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魔王謁見

読んでいただきありがとうございます

 


 日は落ち、街が夜の活気を取り戻し、街灯が少しず点灯初めている頃。

 ――俺とミツキは魔王城にいた。


 「……は?」

 「はー……大きいですねー」

 

 "結界の破壊"という罪を負ったはずなのに。

 連れて行かれたのは留置所でもなければ処刑でもなく、魔王城の大広間。

 一体なんだ? まさか魔王自ら罰を下す……ってそれは考え過ぎか。


 「ミツキ、聞いてみてくれないか」

 「りょ、了解しました」


 ミツキは小さく頷き返事をすると、魔族の兵士になるべく明るい声で魔族語を喋り始める。ホントにミツキが一緒で助かった。

 魔族の兵士はミツキの質問に三言ほどで答えるとまた口を塞ぐ。


 「あと十分待ってろ、だそうです」

 「十分で脱走の計画って立てられるかな?」

 「よくそんなボロボロの体で、脱走なんて言葉が出てきますね……」


 それにしても十分か……処刑具や拷問具を持ってくるにはちょうど良い時間だ。

 脱走は……この人数ならなんとかなるな。真っ直ぐ進んで壁を破壊して、そこから外え飛び降りれば楽勝だ。


 


 ――十分後。

 耳を澄ませばミツキの吐息が聞こえてきそうなくらい静かな大広間。

 ん?なんだろうか、扉の向こうが騒がしい。

 扉を兵士が開ける。

 まるでどっかのお偉いさんに対する対応ではないか。


 

 「いや~すまんな。随分待たせてしまったようで」

 

 ある一人の大男が姿を現した。

 処刑人? いや、服装から予想するに貴族だろうか。


 その男は大きな高笑いを響かせながら3メートルにも及ぶ杖を手元でクルクルと回す。

 身長四メートル超。

 他の魔族とはくらべものにならないほどの馬鹿でかい図体。

 表情をみると浮ついていそうだが、各所の傷はその大男の歩んできた過酷な道を雄弁と語っている。


 「は? 誰?」

 「この魔族も大きいですねー」

 

 大男は王座に腰をかけ、自前の角を布で磨く。

 それといって気品があるわけでもない。貴族の可能性はないか。


 ミツキの方に視線を向ける。

 どこで買ったのか知らないが飴玉を呑気に舐めていた。わかっている、コイツはそう言う奴だ。

 

 「俺はモトキだ。アンタは?」

 「ん? ワシか? 魔王ロンギル。現魔界の最高統治者じゃ」

 「アンタが?」

 「ああ、そうじゃ」 

 

 魔王……別にさほど驚くことではない。

 見たときに予想はしてたから、やっぱりという感じだ。

 それにしてもなぜに魔王が……そんなに結界壊しの件は大事なのだろうか?


 「おいミツキ。人前で飴玉を舐めるな」

 「んー魔王様、飴玉舐めていいですか?」

 「構わんが……」

 「モトキ様いいらしいですよ。舐めます?」

 「ったく、これだからお前は……」


 戦闘中は支援役としてはいい働きを見せてくるミツキだが、スイッチが切れるとすぐこれだ。

 常時警戒中の俺としては羨ましい限りだ。


 「そういやアンタ、人間語しゃべれるのか」

 「馬鹿にしちゃいかん。ワシは外交も担当しておる。しゃべれなくては威厳がなかろう」

 「おい、シャツ出てるぞ」

 「ん? ああこれはすまんのう」

 

 それにしても意外とフレンドリーなんだな。あんなデカイ図体してるのに全然圧力を感じない。

 魔王ロンギルはまた軽快に杖を回す……あ、今落とした。

 

 「あ、落としたね」

 「んん……さて、そろそろ本題に入らせてもら――――」

 「あ、強引に話変えた」

 「う、うるさいわい!」


 ロンギルは杖をブンブンと音を鳴らしながら部下に首を使って指示する。

 本当にコイツが魔王なのか心配になってきた。




 ***


 「さて、今回の件についてだが、別にお主を罪にするわけではない。それだけは分かってほしい」

 「は? じゃあどうして――」

 「そう焦るな……それにしても保険でつけた危険発信機が発動するとはな。ワシ自身この事象に少々驚いておるところじゃ」

 「そんなに強力なのかよ……どうりで壊せないわけだ」


 罪にしないということは他になにをするつもりなんだろうか。


 「お、ここからが重要なのだが、よく聞いてほしい」

 「あぁ? なんだよ?」

 「お主は……」


 俺はあぐらをかき、魔王の話を軽く聞き流す。

 一方魔王はなにやら真剣な目つきで俺を凝視する。


 



 「お主……魔王やらない?」

 「は?」

 「モトキ様が……ですか?」

 

 マオウ………?

