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カレーライスにレーズンいれますか?


 前回の予告どおり千果子は3日かけても支持者を集めることができず、カレー冷やし中華はノーマル冷やし中華の前にあっけなく敗れ去った。『やってみなければわからないよね』と千果子は言ったが、実際やってみるまえからわかりきったことだったのだ。

 敗因は無数にあった。というより勝因がひとつもなかった。唯一の票田と思われたカレー教にも色々と宗派があり、なんにでもカレーをかけて食べる派閥はごく少数派のため、ほとんど無力だったのが現実。もとより、なんのバックボーンもパトロンも持ってない転校生が隼一に挑むこと自体、無謀すぎたと言えよう。


「あああーー、うそぉぉぉ……」

 あまりに残酷な結果に、唖然呆然放心する千果子。

 一方なにもせずに勝ってしまった隼一は、ちょっと主人公として微妙な心境だ。もしや新たな好敵手の登場かと密かに胸を躍らせていたこともあって、この結果は肩すかしもいいところだった。

「あれだけ大口たたいておいてリングにも上がれないとは、どういうことだ? 流れからして料理バトルになる展開じゃなかったのか? じつはおまえには自分でも気付いてない料理の才能があったとか、そういう設定じゃなかったのか? 前回のフラグは何だったんだ?」

「うーーん……おかしいなぁ……。この選挙のやりかた、どこか間違ってない?」

「選挙以前の問題だったろうが! これに懲りたら、もう二度と馬鹿なこと考えるなよ!?」

「おかしいなぁ……。メインヒロインのあたしは、天狗になってるイタリア人をカレーで華麗に打ち破って、読者人気投票で圧倒的1位をかっさらうはずだったのに……」

「そんなくだらん駄洒落を言ってるようでは、エアヒロインまっしぐらだな」

「待って! あたしは絶対にエアらないから! このさき誰が登場しようと、メインヒロインの地位は渡さないよ! あたしがいないシーンにだって、生き霊飛ばして出番確保するから! 死んでも枕元に登場するし!」

 こんな騒がしい幽霊が夜な夜な枕元に出てきたら、えらい近所迷惑である。ついでに寝不足確実だ。

 隼一は自分の目が節穴だったことを自嘲しつつ切り返す。


「おまえみたいなのは、成田エクスプレスに轢かれても死なねぇよ」

「ちょ! それは死ぬよ! 死ぬでしょ!? ためしてみようか!?」

「カレー食べてれば死なないんじゃなかったのか?」

「成田エクスプレスは無理でしょ! 毎年何人が新小岩駅で死んでると思うの!? 常識で考えてよ!」

「常識で考えたら、拳銃で撃たれても死ぬだろ……。まぁいいから飛び込んでみろよ。カレーの効能で勝てるかもしれないぞ」

「無理だから! 冗談言ってないで止めてよ! このまま電車に飛び込んだら、学食選挙に負けたショックでカレー冷やし中華と心中したみたいでしょ!」

「べつに冗談は言ってないけどな」


 彼らに限らず本作品に登場するキャラクターは皆そろって無価値な会話しかしないが、それにしてもこれはひどかった。唯一の価値ある情報といったら、『成田エクスプレスに轢かれると死ぬ』というぐらいのものだ。そしておそらく、そんなことは言われなくてもみんな知ってる。

 ただ、『カレーを毎日食べてても轢かれたらやっぱり死ぬ』というのは新情報かもしれない。

 ……うん、いちばん無価値なのはこの文章だな。成田エクスプレスの意味がわからない地方の読者には大変もうしわけない。まぁようするにアレだ。たいていの列車に轢かれたら一般人は死ぬよねって話だ。


 さて──いま隼一たちがいるのは、『SPY活動準備室』なる一室だった。

 SPY、すなわち『酢豚の・パイナップルを・許さない』という名を与えられた非公認組織の、専用準備室だ。

 もともと理科準備室として使われていたためか、室内はひどく雑然としている。キャビネットに並ぶのは、ビーカーやフラスコ、試験管など無数の実験用具。動植物や鉱物の標本が展示され、顕微鏡から望遠鏡までそろっている。ほかには、電流計に上皿天秤、色とりどりの試薬、電池、磁石、ピンセット、バーナー、そして包丁、おたま、鍋、フライパン、各種調味料……。

