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強くてニューゲームッ! ―なお、魔王なもよう―  作者: 連開花
序章 なお、魔王なもよう
2/45

  二、  

 立ち上がった俺は、呆然自失としてウインドウを眺めていた。


 この世界はゲームとは違う。よく似た異世界という風に俺は考えている。

 その上で、俺はこの世界に定義されるに辺り、ゲームでプレイしていたキャラのデータと、ゲームで得ていた性質を引き継いだ。

 俺をこの世界の存在としてコンバートする際に、ゲームのキャラのデータを流用し、ゲームの機能などを俺に取り込ませた。そんな感じだろうか。

 その一つに専用ウインドウの存在がある。

 他者には知覚出来ない、俺と言う存在に与えられた情報をはっきりと視覚化出来る優れものである。


 そのウインドウの職業欄が指し示すのは、魔王。

 この世界に来た時は、本来ゲームとして存在しない職業だった勇者を定義されていた。クエスチョンマークがつけられていたのは、そんな職業は無いと言うあてつけだったのかは知らないが。

 元々のゲーム内に存在していた職業は。


【戦士 - ウェポンマスター】

 オーソドックスに武器全般を振り回せる職業。どうやっても魔法は使えない。

 実は武器毎に細分化されて職業が存在しているが、唯一この職業だけ時間をかければ全てマスターできないこともない。が、この職でも扱えない武器も一部存在し、この職から転職して扱うこととなる。


【魔法使い - スペルインタープリット】

 魔法系スキルを扱う職。他の職では扱えない詠唱が必要になってくる魔法全般を扱える。

 扱う属性が細分化されており、戦士同様職業化されている。万遍なく扱うことは出来ない。

 凡そにして属性二つ分の職業しか習熟出来ないようになっている。


【神兵 - プリースト】

 名前はアレだが回復職。戦闘に特化することも出来る。

 ゲーム内では明確に"死亡"から回復させる力があったが、こちらの世界では"死亡"してしまった場合、どれだけ高位のプリーストでもほぼ復活させることは出来ない。


【僧兵 - モンク】

 拳が武器のインファイター。回復職を兼任出来るが本職にはほどほどに劣る。

 回復を兼任させてなお近接戦を軽々こなせるポテンシャルが魅力。

 ゲームの仕様としては珍しく、高い自己回復能力とインファイター能力で壁も兼任する。


【旅人 - ローグ】

 名前の毛色が違うが、全ての職の技術を扱うハイブリッド職業である。

 習熟できる武器が一つであるが、魔法も含め全職の中位程度までの技術を扱える。

 最終的に魔法も含め一つの技術をマスタークラスに押し上げられるという破格の性能を持つが、晩成過ぎることが難点。スキルの劣化も多少あるので、まさに器用貧乏になりがちである。


 俺が選んでいたのはプレイ時間とプレイヤースキルが力となるローグだったわけだが……。

 それがどうすれば勇者となるのか。そして最終的に魔王を倒したものの相討ちとなった上、その魔王となるかはさっぱりわからない。

 

 俺の困惑を余所に、キツネ耳の少女はパタパタと尻尾を振って俺の周りをぴょこぴょこ歩く。

 色々と気になるところはあったが、俺は一旦ウインドウを閉じてキツネの少女に顔を向けた。


「わあー、魔王様魔王様。わたしでも召喚出来ました。強そうな人でよかったです。オーラがあります。かっこいいです」

「えっ、マジで?」


 極々平凡な顔の男でも黒いマントにローブ姿だとなんかちょっと雰囲気出てるみたいな?

 って、いやいや、煽てられて調子に乗ってる場合じゃないよな。

 俺は照れ隠しに明後日の方向へと向けていた身体を戻して、少女へと向き直る。


「なんかよくわからんのだが……順を追って訊こう。俺は魔王なのか?」

「はいです! 様々な人の力を借りて、このエルダーフォックスのカリンが召喚いたしました」

「カリンちゃん、と……」


 エルダーフォックスというのは種族名なのだろう。

 ゲームの頃とは違って定義された種族名とかは無いから、人間も名づけるわ魔物達も自分で名づけるわで、そういった名前に関しては無軌道無統一なところがあるんだけども。

 少なくともこの狐耳の少女が人間でないということは確かなのだが、それにしても人間とまるで変わらない姿だけに反応に困るな……。


「いやー、文献を読んだだけでもやれるもんですね! カリンもこんなにもうまくいくとは思いませんでした!」


 文献読んだ程度で召還されちゃう魔王もどうかと思うんだけど。

 さて、次だ。次。


「この世界の名前は『セブンス』でいいのか?」

「そうです。ここは『セブンス』の第七階層『セブン』の端の端……浮遊島『七つ色』です」


 まかり間違って、またしても別の異世界に飛んでいたということはないらしい。

 俺はほっと胸を撫で下ろした。あくまで同じセブンスであるなら、まだ勝手がわかるというものである。

 なんのかんのとノンストップで魔王を倒しに行ったが、ほどほどの期間はかかったしなあ……。

 ゲームでプレイし続けただけあって、まあある程度層ごとの地理も把握してるし。


「ところで、当代の魔王様は女と聞いていたんです。いつのまに性転換なされたんですか!」

「いや、何時もも何も性転換した覚えは無いんだが……当代? 魔王って代替わりでもすんの?」

「はいです。先に御説明しますと、魔王様が死んだ場合、わたし達魔物全てにその思念が伝わるので、その階層に住む魔物達は自分達の種族や仲間の権威を上げる為に、"魔王を自分達で召喚し直す"のです。そうすることによって、魔王からは感謝され、良い地位を貰ったり出来るわけですね。ムフー」


