銀狼狩りのすゝめ10
「オ、ラァ!」
ユウの魔法によりあれほど硬かった甲殻が吹き飛び、刃が通る様になった。
リトスと御影はこれを期に一気に畳み掛けたいのだが、大型魔獣の動きが先程までとは段違いだ。
「はっやいわね!」
先程までののんびりした動きとは違い、二人の攻撃にかなり俊敏に反応している。
攻撃パターンも突進したり、闇雲に触手を振り回すだけではなく二人の動きを読んでいるかの様な攻撃をしてくるようになった。
「さっきので結構ダメージ入ったんだろうな。だから、余裕無くなって本気でキてるってとこか?」
「えぇ、そう考えるのが妥当でしょうね。」
「AAAaaAAa…」
一箇所に集まった二人を叩き潰そうと図太い触手が真上から叩きつけられた。
「っぶね…!」
寸でのとこで回避し、左右に別れる。
最初に御影が仕掛けた。ガラ空きの胴体へまずは一閃。
そのままその場でターンし、遠心力を加えて更に一撃。
「GAAAAAAAA!」
すると、御影の剣撃から守るように数本の触手が影から生え、大型魔獣と御影を遮った。
だが、お構い無しで斬りつける。2~3本の触手を切り飛ばし隙間から見えた胴体へ突き刺し引き抜く。
「GAAA…!」
どうやら、ダメージはキチンと入っていってる様だ。
「GOOOO!!」
大型魔獣は御影をこの場で自分を一番脅かす相手と認識したのか、勢いよく角を薙ぎ払いこちらへ向き直る。
薙ぎ払いをバックステップで避け、大振りした後の隙を見逃さずに顔面へ斬撃を叩き込む。
「GA…!」
大型魔獣の動きが僅かに止まる。
「ス、ラァァアアア!」
一瞬の隙を見逃さずに御影は口元へ短剣を突き刺し、目玉へ向けて一気に切り上げる。
「GU…GOOOOo!!」
予想外の一撃。想定外のダメージに大型魔獣が大きくのたうち回る。
「やるわね。はい、ポーション。飲んどきなさいな」
ひゅ〜っと口笛を吹きながらリトスが近づいてくる。
「サンキュ。…全くあんな重い一撃当たったらどうなるか。」
リトスからポーションを受け取り一気に飲み干す。乱れた息を整えながら御影が言った。
「そうね。ま、あなたが体張ってタゲ取りしてくれたおかげで私は安全だったんだけどね。」
「あぁ、そうかい。お前が無事なら体張ったかいがあったよ。」
「あら?もしかして私のこと口説いてるのかしら…?」
クスクスと笑いながらリトスがからかう様な目を向ける。
「さぁな。…さて、そろそろとどめを刺した方がいいんじゃないか?」
ここで誤解だと反論してもどうせ更にからかわれるだけなので、話題を変えようと試みる。
するとリトスはつまらなさそうに口を曲げ、拗ねた風を装うが直ぐに元に戻り言った。
「む〜…ま、そうよね。心なしかアイツも傷が回復してる様に見えるし。」
「なん…だと…」
確かにしていた。先程ユウによって開けられた穴が塞ぎつつある。
「ま、大分ダメージは来てると思うしそろそろ締めましょうか。」
言いながらリトスはカードケースから1枚を抜き取り構える。
「開け:私の世界。」
リトスが呪文の詠唱を始める。すると、前方に今までとは違い巨大な魔法陣が複数現れた。
「それは古の世界。赤き竜はその身をもって全てを壊す。
その息吹は草木を燃やし全てを灰と化す。
その打撃は地を山を海を抉り全てを潰す。
我は望む。汝の力を。今、時空を超えて我に力を!
