51:勇者の友人
「あ……、多分あのときじゃない……? ウィルが竜を追い払ったとき」
「俺が竜を追い払ったとき……?」
「ほら、あのときウィルは少しだけ魔力を漏らしたでしょ? その魔力にあてられたから、黒くなっちゃったんじゃないかなぁって」
しかし、勇者は即座に首を振って魔王の説を否定した。
「……いや、その線は薄いぞ、カレン」
「え、どうして?」
「もし仮に俺の魔力が原因でこの緋色の雫が変色したとするなら、その色は真っ白になってしまうはずだ。しかし、これは誰がどう見ても黒一色。何か別の原因があるに違いない」
「……そうね」
いろいろと察したカレンは、どこか遠い目をしながらそうポツリとつぶやいた。
二人がそんな会話を交わしていると――。
「よっこらっしょっと。待たせて悪かったな」
先ほど書類を取りに行ってくれていたギルド職員が戻ってきた。
「さっ、これがクエスト達成用の書類だ。ここにサインを――っとその前に現物の確認だな。緋色の雫を見せてくれ」
「「……」」
『黒色の雫ならあります』――そんなことを言えるはずもなく、二人は黙り込んだ。
「ん? どうしたんだ二人ともそんなに黙り込んで、何かあったのか?」
「えっと、その……なんというか、予想外の事態が発生していまして……」
魔王がしどろもどろになりながら、何とか説明しようと口を開くと。
「あっ、すみません~。あの、緋色の雫って届いてないでしょうか……?」
隣の受付で一人の女性が
彼女こそが『緋色の雫』の運搬を依頼した張本人である。
「おっ、リアさんリアさん! こっちこっち! いやー、今日はついているね! たった今ちょうど、この人たちが持って来てくれたよ、緋色の雫!」
「ほ、本当ですかぁ!?」
吉報を聞いた彼女は、嬉しそうに勇者たちの元へ駆け寄ってきてペコリと頭を下げた。
「本当にありがとうございます。次の実験にどうしても、緋色の雫が必要でして。この日が来るのを毎日ずっと楽しみにしていたんですよ」
そんなことを本当に嬉しそうに話す女性。彼女をぬか喜びさせてしまっていることに対して、魔王は強い罪悪感を抱く。
「あの、すみません……。その、緋色の雫なんですけど……」
魔王が勇気を振り絞って、口を開いたそのとき。
「ん~?」
女性は何やら勇者の顔をシゲシゲと見つめると、パッと顔をほころばせた。
「あー! やっぱり勇者さんじゃないですかぁ! お久しぶりです~!」
嬉しそうにギュッと勇者の手を握る彼女。
勇者は少し小首を傾げ、そんな彼女を見た。
「もしかして……リアか?」
「はいっ! お久しぶりです~!」
彼女は勇者の友人の一人。
<変異>により人間に化けたスライム――リアだった。