神を名乗る少女リース
「神様になりませんか?」
俺にそう声をかけてきたのは、今まで生きてきたなかで一番といっても何の問題もないほどの美少女が微笑んでいた。
腰まで届きそうなほど長く、それでいて日本人ではありえないであろう美しい金髪。そして、アニメや漫画から飛び出してきたんじゃないかと思うほど整っており、まだ幼さを残したその顔立ちは高校生ほどの年齢に見える。
そのあまりにも人間離れした美しさは本当に同じ人間なのかと思ってしまうほどだ。
「はっ!?、ここどこだよ。お前いったい誰だ!!」
一瞬その美しさに見とれてしまったが、ふと周りを見回すとそこには異様な光景が広がっていた。
今、俺がいる場所は見渡す限り真っ白で、どこまでも続いているんじゃないかと錯覚してしまうほど広い部屋。いや、ここが部屋と呼んでいいのかわからなくなるほど、今まで経験したことのないほどに異様な空間だった。
その真っ白い空間で俺は木製の椅子に座っていた。
「私は、神様ですよ」
「はぁ? 宗教の勧誘はお断りしてんだよ。とっとと俺をもとの場所に返せ」
たとえ相手が、今までに見たことのないほどの美少女でも、自分のことを神様と言っているクレイジーな女が目の前にいれば身の危険を感じずにはいられない。
「信じられないかもしれませんけど、私は本物の神様なんです。見てわかりませんか? この空間。そして私からあふれ出さんこの神々しさ!」
「お前の神々しさはわからんが、確かにこの空間は異様だとは思う。けどそれが、お前が神様という証拠にはならないだろ!」
「この神々しさがわからないとは、残念な人ですね。じゃあ聞きますけど、あなたがこの空間に来る前、何をしていたか覚えていますか?」
「ここに来る前? そういえば確か仕事が終わって、駅まで歩いる途中で正面から車が....あっ!」
そうだ思い出した。俺は、いつも以上に忙しかった仕事を終えて家に帰る途中で、正面から俺めがけて突っ込んできた車にはねられたんだった。
「もしかして俺はもう...」
「ようやく思い出しましたか? そうあなたのご想像通り、すでにお亡くなりになられています」
「マジか。俺、死んじまったのか」
「そうなんです。残念ながらあなたの人生は終了してしまいました」
「それで、俺はどうなるんだ? 天国か地獄のどっちかに連れて行かれるのか? それとも輪廻転生とかで新しい命になるとか?」
俺の質問を聞いた自称神様が、頭に?のマークが出てきそうなほど不思議そうな顔でこちらを見てくる。
「なんだ、その不思議そうな顔は?」
「自分が死んだことあっさりと認めるんですね。ここに来た人の多くは自分が死んだことを認められず、わめき散らす人が結構いるんですが?」
「あぁ、そういうこと。なんだかリアルに覚えてるんだよ。自分の体が車にぶつかって、巻き込まれてく感じをさ。今思えば、こりゃあ死んだなって思うもん」
「なるほど。そういうことなら話が早いですね」
そういって、ニコニコと微笑みながら美少女は、ぺこりと俺に向かってきれいな角度のお辞儀をしてきた。
「それならまず、自己紹介をさせていただきますね。私の名前はリース。全能神リースといいます。気軽にリースとおよび下さいね。どうぞ、よろしくお願いします」
「あぁ、こちらこそよろしく。俺の名前は」
「大丈夫ですよ。あなたのことは知っていますから」
ごそごそとリースは、懐から数枚の紙の束を取り出した。
リースの着ている服は、古代ギリシャなどでよく着られていたキトンといわれる服なので、裸の上にキトンを羽織っている感じなので懐から紙の束が出てくるのを見ると不自然極まりないのだが、なぜか今つっこだら負けな気がする。
「こちらの資料に、あなたのことはすべて書かれているので大丈夫ですよ。一応確認ということで間違いがあれば言ってください」
そういうとリースは手元の紙束を読み上げ始めた。
「えーと。お名前は武藤 暁さん。年齢は29歳で、独身どころか彼女いない歴イコール年齢のどうて」
「ストップ!! いったい何を口走ってるんだよ!!」
「えっ? 何か間違ってましたか?」
「いや、間違ってない! 間違ってないけど、もっとオブラートに包んでくれよ! ストレートすぎんだろ!」
突然、俺の恥ずかしい秘密を直球ストレートに暴露しだしたリースをあわてて止める。
「別にいいじゃないですか。今ここにいるのは、私と暁さんの二人だけなんですから」
「そういう問題じゃねーよ! それにいくら神様って言っても女の子が童貞とか言うなよな。夢が壊れるだろ。」
「あー。なんていうか、そのセリフが童貞くさいですね」
「もうやめて。死にたい」
「何言ってるんですか暁さん? もう死んでますよ」
リースはへらへら笑っているが、もう俺の精神的ダメージは修復不可能なレベルまでダメージを負ってしまった。自分でも立ち直れるのか不安なレベルだ。
「わかりましたよ。もっと柔らかくいきましょう」
「そうしてくれ。俺の精神の安定のために」
