銀狼狩りのすゝめ8
「やっぱり、決定打に欠けるわね。」
大型魔獣の触手を避け、弾きながらリトスが呟く。クレアとリトスが相手している大型魔獣の甲殻はかなりの硬度を持ち、二人の攻撃を全くと言っていいほど受け付けていなかった。
「リトス、クレア助太刀するぜ!」
大型魔獣が振り下ろした触手をダガーで弾きながら御影が叫ぶ。
前方ではクレアが魔獣の気を引きながら、急所を探っている様だ。
リトスは後方でまだ少数いる銀狼を魔法で倒しつつ、クレアの援助をしていた。
「あら、そっちはもういいの?」
「あぁ、大体方が付いたよ。タクトとリリアは少し休んでるから俺とユウで助けに来た。」
「それはありがたいわね。私たちじゃ、あの殻を破るの難しいしユウに吹っ飛ばして貰いましょう。」
言ってリトスは御影達より少し後方に構えたユウに振り返る。
「時間は稼ぐわ!余り大きく無くていいから、あの殻を破れる程のを頂戴!」
「了解!」
リトスは大声で指示を出し、ユウはそれに短く答える。
あれだけの指示で伝わるのは、お互いの息がピッたしあっている証拠だろう。
(幼馴染って言ってたよな…羨ましい。)
「それじゃ、私たちはアイツを足止めしておかないとね。」
ボーッと考え事をしていた御影にリトスが言いながら何かを差し出した。
「お、おう!…で、これは?」
受け取りながら見た感じでは、ただの短剣。
「剣…ならもうあるけど…?」
「あるって言ったってそんな刃こぼれしてるダガーであの守を貫けると想ってるの?」
「あー…いや、思わないな。」
リトスが言った通り、御影がタクトから貰ったダガーはかなり刃こぼれしている。
確かに、この状態では刃が通るわけがない、筋肉モリモリのボディービルダーに子供がパンチしてる様なものだ。そこで、リトスから受け取った短剣をもう一度見る。
なんともそこら辺で売ってそう感を出すタクトのダガーと比べ、かなり高級品で一級品なのが見ただけでわかる。
鍔の左右両端には翡翠色の宝石らしき物が埋め込まれており、刀身も鉄ではなく翡翠色をした硝子を鋭利に研ぎ澄ましたものにはなっている。
「それ、一応ウチの家宝だからね。」
「ん?」
「タクトと違ってあげるんじゃないんだからね?壊さないでね?もう一回言っとくわよ?…それ、ウチの家宝だから。」
言うと、リトスは勢いよく走り出し前衛で魔獣の気を引いていたリリアの加勢に入った。
「遅くなって悪いわね。暫く私と御影で前衛やるからクレアは休んでて頂戴。」
「うん、そうするよ!ありがと!」
先程まで、一人で大型魔獣を相手していたというのにクレアにはまだ余裕がある様に見える。
(ま、うちのグループじゃ肉弾戦ならリリアが一番だものね…)
後方にユウを見つけ、わーっと走っていくクレアを呆れ半分で見つめながら、気を引き締めるリトスであった。
一方、御影は…
「え、いやー…何で家宝とか渡すんですかねぇー?こんなので斬ったら刀身折れちゃうよ…?」
確かに、タクトから貰ったダガーは刃こぼれでボロボロ。余り戦力にはならないだろう。
「だが、だからと言って、わざわざ家宝を渡すかね!?」
前線ではリトスがクレアと入れ替わり、大型魔獣を相手している。そして、それを背に笑顔でこちらに走ってくるクレア
先程まで一人であの図体相手に粘っていたのだ、疲労はかなりのもののハズ。
(何なのこの子?スタミナお化けなの?)
なので、御影がそう思ってしまってもしょうがないこともない。
「やぁ、御影!ユウと助けに来てくれたんだよね!ありがと!」
「お、おう。お疲れさん、礼はいいからはよ休め?」
クレアは精神的には元気な様だが、肉体的にはボロボロだった。体のあちこちに擦り傷や切り傷がある。
「うん、そうするよ。御影は優しいんだね!ボクの中で御影の株が急上昇だ!」
「あ、そう?ありがとう。」
「それじゃ、お言葉に甘えて。ボクは後方でユウの護衛しつつ休ませて貰うね!」
「あぁ、頼む。」
「ってあれ?その剣…リトスの家の家宝じゃない?」
「あぁ、ダガーがダメになってるからってアイツが渡して来たんだよ。」
「ふむふむ、なるほどね。うーん?でも、別にその宝剣じゃなくて新しいダガーか何かを渡せば良かったんじゃ?…ま、家宝を渡す程みー君はリトスに信用されてるってことだね!じゃ、頑張って!」
言うとクレアはまたダッシュでユウの元へ走っていく。
(みー君って俺のあだ名か?それに、リトスが俺を信用ね…)
どうやら、クレアの中で御影の株が急上昇したおかげで妙なあだ名が付いてしまったようだ。
それに、リトスに信用されてると聞き、驚きと嬉しさを覚える。
信用されてるということは認められてるということだ。つまり、リトスは難民で身元不明の御影を家宝を渡す程に認められてるということ。
見知らぬ世界、見知らぬ土地で、そこまで自分を認めてくれる相手がいるというのは嬉しいものだし、なんだが安心する。
「…なら、その分働かなくちゃな!」
言うが早いか御影はリトスの元へ走り出していた。
「GUOOOO!!」
魔獣の影から無数の触手が伸び、リトスへと襲いかかる。
「さっきからそればっかね!」
リトスは次々と襲い来る攻撃を右へ左へ弾き、避けながら叫ぶ。
「ファイア!」
間髪入れずに顔面へ魔法も叩き込む。大したダメージは無いが、気を引くには充分だろう。
「GAAAAAAAAA!!!」
触手では大して効果がないと見たのか、立派な角を振り回しながらリトスへと突進してきた。
「ちょ!いきなり来ないでよ!」
リトスがいたのは敵の真ん前、流石にこのままだと回避しきれない。
「っと!平気か!?」
ドン!と衝撃。その後に見えたのは魔獣が獲物を逃して走り抜けて行く姿だった。
「もう!来るの遅いわよ。死ぬかと思ったじゃない!」
「いや、悪いね。」
どうやら、御影がリトスが回避しきれないとみて咄嗟に抱き倒れた様だ。
リトスは御影に抱き込まれる形で倒れたので大した怪我はないが、御影は二、三ヶ所擦り傷が出来ていた。
「ほら、見せて。その程度なら私でもすぐ治療出来るから。」
「いや、終わってからでいいさ。奴さんもまだ諦めてないようですしなぁ。」
見ると突進が空ぶったと知った魔獣が再度こちらへ突っ込もうとしていた。
(ムシ〇ングでこんな技あったような?)
「ボーッとしない!あんな図体の突進なんか食らったらタダじゃすまないわよ?」
リトスに叱られながらも、預けられた宝剣を構え気を引き締める御影であった。
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