21:王選
21:情報
魔王は首を傾げる。
「ステータスカード……って何ですか?」
「ステータスカードは五大国で統一された身分証明書だ。ここバルス帝国はもちろんのこと、ローランド王国・ブラン公国・ヌー帝国・オー帝国と全ての国で使用できる」
「へー、それは便利ですね! どこで作れるんですか?」
「各国の冒険者ギルドだ。そこにはでかい魔法陣が一つあってな、その上に立つとカードがこう……パッと現れるんだ」
「パッと……?」
魔王は小首を傾げる。
「うむ、そうだ。<創造>を応用した魔法で、その者の魔力を解析し、数値化したものを生成していると聞いたことがある。まぁ細かいところは、ギルドの職員に聞いた方が正確だな」
「いえいえ、助かりました! ありがとうございます!」
魔王は笑顔でゲイルに感謝の言葉を述べる。
「これも仕事の内だ、気にするな。よし、それではギルドへ向かうか!」
■
〈エリア:バルス帝国〉
バルス憲兵団は戦士長ゲイルの命令により、市中警備の任へと戻っていった。
勇者たちはゲイルの案内の元、冒険者ギルドへと向かう。
「この辺りが我がバルス帝国自慢の中央街だ。周辺国家でもここまで栄えている都市はそうないぞ?」
ゲイルは誇らしそうにそう語った。
勇者は中央街をつぶさに観察し、情報収集に努める。
確かに人々の往来が活発で、屋台も多い。この規模の都市が周辺で最も栄えているレベルか。文明水準は、建築物や使用している道具などを見るに魔王国と同程度。
勇者がバルス帝国やこの世界について思考を巡らせていると、突如肩を叩かれた。
「ねぇウィル、あれを見て!」
魔王は通りにある一軒の屋台を指さす。
そこでは見たことのない桃色の果実が売られていた。
それはりんご飴のように果実の中心に串が刺さっており、さらっとした甘い香りがこちらまで漂ってきている。
「後で一緒に食べましょう!」
この国の通貨単位すら知らないというのに、どうやって商品を買うというのだろうか。しかし、本当に楽しそうな魔王を見ると水を差すのも悪いような気がした。
「あぁ、そうしようか」
その後も魔王は珍しい食べ物や服を見つける度に興奮気味に勇者へと報告した。
「ところで――」と勇者が先ほどから気になっていたことをゲイルに問う。
「どうしてこの街の人間は、あんなに必死なんだ?」
確かにこの街は活気がある。その点には勇者も同意する。
だがしかし、その活気はどこか息詰まった。無理をして作り出されたものに見えた。
勇者の質問にゲイルは目を見開く。
「……なかなかいい目をしているな」
ゲイルはポツリポツリと語り始める。
「バルス帝国は自由だ。――いや、自由過ぎる。現皇帝のゴール・ザ・バルス陛下が皇位を継承してから、バルスは大きく発展した。陛下は貴族制度や独占的な商業組合の解散を命じ、自由競争を大きく奨励した」
ほほう、と勇者は感心の声をあげる。
「中々に先進的な考え方じゃないか」
「あぁ、……しかし、過ぎた競争は人々の心から余裕を奪った。自分が休んでいる間にも誰かがどこかで戦っている、努力している――自分との競争に勝利するために。人々はそういった強迫観念に駆られ、精神をすり減らしている。それが今この国が直面している問題だな」
「それに――」とゲイルは言葉を紡ぐ。
「今は時期も悪い。何せ王選の真っただ中――言ってしまえば、書き入れ|時だからな」
「王選?」
新たな言葉に勇者は疑問を呈する。
「王選とは主要五大国で行われる、次の統一王を決める戦いだ。昨年に前代の統一王が亡くなられたため、今年王選が開かれることになっている」
ゲイルからもたらされた情報を勇者は頭に叩き込んでいると、ゲイルが大きな建物の前で立ち止まる。
「っと、着いたぞ、ここがバルス帝国の冒険者ギルドだ」