インベーダーインベーダー②
「復讐に塗れて死ぬなんて、辛過ぎるじゃない…!」
リトスは今にも泣きそうな声をあげる。
「そうです!その子が可哀想です…!」
ユウはもう泣いていた。綺麗な左右非対称の色を持つ彼女の瞳から涙が零れる。
「彼女にとっては復讐が全てになってたんだろうな…」
また重い空気が流れる。
窓から射す光が来た時と比べ赤みを増していた。
あぁ…もうそんな時間が経ったのか。
暖かな陽射しに少し眠くなってきた。
「悪いわね、話の腰を折って…続けていいわよ。」
しばらく惚けていた俺の頭にリトスの声が響く。気づけばその場全員の視線が俺のに向けられていた。
「そうだな…」
少女が亡くなった後、学者達は【侵略者】によって家族や親しい友達、恋人を亡くした人達を訪ねた。
目的は実験の被検者になってもらい戦ってもらうため。
大体の人達は自分の手で仕返しが出来ると喜んで実験に参加したそうだ。
そんな彼らは少女と同じ様に『力』を操り同じ様に目の前の敵を殺し、同じ様に死んでいった。
この時、学者達はある問題に頭を抱えていた。
それは、細胞を移植した人間は『力』を使う度に命が削られていくこと。
『力』を使った恨み晴らしがタダでさえ異物を抱えた体に更に負担を掛けていた。
移植してもしばらくして死んでしまう細胞所持者達に頭を悩ませていた学者達だが、そのうちの1人がある実験を思いつく。
「…また非人道的なことするの…?」
リリアの無表情にも悲しげな表情が浮かぶ。
「いや、今回は違う。今回提案された実験は細胞所持者達による子作りだ。」
「こづ…く……り…?」
リリアが目を丸くする。
まぁ、これまで非人道的な実験ばっかしてた奴らが急に、子作りして!とか言い出しても意味がわからないだろうな。
「体に入れた細胞の使い過ぎで暴走して命を削ってるなら、初めから入ってる状態から始めればどうかという事だな。」
よくもまぁ、そんな事を思いつくもんだよな。
結果を言うならば成功だ。細胞所持者達の子供は『力』を使うことができた。
尚且つ体の一部として細胞が組み込まれているので体に害も出ない。
だが、直接細胞を移植した人達と比べると『力』の面では劣るし、外見にもある特徴が出る。
学者達はそういった人達を細胞保持者、細胞を移植する事で『力』を得た人達を細胞獲得者と呼んだ。
だが、やはり一番のネックは《セカンド》は《ファースト》より劣るという点だった。
加えて、常に自分の意思で動ける《ファースト》違い、《セカンド》は赤子から育てるがあり戦地に出るまでに時間が掛かったという。
しかし《セカンド》は『力』で劣るとはいえ、『力』の制御や持続時間は《ファースト》より秀でている。
そこで、学者達は【侵略者】の死体を使った特殊な武器を作った。
それを兵隊に持たせ、《セカンド》が育つまでの時間合わせとして戦わせた。
時が過ぎ、最初の《セカンド》達が戦えるようになると《ファースト》との『力』の差が改めて目立つようになった。
《ファースト》が1人で5体の【侵略者】を倒せたとしても、《セカンド》は1人で2体前後が精一杯だ。
そこで、学者達は《セカンド》に親のーーー《ファースト》の細胞を摂取させるという手を打つ。
「それは…酷いね…」
今度はタクトが呟いた。美形の顔が悲しみに歪んでいる。
「《セカンド》は《ファースト》に及ばない。ならば、『力』の扱いに長けている《セカンド》に《ファースト》の『力』を与えればいいって判断だろうな。」
もちろん親の体を食べるなんて、嫌がる者が大半だ。
そういった反対派は自分達の火力の無さを【侵略者】から作った特殊武装で補うなどして戦うことになった。
だが、中にはもっと『力』を欲する者、自分の残りの命の短さを察し我が子に『力』を託そうとする者もいた。
こういった更なる力を求め、手に入れた人達は細胞覚醒者と呼ばれた。
《サード》の戦闘力は《ファースト》と比べてもケタ違いだ。
《ファースト》が【侵略者】を単独で5体葬れるなら、《サード》はその倍の10体は軽いものだろう。
「そんな強い人達がいるなら、【侵略者】とやらも怖くないんじゃないかな?」
クレアが明るく声をあげた。
「…そうなりゃ良かったんだけどな。此方が戦力を強化するに連れて【侵略者】達の数も増えてきたんだ。」
軍が細胞持ち達を作っていく中で、【侵略者】達はそれに応えるようにどんどん数を増やしていった。
「そこで、細胞持ちでも捌けなくなってきたってもんだから一般の学生にも招集がかかったんだよ。」
その学生達を【侵略者】と戦えるように仕立て上げる為の施設が学生兵育成学校ーー略して兵校。
ここの生徒は主に小型から中型の【侵略者】を相手に戦うことを目標にして学生兵が育てられる。
「じゃあ、御影はその細胞持ちとやらではなく普通の人間なのね?」
リトスが興味深げに聞いてくる。
「んー…まぁ…そうだな。」
「学生兵育成学校ではどうゆう授業を受けるの?」
リリアが目を輝かせながら迫ってくる。
……近いんだが!?
「とりあえず離れてくれ…」
「これは失礼。未知の世界の授業…興味深い。」
ふむ。このリリアという子は探究心が盛んらしいな。
「この世界の授業がどんなのかは知らないけど、授業自体は普通の学校とは変わらないらしい。ただ、戦闘に行く為に通う訳だからそこら辺の訓練はみっちりやらされたよ…」
体育教師特有のガッチリした体格の先生に監視され、グランドを走り回った日々を思い出す。
…まぁ、あれは仲間内で夜中までアニメ鑑賞会してて授業に遅刻したからなんだけど。
「そういえば、《セカンド》さん達は外見にある特徴が出るって言ってましたよね?」
ユウがふと思い出した様に尋ねてくる。
「具体的には【侵略者】に似て、髪の色が白くなったり、瞳の色が青くなったりするらしいぞ。」
「…御影がその細胞持ちとやらでなくてよかった。」
リリアが安心したようにこぼす。
「何でだ?」
「私達が住んでる国…【ナスタリア】ではオッドアイと白髪は魔王の使いだと言われてますので…」
疑問に思い、リリアに問うが返事をしたのはユウだった。
あー…これはよくある昔~が~したから悪く扱われるとかいう感じのパターンだな。
「ふむ…何か悪い言い伝えでもあるのか?」
一応聞いておいて損はないだろう。この世界で暮らすことになるならもっと情報が必要だ。
「はい。…【ナスタリア】を作った初代の国王達は国の周りに湧く魔獣に頭を悩ませてました。ある日、2人の冒険者が国王を訪ねてやって来ました。」
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つまり、昔話を要約すると。
突然現れた2人は魔獣を退治するから代わりに報酬をしこたま寄越せと。
国王はそんな2人を最初は疑ったが後日、魔獣の中ではかなり強い部類の龍種の首を持ってきたので国王は信用することにした。
2人は報酬を前払い要求し、国王もそれに賛成し多額の報酬を先に渡す。
だが、その2人は他国のスパイで魔獣を退治するどころか国内に魔獣を大量に引き連れてきた。
国は何とかして魔獣を撃退するも、国全体が衰弱しきってるところに2人をスパイに出していた国が攻め込んできた。
【ナスタリア】は為す術もなく、敗北。そこから長年他国の支配下に置かれ、屈辱を強いられてきたという話だった。