飛ばすは焔。全てを焼き尽くす火竜の息吹!」
詠唱が終わると魔法陣は四重に重なり、歯車のように動き出す。
「open:火竜の息吹!!」
一度息をため、体勢を立て直しつつある大型魔獣に向け指を指す。
次の瞬間、四重に重なった魔法陣が一気に回転し始める。
「GAAAAA!!」
危険を感じ取ったのか、大型魔獣はリトスの指から逃れるように逃げ出す。
ーーーだが、遅い。
ゴッ!という激しい衝撃とともに訪れる熱波。
ハムスターのクルクル回るおもちゃの如く回転する魔法陣から爛々と赤く図太い光線が噴出されていた。
いや、これ息吹とかいうレベルじゃないじゃん?もっと炎みたいなのを予想してたんだが。
魔法陣から出る火竜の息吹はまるで凄まじい吹雪を一直線に伸ばしたような勢いだ。
こんなもん、炎と言うより光線だよ光線。赤い破壊光線だ。
なんて事を御影が考えていると、
「吹き…飛びなさい!」
リトスは地面に踏ん張り、叫んだ。破壊光線の出力を上げたのか、先程よりも光線が太くなっている。
「GAAAAAA!」
大型魔獣は断末魔の様なものをあげながら光線に飲み込まれた。
そのまま勢い衰えず、砂煙を巻き上げ爛々と突き進んで行く。
「なぁ、もういいと思うぞ?」
時間にして2分足らず。辺りには砂煙が巻き上げていて確認は出来ないが恐らく大型魔獣は燃え尽きたであろう。
光線を出し続けていたリトスに声をかけると光線が消える。
リトスは気が抜けたのか、へにゃへにゃとその場に座り込んでしまった。
「ふぅ、やったかしら?」
いや、それやってないフラグだから…
御影は内心でツッコミながら周囲を警戒する。
すると、僅かに前方の砂煙が揺らいだ。
「ほら見ろ…」
「GOOOOOOOO!!!」
ズシンズシンと靴の裏から伝わる振動。恐らくあの光線で吹き飛びながらも辛うじて生きていた大型魔獣が御影達に突進を開始したのだろう。
光線で余程の距離を飛ばされたのだろうか、大型魔獣がこちらに来るにはもう少し余裕がある。
「リトス!?何してる逃げるぞ!」
「あら、意外と魔力使ってたみたいね…しくじったわ。」
何度も見た突進だ避けるのも簡単なのだが、先程の光線で余程魔力を使ったのだろうかリトスは座ったまま動けないでいた。
「…クソッ!」
御影はリトスの前にでて短剣を構え、ジッと前方の砂煙を睨みつける。
「ちょ!御影!?何してるの、貴方だけでも逃げなさい!」
「お前を置いて行けるか!あほ!」
そう、リトスは御影の命を救ってくれた2人のうちの1人だ。御影は命の恩人を見捨てる程人間腐ってはいない。
そうもしてる間にズンズンと振動は大きくなっていく。
「GUOOOO!!」
「…来る!」
砂煙からは甲殻が焼け落ち、筋肉が剥き出しになった大型魔獣が勢いよく出てきた。
だが、御影は動かない。ジッと大型魔獣のある部位を睨みつけ機会を逃がさないように、集中を深める。
「GOOOOOOOO!!!」
「御影!」
迫り来る大型魔獣を前にリトスが叫ぶ。
御影と大型魔獣との間はもう少しで手を伸ばせば触れる程の距離になる。
「…ラァ!」
次の瞬間、御影は勢いよく身を捻り回転する。
そのまま回転で加わった勢いと力で右手に握った短剣をぶん回す。
ガキィン…!と、確かな手応えを感じるや否やリトスの元へ一気に駆ける。
そのまま守る様に力強く抱きしめ、襲い来るだろう衝撃に備える。
「御影!?」
先程とは違う叫び声を上げるリトス。
と、次の瞬間には意識が飛ぶような強烈な衝撃が御影を襲う。
「ぐ…くそ…」
脇腹の辺りがジンジンと痛む。リトスを抱きかかえた御影ごと、大型魔獣は突進し突き進む。
が、暫く進んだところで段々と遅くなっていき最後にはその場で完全に静止した。
どうやら、御影達を殺す前に先に大型魔獣が力尽きたようだ。
「はぁ…はぁ…平気か、リトス。」
抱きかかえていたリトスを地面に降ろす。
「私は平気だけど!貴方が平気じゃないじゃない!」
御影の体は大型魔獣に張り付いている状態だ。
角で貫かれた腹からは大量の血が出ている。
「い、急いで抜かないと!」
リトスが慌てて御影の体を引き抜こうとするが、タクトが止めた。
「いや、慌てて抜くよりもユウに回復魔法を当ててもらいながら慎重に抜いていこう。」
「そ、それもそうね。」
納得したように何度も頷くリトスからは、かなりの動揺が伝わってくる。
それは、自分を庇って大怪我をした御影に対して何もしてやれない焦りか悔しさから来るものなのか。
「ユウ、頼めるかい?」
タクトが後ろで呆然としていたユウに声をかける。
「え…あ、はい!やります!」
