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七夕、もう会えない貴方へ

作者: 碧猫のおと


7月7日(追憶1)



その日、彼女は東京旭川間の日帰りチケットを握って羽田へ向かった


たった数時間その店に滞在し、ある人に会う為だけに…


その時、この曲をリクエストした

彼女が好きな曲だった

MY FUNNY VALENTINE


彼女の人生のような曲…


彼女は彼の虚しさの中に自分の絶望と孤独の行方を捜した


そんなふうにして二人は寂しさと不安を共有しながら心の溝を埋めていった





7月7日(追憶2)


彼女は彼を愛していた


その想いは最後まで変わらかった


たった一つの出来事さえなければ...


嵐の中で行く先がどんな荒れ果てた場所であってもあきらめない自信があった


彼は彼女を救い出した恩人であったから

彼女は彼をいつも心配していた


彼女はそのことで自分の境遇から逃避しながらいた


それでも彼を救いたかった


離れたくはなかった



彼女はそれまで自分は母親である前に女であると感じていた


けれど、幼く無垢な目が怯え恐怖に震えた日、


女である前に自分がその子の母親であることを捨て切れなかった


彼女は彼をあきらめる決心をした


そのことがなければ彼女は今でも変わらずにいたのかもしれない





7月7日(追憶3)



彼女の心は、再び荒れた気持ちを抱え、人生の結末を渇望してさまよった


幸い、彼女をただひたすら側にいて回復をまった人がいた


その人がいなければどうなっていたかわからない


それほど心は病み、すさんでいた


彼女はその後、救ってくれた人の為に残りの人生を生きることができた



ただ、大切なものを置き忘れた想いがずっとあった


もうあの震えるような感性を共感し、すぐそばで感じることができなくなったこと…


それは深い悲しみでもあった


言葉にするととても陳腐になってしまうけれど


あの風の吹く丘、煌めく澄んだ空気の冬の風景、流れる音の旋律に身をゆだねた至福の時間…


それらはもう過去の想い出の中にしか存在しない


日常という時間の流れの中に、ふいにそのかけらを見出し、拾おうとしてもそれはもう指の間をすり抜ける砂のように虚しく消えていく





7月7日(追憶4)


彼女は懐かしい憧憬の想い出のひとつひとつを記憶の中に大切にしまいこんだ


ほんの一瞬、目をつむり、切ない想いに涙が出そうになっても彼女は前を向いて歩んでいる


彼女は今でも7月7日の七夕にはそんな物語のような逢瀬から始まった恋を思い出す


そして彼が前向きに暮らしてくれていることを願う


体だけは大事にして頑張っていてくれることを祈っている



もう会えなくても、遠くからずっと彼女は彼にエールを送っているはずだから…



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