 そう、ガスや水道が通っていることを利用して、隼一はここで日常的に調理をしているのだ。


「まぁいい。勝負の結果はわかった。報告ごくろう。帰っていいぞ」

 蠅でも追い払うように、隼一が手を動かした。

 それを見た千果子は、不満げに口をとがらせる。

「ええっ? せっかく来たんだから、なにか作ってよ。料理得意なんでしょ?」

「なぜ俺がおまえに料理を作ってやらなければならないんだ?」

「だって、ほら。ともに力を尽くして戦いあった仲でしょ? そこから生まれる友情! みたいな! あたしはもうイタリアさんのこと、友達だと思ってるんだけどなぁ……」

 ちょっとコケティッシュな感じで、ちらっと視線を向ける千果子。

 だが、そんなことで心が動かされる隼一ではない。


「まさか、おまえ……いまだに俺の名前を覚えてないんじゃなかろうな?」

 その問いに、千果子はギクッと体を硬直させた。

 隼一はサングラスに指をあてて、無言のプレッシャーをかける。

「ええと……ちょっと待って……たしか京浜東北線の……そうだ! 大井! 大井だよね!」

「一駅先だぞ、おい」

「あれ? 蒲田だっけ?」

「今度は一駅手前だ!」

「あ、そうか。大森だ、大森。よし、ちゃんと覚えてた!」

 これは余談だが、昨日も一昨日も同じような会話が成されている。


「俺だけでなくJR東の人にも怒られるぞ、おまえ……」

「まぁまぁ、おなじ京浜東北線仲間なんだし。仲良くしようよ。そして料理をごちそうしてよ」

「おまえに料理を食べさせてやって、俺に何のメリットがあるんだ?」

「メリットだらけだよ! だって、あたしみたいなカワイイ子と一緒にお食事できるんだよ? フツーだったら、あたしがお金もらう立場だよね? エンコーとかなんとかで! そこをタダにしてあげるんだから! いやー、あたしってば超太っ腹!」