ハッと意識を取り戻したユウが大きく答えた。
「龍ヶ崎さん、もう少し耐えてくださいね。」
ユウは御影の近くへ行き、魔法陣を展開させ治療に入る。
そして、隣にいるタクトを見やり頷く。
「よし、じゃあ抜くよ。御影、痛むだろうが我慢してくれよ…」
少し動かしては出血をユウが食い止める。それを数度繰り返し、御影を角から抜き出した。
「あー…くそ、痛ぇなぁ。」
シーツを敷いた地面の上に仰向けに寝転びながら御影が言った。
「痛いなって…こんな傷を負って、よくそんな平気で…。」
ユウが御影の腹を治療しながら呟いた。御影の腹は大型魔獣の角で貫かれた上で、突進により振り回されたのでもう色々な臓物がぐちゃぐちゃになっていた。
「んー…まぁ、慣れてるし…?」
ゲホゲホと吐血しながら御影は呟く。
「BOW!」
と、そこに銀狼の鳴き声が響く。声の方へ全員が見やると一匹の銀狼がいた。
「…私が片付けるわ。」
リトスが、前へ出て魔法を放つ。
「ファイア!」
火炎球が銀狼を襲い、その体を燃やし尽くして終わり。
ーーーのハズだった。
銀狼は火炎球を避け、また吠える。
「BOW!!!」
先程より大きく吠えた。すると、先程まで大型魔獣というリーダーを討たれ、御影達に恐れをなし逃げようとしていた魔獣達が群がって来た。
「何よ、これ!」
リトスは御影達の元へ下がりながら叫ぶ。
「…恐らく、アイツが異常個体って奴じゃ?」
そう、リリアが口を開く。
【異常個体】今回の依頼での調査対象で、通常の銀狼よりも遥かに強く、賢いと言われる個体。
「そんな、火を吹く奴らなんてさっきの群れにも沢山いたけどなぁ?」
そう、【異常個体】についてタクトが上げた特徴は火を吹いたり、少し知能が高いといったもの。
その程度の銀狼なら先程沢山倒している。なら、何故リリアが改めてあの一匹の銀狼を【異常個体】と呼んだのか。
「それは…恐らく、アイツが虫型魔獣のボスと同じ様な者だと思う。」
「虫型魔獣のボス…つまり、銀狼側のトップってことか!」
タクトが近づいてくる魔獣達を魔法で牽制しながら言った。
「そう。恐らくだけど。…多分あの銀狼は大型魔獣より弱い。」
「そう、ならさっきよりは楽ってことね。」
「いや、それは無い。あの銀狼は大型魔獣より弱い。だが、遥かに賢いと思われる。何故なら、あの個体はこの魔獣達のNo.2にも関わらず、先程の戦いには参加していなかった。」
リリアはすぅと息を吸い、話を続ける。
「参加していなかった目的は自分の軍の強化だと思われる。…これで大体わかった?」
言うとリリアは地面にカードを投げ、詠唱を始めた。
「開け、聖域。退け、魔獣。此処は我らの領域なり。」
すると、御影達を囲むように半透明の半球が現れる。
「よし、リリアグッジョブ!ユウ、御影は今どんな感じだい?」
タクトがリリアに声をかけ、御影の元へ近寄る。
「えっと…あの。それが、驚く程のスピードで自然治癒してます…。」
ユウが信じられないといった顔でタクトを見上げる。
「自然治癒って…勝手に治ってるってこと?」
「…あぁ、そうだよ。もう少しすりゃ、傷も塞がる。だから、おぶって運んでくれれば大丈夫だ。」
タクトの声に御影が答えた。
「御影!もう平気なのかい?」
「動けるかどうかで平気なのか聞いてるなら、平気じゃないな。流石に走り回ったりはできない。」
腹からの出血は止まっていた。だが、穴は空いたままなので、そこから様々な臓器が見える。
「寸での所で角をへし折っといてよかった。アレが残ってたらちとやばかったかもな。」
先程の大型魔獣の突進で放った御影の一閃が捉えていたのは大型魔獣の角だった。
先端から少し手前の部分を切ったことで先の方の別れた部分を排除出来た。
どうせ貫かれるなら、あそこを取ってしまえば、抜く時になったら楽だろうという判断だ。
「御影…ごめんなさい。私が考え無しに魔法を放って動けなかったばっかりに…。」
リトスが御影の側へ寄り添い、謝罪を述べる。
「別にいいさ。守りたくてお前を守ったんだ。リトスが無傷。それだけで充分だろ?」
曇った表情で御影を見つめるリトスに御影はニッと笑ってそう言ってやった。
前回の投稿からかなり経ってしまいましたね…。
居るのかわからないですが、更新を楽しみにしている方には申し訳ないです。
そして、今回は結構長くなってしまいました!
それでも、最後まで読んで頂きありがとうございます!感謝です!!
次はなるべくはやく更新できるように努力しますので、よろしくお願いします。
最近また、一段と寒くなってきましたので皆様も風邪などにはお気を付けて!




