイケメンだった。鎧の下の体にはしなやかな筋肉が付いており細マッチョといつた感じだった。

女のほうは、ミール・ランテルツ。長い銀髪をなびかせている美人だ。体も細く美しいモデル体型といえる。

『鑑定Ⅰ』ではまだ名前までしかわからないようだ。

 せっかくの機会なので鑑定のスキルも強化するためにスキル振り分けを使うと、残りスキルポイントが2になっていた。どうやらオーラム大陸語のスキルが原因らしい。スキルレベルを2に上げるには2ポイント。3に上げるには3ポイント必要らしい。そういうのは先に行ってほしかった。

 しかたなく俺は『鑑定Ⅱ』を諦めることにした。


「名前はどうしようか?」

「あなたにお任せしますよ」

「わかった。明日までに考えておこう」


 その会話の後、ミールは食事の用意を始めた。エイガーは俺を抱きかかえ変顔をして笑わそうとしてくるがこっちとしてはかなり気持ち悪い。

 育ててくれるのはありがたいが、目の前に30歳半ばのおじさんの顔があればそう思ってしまうのは仕方のないことである。


「なんだ、全然笑わないな。面白くないのか?」

「突然だからびっくりしているんじゃないですか?」


 首をかしげるエイガーをみてミールがくすくすと微笑んでいた。

 それを見て改めて俺はとても良い夫婦に拾われたことを幸運に思った。


(この人たちの子供なら幸せに暮らさせそうだ)


 夕飯を食べ終わり、エイガーとミールは今後の俺のことについて話し合っていた。

 子育てには必要なものが多くあるため、その打ち合わせだった。例えば子供用の柵の付いた小さなベッドや服、それに乳母などである。


「ちょうど明日は、非番だから俺が買い出しに行こう」

「わかりました。乳母についてはどうしますか?」

「それについては心当たりがあるから、明日の朝一緒に行こう」


 二人が真剣に話しているのを素直に聞いていたが、だんだんと睡魔が襲ってきた。

 体を他人に完全に預けるのはかなり緊張したのと、まだ体が子供なのもあるだろうが、とても起きていられないぐらいの睡魔に襲われて俺は意識を手放した。


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