「おまえは何を言ってるんだ……?」

 さすがに隼一も呆れるしかなかった。

 が、これ以上の押し問答を続けてもラチがあかない。彼は合理主義者なのだ。


「まぁいい、わかった。なにか作ってやろう。それを食ったら帰れよ?」

「じゃあカレー! カレーライス作って! チキンカレーがいいなあ。そうそう、ごはんはサフランライスにしてね?」

 即答だった。迷いが一切ない。

 さすがはカレー信者というべきか。あるいは他に語彙がないのか。それともただのバカなのか。語彙がないバカかもしれない。

「オーケー、その注文は却下だ」

「え? だって、なにか作ってくれるって言ったよね? それとも作りかた知らないの?」

「カレーの作りかたを知らない人間がいるか! 材料がないんだよ! そう都合よく鶏肉だのサフランだの、置いてあるわけないだろ!」

「じゃあ買ってきてよ。ここでいい子にして待ってるから」

 さらっと言う千果子。

 その常識外の自分勝手ぶりに、隼一は怒るのも忘れるほどだ。


「おまえは一体どういう教育を受けて、そこまでの図々しさを身につけたんだ……?」

「え、そんなに図々しいかなぁ。だって材料がなくてチキンカレーが作れないって言うから、じゃあ買ってきたら? って思ったんだけど」

「ふつうの思考回路じゃねぇよ……。だいいち俺は『なにか作ってやる』と言ったんだ。『なんでも作ってやる』とは言ってない」

「たしかに、そう言ったかも。じゃあ何を作ってくれるの?」

 とくに落胆した様子もなく、千果子は期待の眼差しを向けた。

 隼一は少し考えてから答える。


「そうだな……らーめんでよければ作ってやろう」

「いいね! ラーメンも大好きだよ、あたし! いちばん好きなのはカレーだけど、ラーメンは二番目! 三番目は、お寿司とか焼肉とかピザとか唐揚げとか……」

「そりゃよかったな。まぁ作るのはサッポロ一番だが」

「ええー? 本格的な家系ラーメンとかじゃないの?」

「そんなもの作りはじめたら、丸一日かかるだろうが」

「しょうがないなあ……じゃあいいよ、サポイチで。もちろん味噌だよね?」

「いや、『もちろん』塩だが? それから正式な略称は『サポイチ』ではなく『ポロイチ』だぞ? 大丈夫か、おまえ」

 その瞬間、空気が固まった。

 一種だけ歩み寄ったかに見えた両者の間に再び断絶が生まれ、たちまち戦いの火蓋が切られる。


「え、待って? サポイチで一番おいしいのは味噌だよね? 次が醤油だよね? 塩なんて、ごはんのおかずにならないよね?」

 まずは千果子が、変則のジャブを繰り出した。

 サッポロ一番をごはんのおかずに! もっとも、ラーメンライスと考えればさほど不可解でもない。発言したのが現役の女子高生でさえなければ。

「ごはんのおかずという観点がそもそも異常だが、一番は塩だ。そしてもう一度言うが、『ポロイチ』だ」

「『サポイチ』だってば! それに味噌のほうが百倍おいしいし! 我が家じゃ味噌しか買わないよ!?」

「かわいそうに。一家そろって味覚障害のうえに言語障害か……。それとも名古屋人か、おまえ」

 ふ……と冷笑を浴びせる隼一。

 それを見た千果子は、一気にヒートアップした。


「なにそれ! 塩なんて上品ぶってるだけで、ぜんぜん食べた気しないでしょ! あんなの、カロリーゼロのコーラと同じ! しかも炭酸の抜けたやつね! あと、あたしは名古屋人じゃないから! トンカツに味噌塗って食べる変人たちと一緒にしないで!」

「トンカツにカレーをかけて食う女に言われたくないだろうな、名古屋人も。そしておまえは、塩らーめんの真価をまるで知らないようだ。おまけに正しい日本語も知らないときた。……いいだろう。いまから俺が、サッポロ一番塩らーめんの正しい作りかたを教えてやる。それを食べれば、味噌だの醤油だの寝ぼけたことは二度と言えなくなるはずだ」

「え……? 袋に書いてあるのが、ただしい作りかたじゃないの?」

「ふ……。その程度の認識で味噌が一番とか言ってたのか。これこそゆとり教育の賜物だな」

「学校の授業でサポイチの作りかたなんて教わらないし!」

「『学校で教わらなかったから知らなくて当然』……その考えが、まさにゆとりだ」

「そ……そこまで言うなら試食してあげてもいいけどね! その正しい作りかたで作った塩ラーメンを!」

「いいだろう。こっちに来い」


 隼一はキャビネットの前に立つと、下段の引き出しを開けた。

 するとそこには、ぎっしり並んだサッポロ一番塩らーめん!