 これは……"リポップ"か。ゲーム的には同じモンスターなどが再度復活することを言う、モンスターがいなくなることを防ぐ措置である。ボスモンスターは特に長い待機時間を置いて、"リポップ"が成される。

 なるほど、死んでも魔王という存在は何度でも引き戻されるというわけか。

 それが終わらない戦いを生む原因なんだろうが。変なところがゲームの仕様そっくりなせいで、何時までも平和が訪れないのか……。なんか泣ける。

 ていうか魔王を倒した俺の全てが否定されてるみたいでマジで泣ける。


「で、魔王はその魂が人間との戦いで摩耗しきったら代替わりをするのです! 新たな魔物に力を譲渡したりするらしいのですが、滅多に無いことなのでわたしも知らないのですね! エッヘン」

「そこはね、胸張るところじゃないから」


 ほどほどの大きさの胸を大きく反らすキツネ娘。

 彼女の胸にはどれくらいの夢と希望が詰まっているのかは未知数だ。何を考えているかもよくわからない。


「しかし、魔王様が魔王様のシステムを知らないだなんて不思議ですね。魔王様はもしかしなくても……」

「ぬっ」


 おバカそうなキツネっ娘は、こちらを勇者だと気づいた訳ではないようだが……。何か不穏なものを感じ取ったらしい。

 危険な臭いだ。モンスター側にとっては敵の大ボスの一人とも言える勇者が魔王に転生したなど、脅威以外の何ものでもないだろう。

 面倒になる前に自身の立場を割り切って、この子を"殺して"しまうか。

 いや、しかし……。


「魔王様はもしかしなくてもおバカなんですね!」


 などと悩んでいた俺がアホらしくなるような返答を投げてくるキツネ娘。


「んだとコラ?」

「ひん、怒った。魔王様が怒りました。懐が狭いです」

「狭くはねーよ?! どう考えてもいきなり人をおバカ扱いするお前が酷いわッ!」

「す、すみません。じゃあ魔王様はなんなのでしょうか? ド忘れ」

「そんなとこだよ。記憶喪失ってヤツで納得してくれる?」

「はーい」


 いいのか……。この子、おつむ足りてないな。マジで。


「はぁー、しかし良かったです。本来魔王様を復活させるには、一、二年ほどの期間を経ないといけないらしいのですが、試しにと思ってやった儀式で魔王様を復活させることが出来るだなんて。カリンはやはり選ばれし者の素質がありますねッ!」

「ん? 今お前……なんて言った。一、二年? な、なあ。魔王が倒されてからどれくらいの期間が経ってんだ!?」

「えっと、時間としては……一週間くらいでしょうか? 儀式のための油揚げやバナナを用意するために奔走していたので、ちょっと時間が曖昧ですけど、それくらいの筈です! きっと、多分」

「たった一週間で魔王が復活する可能性なんてあんのか!?」

「き、聞いたことはありませんけど……今復活してるので……」

「そ、そりゃそうだよな。いや、でもしかし……スキルは使わなければ発動しないタイプのものだから……だが……」


 ガクガクとカリンの肩を揺さぶり問い質す俺に、困惑の表情を向けるカリン。

 俺はカリンから引き出した答えから、頭の痛い想像を駆け巡らせていた。


 間が空いてないこと自体は助かる。が、そんなことよりも更なる問題があった。

 魔王が復活したということ。それを人間側には実は知る術がある。

 セブンスのゲームでは、プリーストのような職業につくものは、特殊なモンスターのリポップタイミングを測るスキルを所持しているのだ。この世界においてもそれは予言や占いと言った形で再現されている。

 魔王が復活していることは堂々人間側に知られている可能性が実はあるのだ。

 復活が早すぎてスキルを使われてないという可能性があるのが、不幸中の幸いとも言えるが、実に気休めである。


「ぐああ……、マジかよ……いや、マジなんだろうな」


 ウインドウに表記された情報はほぼ絶対的に正しい。

 職業に魔王と書かれている以上は、俺は魔王という存在に完全になってしまったのだろう。


「なんて忙しい人生なんだ……今度は人間に命を狙われる側になってしまうなんてよ……」


 死んだと思ったら勇者になって、更に勇者として死んだと思ったら今度は魔王?

 ふざけんじゃねえぞ。波乱万丈なんてもんでは考えられねえ。

 なんで人間の希望から人間を絶望へ落とす根源になっちゃってんのよ。意味がわからん。

 頭を抱えてしまった俺。

 そんな俺に躊躇いながらも、カリンは声を掛けてきた。


「あ、あの。魔王様魔王様。よくわからないけど元気を出して下さい」

「うん、その、なんだ。ありがとう……でも、ちょっと現実を受け入れるまで時間が欲しいんだよ……」

「ま、魔王様。そんな悠長な時間はないのです! なぜなら、是非ともわたし達はお願いしたいことがあるのです!」

「……なに。魔王と言えるか微妙な俺だけど聞ける範囲のことなら聞いてあげるよ……聞くだけならね……」


 肩を落とし俯きがちに俺は投げやりな返答をする。対して、そんなブルーな俺の姿を見ても、カリンは物怖じせず、意を決したような表情を向けてきた。

 その眼は強い意志に満ち溢れており、そして何やらただならぬ覚悟を感じる。

 確かに……本来リポップ不可能な短期間での魔王復活を試しにでもとやってしまうくらいには、切羽詰っているのかもしれない。

 その理由くらいは聞いてあげても良いと思った。

 カリンは顔を上げて、どもりながらもその願いをはっきりと口にした。


「お、お願いします! わたし達を助けて下さい! 人間からも、魔物からも……っ!」


 切実な願い。

 それが意味するところはまだわからない。

 ……だが、その必死な表情には心動かされるものがあって、俺は俯けていた顔を上げた


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