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強くてニューゲームッ! ―なお、魔王なもよう―  作者: 連開花
序章 なお、魔王なもよう
1/45

  一、  

 ―――レベル99/99

 JOB・勇者?


 STR(ストレングス)・850/999

 VIT(バイタリティ)・730/999

 INT(インテリジェンス)・999/999

 DEX(デクスタリティ)・999/999

 AGI(アジリティ)・999/999


 ―――HP・30(現在値)/9999(最大値)

 ―――NAME:SU-KI


 ほぼカンストし切ったステータス欄の下に、赤く30という数値が警告されていた。

 片腕は吹き飛び、身体中からは血が溢れだして、警告なんてなくても既に命が風前の灯へ化していることは重々承知している。

 やべえなあという思いとともに、このギリギリの命のやり取りに魅せられている自分がいることにも気づいた。

 眼前に立つ、妙齢の女。黒いマントを羽織い血に塗れたボロボロの黒いローブ姿のヤツを殺すか。それとも俺が使命半ばで殺されるか。


 楽しい。日常ばかりの退屈した世界にいた頃では考えられない、この何かが磨り減る感覚。

 これが俺が求めていたもの。死と隣り合わせの快感……ッ!


 ――俺の名前は数奇。片峰数奇(かたみねすうき)と言う。

 特に何か得意なものがあったわけでもない、ただのフリーターだった男。

 俺はとあるゲームをプレイし、死ぬほどにのめりこんだ。

 セブンスというMMORPGである。

 七つの階層に分かれた世界を旅する超大規模MMORPG。運営会社が他の作品を展開せず公式サイトも用意しない不透明さ、その神秘性とアップデートの速さが人気を呼び、一躍大人気ゲームへとなった伝説のオンラインゲームだ。

 そのゲームで、俺はレベルをカンストさせ、集団で倒すことを前提としたボスモンスターすら一人で狩るハイランカーとして名を馳せていた。

 そして、あまりにのめりこみすぎ、ある日つい昼夜問わずプレイし続けた結果、俺は死んだ。

 心不全だった。


 人間ってのは呆気ないもんだなあ。とか暗がりへと落ちていく意識の中考えていたら、なんと俺は死んでいなかった。

 俺は"ゲームで見慣れた装備をつけて"、豪奢で巨大な広間に立たされていた。

 俺は、そう、セブンスの世界に転生し、勇者になれと王様達に告げられたのだ!


 そして今ここに至る。

 普通のファンタジーと大して変わらない世界観を有するセブンスだが、一つ特徴的なことがある。

 それは、この階層世界には一階層につき一人魔王が存在すること。

 それら魔王は人間を駆逐することだけを考える極悪非道な悪として描かれる。

 俺は、そいつらを倒すためにここに召喚された。

 元々、ゲーム内で手に入れていた装備と力を駆使すれば魔王など恐れるに足りずッ!

 俺は順当に魔王をぶちのめして、七階層目に最深部までたどり着いた。

 そして今、七番目の魔王、セブンスを俺は、殺すッ!!


「――――お互いボロボロだな」

「へっ、本当にな」


 俺と魔王セブンスは軽口を叩く。

 意外にも魔王はフランクな口調で俺との殺し合いに臨んでくれた。

 後腐れもなければ、楽しいひと時を過ごせたと思う。

 だが――――。


「そろそろ決着時か」

「そうだな……オレとしても名残惜しいが―――」


 セブンスがそう言う。

 俺はもう返事を投げずに、片手で剣を構えた。

 剣に魔法を通して、その時を待つ。

 崩れかけた壁のがれきが落ち、音を立て、止まる二人の時を強引にぶち破った。


「「おおおおおおおおぉぉぉ――――ッ!!」」


 俺の振りかぶった剣が魔王の胸をぶち抜き。

 魔王の放った氷の刃が、俺の胸をぶち抜いた。


 お互いに壁まで吹き飛ばされ、四肢を投げ出して壁に縫い付けられる。

 30となっていたHPはカウントを0まで減らし、DEADの文字へと変わった。

 ……やっちまった。もしかしたら回避出来たのかもしれないのに、ギリギリのスリルを求めすぎて攻撃に意識を割き過ぎた。

 また、死ぬのか。

 俺は悔しいが、だが満足した心に満たされる。

 顔を上げた先にいる魔王もまた、俺と似たような感情を抱いた……そんな表情を浮かべていた。

 お前もかよ。

 でもわかるぜ。全力を尽くした。快感すら覚える死闘だった。

 悪くない。

 痛みで明滅する意識の中。



 俺は再び死んだ。

 ただ――、死んだのに、意識は消えずどこかに浮遊するような感覚を覚えた。



 ***



「ふんだらはったーほんばらふんだったー」


 何か、声が聞こえる。


「えろいむえっさいむーえろいむえっさいむー」


 なんだかどっか聞いたような、聞いたことがないような。


(くだ)りて、その身を現世に現したまぁ―――え」


 その言葉が聞こえるかないか……、不思議な浮遊感から一転して俺は異常なまでの重力に引かれ、地に落ちる。

 息もできないような落下の反動に、めいっぱい十秒ほど襲われてから、心臓が息を吹き返したかのように呼吸が始まった。

 何だ。何が起こってる。


「おきてくださいー。おきてくださいー。朝ですよー。召喚は終わりましたよー」


 バラバラになった身体がパズルのピースのように繋げられていく感覚。

 俺は、生きているの、か?

 目を開けようともがき、ゆっくりと目蓋を押し上げていく。


「―――おはよーございます、魔王様」


 俺の目の前にはキツネ耳の和装の少女と。




 レベル100/999

 ――――JOB・魔王


 そう書かれたこの世界唯一、俺だけの俺にしか使えない専用ウインドウがあった。



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