おふとぅん争奪戦
「そう言えばそうね。誰か、余分に持ってきてる?」
リトスが手の平を額にあて、あちゃー…とこぼし、自分の布団を敷いている最中のユウ達に問いかける。
「ボクは持ってないかなぁ。」
「私も持っていない。」
「私もないですね…」
「僕もないかな。」
全員が否定の声を出す。
「くっ…誰も余ってないのか…!まぁ、俺は布団なくてもいいよ。そこら辺で丸まってるからさ。…外で寝るよりかはマシだろ。」
ひらひらと手首を振り御影が諦め混じりに言った。
実際、このテントには温度調整機能もあるるしく外に比べると随分と過ごしやすい。それに、無理なことを言って皆を困らせるのも悪い、というのが御影の心中だった。
(ま、いくら異空間収納があるとはいえ、わざわざ布団を余分に持ってくるオモシロい奴何かいないだろ。)
「すいません、龍ヶ崎さん。事前にわかっていれば何か出来たかもしれなんですが…」
ユウが申し訳なさそうに謝罪する。
「いや、いいさ。急だったのはわかってるし。」
そう、御影が難民としてこの地に来る事なんて、彼女らの予定には組み込まれていないのだ。
ならば、安心できる寝床を貰っただけで感謝しなければならない。
「…私はてっきりリトスが準備を済ませてると思っていたのに…」
ボソッと愚痴をこぼす様にユウが呟いた。
「…ん?」
「いえ、龍ヶ崎さんを私達のテントに泊めようと提案したのはリトスだったので用意は済ませてるのかと思っていただけです。」
そう御影に言うとユウは自分の作業に戻っていく。
御影はリトスのいる方へ振り向く。
振り向くと同時にさっと、リトスは御影からの視線を逸らすようによそを向いた。
「…」
「…」
じーっとしばらくの間リトスの事を見つめていると、耐えられなくなったのかリトスが先に音を上げた。
「もう!悪かったわよ!多分、倉庫には余分に置いてあるはずだから明日取ってくるわ。」
リトスが怒っているのか申し訳なく思っているのかよくわからない表情をする。
「明日…明日かぁ!それじゃあ、今日はこの硬〜い床で俺は寝ようかな!!」
少し声を大きくし、ニヤニヤしながら御影がからかう。
ぐぬぬ…と悔しそうな表情をしていたリトスだが、何を思いついたのか急にニヤつき始めた。
「あらぁ?そんなに床で寝るのが嫌なら私の布団で寝る?」
「…は?」
突然のことに御影の理解が追いつかない。
「だ、か、らぁ…床で寝るのが嫌なら、私の布団で寝るかって聞いてるのよ」
そんな御影の姿を見てか、自分の胸を押し上げる様に腕を組み、少し色っぽい声でリトスが続ける。
(何言ってんだコイツ…)
まぁ、やろうとしている事は大体察しがついた。
恐らく、自分の布団で寝るか?と聞いて、御影が恥じらうのを期待しているのだろう。
胸を強調するような仕草をしてるのもその為だと考えられる。
確かに、リトス程の胸の大きさなら大抵の男(特に思春期男子)ならばドキマギしざるを得ないだろう。
だが、御影はこう思う。
(何か、イマイチ足りないな…?)
考える。何かが足りない。自分を興奮させる何かが……。
深く思考の旅を続けていると、リトスが恥ずかしそうに話しかけてきた。
「あの…その、何か反応が無いとやってる方も悲しいかなー、なんて、あはは。」
モジモジと顔を赤らめながらボソボソっと喋った。
「それだっ!」
「へ?」
(確かにリトスの抜群のスタイルならさっきのポーズでも充分悩殺できるだろう。だが…だがしかし!この恥じらい!自分がしてきたことを冷静に振り返ったら凄い恥ずかしいことを自覚した時の赤く染まった顔!この恥らいを俺は見たかったのか!!)
うんうん、と自己完結している御影。
「あ、あのー?」
置いてけぼりを食らっているリトスがためらいがちに声を出す。
「あぁ、悪い。それで、俺がお前の布団で寝るって話だったよな?」
大分話が脱線してしまった、と御影が話を元に戻す。
「そ、そうね。で、どうするの?」
再度リトスが挑戦的な目線を送ってくる。
今度はあの悩殺ポーズはとっていなかったが…。
「リトスがいいならそうしようかな。ま、そんなことを聞くってことはOKってことだろうけど。で、お前の布団はそこに敷いてあるのでいいんだよな?」
「え、あ、うん。」
リトスが立っている後ろに敷いてある布団を指差し、また惚けているリトスを他所に御影は続けてまくしたてる。
「何か悪いな。俺なんかの為に。明日はちゃんと布団で寝れるみたいだから、安心してくれ?それじゃ、お休み。」
そう言い終えると先程指さした布団へ向かい、そのまま中に入って目を閉じる。
「ん?あれ!?」
ここでリトスの思考が戻る。
(あれ?私が思ってたのと…だーいぶ違うような…?)
リトスが思い描いていたのは、自分が先に布団に入っていて、更に御影を自分の布団で寝ないか?と誘惑し、そこで御影が慌てふためく…というものだった。
では、今の状況はどうか?
御影はリトスの布団に躊躇いもなく入って行き、目をつぶっている。
自分はというと先程の御影よろしく自分の布団がなくなり途方に暮れている。
(どうしてこうなった…!)
キッと目の前で寝ている御影を睨みつける。
「ちょっと!御影、起きなさいよ!」
怒鳴りつけ、肩を掴み大きく揺さぶる。
だが、御影はというと…
( ˘ω˘ )
熟睡していた。
「ちょっと!?ほんとに起きてよ!私はどうすればいいのよぉ…!」
更に大きく御影を揺すぶり、心の底からの嘆きをぶつける。
「うる…さいぞ…リトス。」
御影が目を擦りながら起き上がった。
「他の奴らも、もう寝るんだから静かにしないとダメだろ。」
子供を叱るように顔を顰め御影が言う。
「あ、あんたが人の布団盗ったからでしょ!?」
「盗ったとは人聞きの悪い。俺はお前が『私の布団で寝るか?』と『提案』してきたからそれに甘えさせて貰ったまでだが?」
そう、リトスは『私の布団で寝るか?』と聞いたのであって『私と一緒に寝るか?』と聞いた訳ではない。
ならば、慌てふためく必要も、ドキマギする必要も、無い。
その親切な申し出を断ってまで床で寝たいと思う御影ではないので、リトスの言う通り、リトスの布団で寝ただけだった。
「くっ…そんな屁理屈で…!」
「屁理屈であれ、何にせよお前は俺に布団を差し出したんだ。」
「なら、さっきのは無しよ!さっさと私の布団を返して!」
「そんなほいほい、自分が言ったことを取り下げて…いいか?自分の発言にはキチンと責任を持たないとダメだぞ?地球にはな、武士に二言はないってことわざがあってだな…」
あーでもない、こーでもない、と言い合うリトスと御影を遠目に見ながらクレア、リリア、ユウ、タクトは思う。
((((早く寝たい…))))
当分終わりそうにない二人の言い合いを眺めながら心から願う四人であった。
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