「え……? これ、ぜんぶ塩……?」

「見てのとおりだ。近所のスーパーでセールのときに買い溜めしてある」

「ほかのは買ってないの?」

「言っただろう、サッポロ一番塩らーめんが一番だと。ならば二番以降の商品に手を出す意味はない。まぁ新商品のチェックぐらいはするけどな」

 自信たっぷりに言い切ると、隼一は塩らーめんをひとつ取り出し、次に手鍋をふたつ出した。


「え? 鍋をふたつ使うの?」と、千果子。

「そのとおりだ。ところでおまえは、ラーメンの具に何を入れている?」

「モヤシとか、ノリとか、チャーシューとか……あと玉子は必ず入れるかな?」

「まぁそんなところだろうな。しかし、いまおまえが挙げたものは全て間違いだ」

「ええ……っ!? どういうこと!?」

「では教えてやろう。袋ラーメンをおいしく作る、第一の秘法を……!」

「うんうん!」

 千果子は身を乗り出してうなずいた。

 なんだかんだで、完全に隼一のトークに乗せられている。

 だが、そのとき──


「先輩、大変です!」

 ガラッとドアを開けて、八朔が準備室に飛び込んできた。

 今日も隼一とおそろいのアロハ&サングラスだ。

 ただし、下はズボンでなくフレアスカート。

「え……っ!? あなた女の子だったの!?」

 千果子が驚いたように口元をおさえた。

「ん……? なんで、ここにあなたがいるんです? どうでもいいでしょう、僕の性別なんか」

「そうかぁ……ボクっ娘だったんだ、ハッサクちゃん。ちょっとビックリ」

「なんですか、その呼びかた。なれなれしく呼ばないでください、下の名前で」

「ハッサクちゃんって、あたしに冷たいよね。どうして? あたしは仲良くしたいのになぁ」

「いきなり大森先輩に学食選挙をふっかけたりする人と、仲良くする理由がありません!」

「でも、あたしと大森は仲良くしてるよ? いまだって、おいしいラーメンの作りかた教えてもらうところだったし」

「え……っ!?」

 八朔の表情が一変した。

 その表情のまま、隼一のほうを振り向く八朔。


「どういうことですか!? 弟子の僕だって教わってませんよ、即席ラーメンの作りかたなんて!」

「いや、会話の流れでな……この女が『塩より味噌のほうがうまい』とか言い出すものだから、つい」

「塩より味噌……っ!? そんな人に教える必要ありません! 先輩の貴重な即席ラーメンレシピを!」

「まぁ冷静に考えれば、そのとおりなんだが……。ところで赤羽、なにが大変なんだ? ずいぶん慌てていたようだが」

「そっ、そうでした! 味噌カレー女の相手なんかしてる場合じゃありませんよ、先輩! ついさっき学食選挙の申請があったんです、運営委員会に!」

「おまえがそこまで慌てるってことは、よほどの内容なのか?」

「はい。なにしろレーズンをカレーライスに入れるという、とんでもない内容で……


「はァあああああああ!?」

 八朔のセリフをぶった切って、千果子が素っ頓狂な声を上げた。

 あまりの奇声に、八朔も隼一も一歩たじろぐ。

「ど……どういうこと!? 学食のカレーライスにレーズン!?」

「ええ。いまはトッピングとしてグリーンピースが入ってますよね、学食のカレーには。それをレーズンに差し替えようという選挙案が先ほど提出さr

「はぅええええええええええええええええァあああああああああッッ!?!?」

 窓ガラスが割れそうなほどの大声だった。

 八朔と隼一は耳をおさえて、三歩ほど後ずさる。


「ちょ……っ! な……っ! なぅえええええええっ!? カレーにレーズン!? カレーにレーズンンンン!? はぇえええええええっ!? 冗談! 冗談はやめて! そんなこと、絶対に許さないから! 絶対に! 絶対にィいいいい!」

「あの、ちょっと静かにしてもらえます?」

 八朔は耳を押さえたまま顔をしかめた。

「だって! でも! カレーにレーズンなんて! 信じられない! ウソでしょ! ウソだと言って!」

「僕が嘘なんか言うわけないでしょう、大森先輩に対して。いまはまだ運営委員しか知らない情報ですが、もうじき校内放送が流れてメールが届きますよ、全生徒に」

「そんなァああああ! カレーにレーズンなんか入れられたら、あたし生きていけないィいいいい! イヤァアアアアアアアア!」

 両手で頭をかかえ、首が外れんばかりの勢いでブンブン横に振る千果子。

「いや、あの、まだ選挙が決まったというだけで、カレーライスにレーズンが入ると確定したわけじゃないんですよ?」

「でも、入るかもしれないんでしょ!? っていうか、入るんでしょ!?」

「まぁ選挙の結果次第では……」

「やだァああああああ! やだよォおおおおおおお! レーズンカレーなんてェええええええ! そんなのカレーじゃないよォおおおおおお! あたしのカレー! あたしのカレーライスををををを! 返してェええええええ! 返せェええええええ! あぅあぅあぁあああああ!」


 泣きじゃくりながら、机をバンバンぶったたく千果子。

 あまりの取り乱しように、八朔と隼一は顔を見合わせるばかりだ。この狂乱ぶりは、ただごとではない。たしかにカレーライスにレーズンを入れるというのは暴挙だが、半狂乱になって泣き叫ぶほどのことではなかろう。これではまるで、レーズンに親でも殺されたかのようだ。

 だが──ほかならぬSPYのリーダー、大森隼一には千果子の心情が理解できていた。人には、どうしても認められぬ食材の食べあわせがあるということを。

 たとえば、酢豚にパイナップル! たとえば、酢豚にパイナップル! たとえば、酢豚にパイナップルゥゥゥ! それから、冷やし中華にスイカ! 冷やし中華にスイカァァァ!