涙を流しながらそう答える俺を横目に、リースは再び手元の紙束に目を戻す。
「えーと。身長は175cm、体重は65kg。まぁ、平均って感じですね。4年で大学を卒業後に普通の中小企業に就職。特に波のない人生を過ごす。アニメ、漫画、ゲームが趣味で休日は家で趣味に没頭する日が多い。6年務めた会社の帰宅時に車にはねられて死亡。死亡時のレベルは9。まぁこんな感じですか? 特に間違ってるところとかなかったですよね?」
「?? ちょっと待ってくれ。レベル9っていったいなんだ?」
一瞬、俺の聞き間違いかと思ったが、確かにリースはレベル9と言った。俺の趣味がゲームだから冗談を言っているのかもしれないが、それにしては意味が分からな過ぎる。
俺の質問を聞いたリースが待ってましたと言わんばかりに説明を始める。
「レベルというのは、その人間の魂の大きさ、生命力と言うべきものかな。人間は読書をしたり、体を動かしたりすることによって様々な経験をする。そして、重ねた経験は自分自身を成長させていき、それにつられて魂の大きさや生命力がだんだんと大きくなっていく。私たち神々は、それをレベルという数値で表現しているんですよ」
「なるほど。そのレベルが上がるとやっぱりゲームみたいに体力とは、あとは力みたいなステータスが上がったりするものなのか?」
「そうですね。確かにレベルが上がればステータスが全体的に上がります。でも、レベルが1上がった程度では、実感できるほどの違いがありません。一度に10ぐらい上がればはっきりとした違いがわかると思いますよ」
なるほどと納得しかけて、ふと気が付いたことを聞いてみる。
「その説明を聞く感じだと、レベルが9の俺って相当低いんだな」
今のリースの話を聞けば、一度に10ものレベルが上がることがあるような言い方をしていた。にもかかわらず、俺のレベルは9と言うのはかなり低いと思う。
「いいえ、特に低くはありませんよ。暁さんの住んでいる世界では」
「その言い回しだと、俺のいた世界以外にも他が存在すると言っているように聞こえるんだが?」
「お察しの通り、暁さんが住んでいた地球という世界以外にも無数の世界が存在しています」
「ふーん。じゃあ、たとえばどんな世界があるんだ?」
もしかして魔法や剣で魔物なんかと戦う、みたいな漫画やゲームなんかであるファンタジーな世界もあるのかと思って聞いてみる。
「そうですね。暁さんが住んでいた世界とほとんど変わらない世界もありますし、魔法技術が発展している世界や、超巨大人型ロボットに乗って世界大戦をしている世界もあります。逆に人間が完全に滅び、新しい種族が繁栄している世界もありますね」
「うおー! まさに異世界って感じだな!」
リースの話を聞いて興奮した俺は、ついつい大声を出してします。
今まで趣味だった漫画やゲームのようなファンタジーな世界が実在していることや、自分が今いる状況はそれこそ漫画やゲームに出てくる異世界召喚の前振りなのではないかという期待に大人げなく興奮してしまう。
「そういう異世界の人たちは、もしかして魔物みないなモンスターと戦ったりしてレベルを上げてたりするのか?」
「正解ですね。レベルを上げるには知識を蓄えるのとは他に、他の生物の命を奪う手段があります。後者のほうが断然効率はいいですね。そういう観点から暁さんの世界は魔物もいませんし、最近は世界も平和で戦争もおきてませんから暁さんのレベルは平均的な数値だと思いますよ」
「言われてみれば、生き物を殺すってなかなかないな。憶えている限りでは子供のころに虫を殺してしまったぐらいだもんな」
「そういっても普通の虫を殺したからってそんなにレベルが上がるわけじゃないですけどね。上げるなら象ぐらい倒さないとだめですね」
たいしかにリースの言っていることは理解できる。
そこらにいる虫を殺すぐらいでそのレベルが上がるなら苦労はしないだろう。
レベルが上がれば身体機能も上がり、世界中がトップアスリート集団になってもおかしくない。
「そして、先ほど言ったその無数の世界を管理、統括しているのが私、全能神リースなんです」
「なるほど。それで、なんでそんなに偉い全能神様が俺みたいに普通の人間をこんなところに呼んだんだ? まさか、死んだ人間全員とこんなふうに話しているわけじゃないだろ? もしかして俺が特別なのか?」
もしかしたら俺に特別な力があってそれを神様が見つけ異世界に行けるって感じの展開になるかもしれない。
ゲームや漫画ならよくある展開だ。オタクの人間なら一度は妄想したことがあるはずだ。もちろん俺も妄想したことがある。異世界に行って自分だけのハーレムを作ることを考えながら、リースに質問してみるとリースの口からは予想外の言葉が飛び出してきた。
「いやですね。最初に言ったじゃないですか。私は暁さんに『神様になりませんか?』と言ったんですよ」
リースの言った言葉に、俺は呆然としてついつい口から言葉が漏れてしまった。
「はぁ!?」