「おちつけ、川崎千果子。カレーにレーズンをまぜるのが許せないんだな? 気持ちはわかるぞ」

「ほ、本当……!? わかってくれる!?」

「ああ。もともと俺は、料理にフルーツを入れるのは認めない主義だ。カレーにレーズンなど、言語道断。非人道的行為だ。だんじて選挙を勝たせるわけにはいかない。俺の人脈すべてを動員してでも、かならずや廃案に追い込んでやる」

「本当!? たよりにしていいの!?」

「ふ……まかせておけ。そもそもカレーにレーズンなど、選挙が成立したこと自体が奇跡と言ってよかろう。投票する前から結果は見えている。こちらは粛々とコトを運ぶだけだ」

「ああ……なんだかたよりになりそう! でも、そうだよね。あたしのカレー冷やし中華に勝ったぐらいなんだから。レーズンカレーなんかに負けるはずないよね!」

「そうだな。おまえの場合は勝手に突っ込んできて勝手に散っただけだが……。しかし、ひとつ気がかりな点がある。……おい、赤羽。まさかとは思うが、その馬鹿げた選挙を持ちこんできたのは……」

「お察しのとおり、GPBです」


 その答えを聞いて、隼一は「ちっ」と舌打ちした。

 グリーンピースを撲滅する会。それがGPBである。構成員の数は500とも600とも言われ、正確な人数は知られていない。学食にかかわる自治組織では、最大の規模を誇る団体だ。

 その歴史は古く、あけびの高校創立時から存在してきたとされている。なにしろ半世紀前のことなので詳細を知る者はいないが、一説には天津丼と豆ごはんに入っているグリーンピースを排除するために設立されたと言われ、その悲願は50年のあいだ一度も果たされていない。

 ならば大して恐れる必要のない組織かといえば、さにあらず。全校生徒のうち1割の投票をコントロールできるというのは非常に強力だ。学食選挙の投票率が平均75%前後であることを考えれば、とても無視できない。

 しかも今回は、ただカレーライスのグリーンピースを排除しようというのではなく、グリーンピースのかわりにレーズンを入れようというのだ。これならば、レーズン愛好家の票も取り込むことができる。隼一にさえ票の行方は読みきれない。


「どうしたの、急に黙りこんじゃって。……もしかして、すごく危険な相手だとか?」

 千果子がおろおろ訊ねた。

 隼一はシリアスな顔で答える。

「危険……そう言っても良いかもしれないな。なにしろ相手は、半世紀以上の活動実績を持つ組織……。勝算もなく動くはずはない。そして俺の予想だと、GPBの実質的なリーダーは……」

「リーダーは?」

「……いや、転校生のおまえに言っても意味がないな。ともかく一刻も早く動きだそう。投票日までに敵の正体をはっきりさせ、ひとつでも多くの票を取り込んでおく必要がある。ついてこい、ふたりとも」

 隼一はサッポロ一番塩らーめんを机に置くと、アロハの襟をととのえて歩きだした。

 千果子と八朔が、あわてて追いかける。


「どこへ行くんですか、先輩」

「わからないか、赤羽。おまえがさっきまでいた場所だ」

 足早に廊下を歩きながら、隼一は答えた。

 戦いの予兆を感じたのか、八朔は猫耳カチューシャをピコピコさせつつ隼一の横に並ぶ。

「僕がいた場所……まさか学食運営委員会……!? ですが、いっさいの選挙活動を禁止されてますよ運営委員は! 選挙の公平さを期するために!」

「もちろんだ。が……なにをやろうとバレなければ問題にならない」

「まさか……! 運営委員の中に、そんな悪代官みたいな卑劣な人がいると言うんですか!?」

「ああ、いるのさ。恐ろしい女がな……」


 隼一はギリッと奥歯を噛みしめた。いまから対峙するのは容易な相手ではない。かつて隼一の記憶を奪い、現在の彼を形成するのに甚大な影響を与えた女だ。

 その名は、天王寺万由梨てんのうじまゆり

 文武両道、才色兼備、弱肉強食!

 おそるべきカラテを身につけた、パイナップル農家の長女だ!



 次回! 酢豚のパイナップルをゆるさない隼一VS酢豚のパイナップルをゆるさないヤツをゆるさない万由梨! 因縁の二人が、カレーライスという究極の戦場で激突する! ……かもしれない!

 おいしい塩らーめんの作りかたは、また今度!

 言っておくが、本当においしい作りかただからな!

 本当だよ!



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