 ロンギルの突然の発言で頭が空っぽになる。


 俺の脳が急いで今の言葉の解読に取りかかる。

 何を言うかと思えば俺に魔王をやれ? 冗談にしてもタチが悪い。

 

 魔王……その名のとおり魔界を統治するもの。

 この人間界と同等の地力をもった場所の最高責任者だ。それが俺?

 そもそも俺人間だし……じゃあなぜに俺が選ばれる?


 「どういうことだよ。話突然過ぎるだろ」

 「いやすまんのぅ。じゃが、これは真剣な話じゃ」

 

 なんだか周りに整列している兵隊の視線が痛い。

 あれだ、簡単に言ってしまえば今の話を例えると、日本の総理大臣がアメリカ人になる、というとわかりやすいだろう。


 「真剣って……そもそも俺は人間だから、その時点で問題があるだろ」

 「大丈夫、強ければ問題ないわい」

 「強ければって……とりあえず順を追って説明してくれないか」

 「分かった、できるだけ省いて説明するかの」


 魔王ロンギルは専用の王座に着くと立派なヒゲを撫で始める。

 

 


 魔王ロンギルの話によれば、どうやら10年前から魔王の娘の婚約者の話は持ち上がっていたらしい。

 最初は魔族の貴族。

 しかし、どの貴族もお行儀が良いだけの雑魚だった。

 

 魔王というものは、その親が強いほど生まれた子供も強くなる。

 つまり、嫁の方は魔王の娘で決定として、婚約者の方をどうするか、ということらしい。

 次期魔王の選定は婚約者の力量を図る為、直々に魔王ロンギル自身がしたという。そのおかげで貴族側には怪我人が続出したらしい。


 次のターゲットとなったのは魔界の全市民。

 腕に自信があるものを片っ端から見極めたが、これもハズレ。ロンギルのお眼鏡に適う者は現れなかった。

 時には遠出までして強い者を探し続けた。しかし、これも収穫なし。


 そして今――――



 「お主が偶然、ワシも目の前に姿を現した」

 「強制的に連れてかれただけだけどな」

 「細かいことは気にするでない」

 

 ロンギルは満足そうな笑みを俺に向ける。こっちは大迷惑だけどな。

 

 「魔王なんて嫌だからな絶対」

 「お主……この状況で断れるとでも思ってるのかのう?」

 「正直できないよな……」


 おそらく俺が拒否するのも見越していただろう。

 ならば強制的に……ということか。


 魔族の兵……千超。

 それに加え未知数の力をもった魔王一人。

 正直、俺とミツキでどうにかなる数ではない。


 「で、俺にどうしろと……?」

 「なぁに、ワシと一戦交えるだけで良い。後はワシ自信が見極める」

 「どうしてもやんなきゃだめか?」

 「大丈夫じゃ、命までは取らんさ」

 



 ***


 ロンギルは杖を構える。

 対して俺もロンギルの部下が持ってきた剣を構える。

 お、なんか上物だな。さっき折りまくってた奴よりも頑丈で重い。


 魔王ロンギルの目を見る。

 どうやら本気でやるらしい。そんなに強い遺伝子を残したいのかよ。


 勝てるのか? 今の俺が?

 俺は自分の数十倍の大きさをもつ化物を倒してきた。 

 体長は、たかが三倍程度……いや侮れるはずがない。 

 

 場の空気が重くなる。

 あの体中の傷跡を見ればすぐに分かってしまう……どのような道を歩んできたのかが。

 その魔術師とは思えない筋肉の発達は凄まじかった。


 俺は内心冷や汗をかきながらも、冷静を保とうとする。

 

 「こんな大広間でやっていいのかよ」

 「ワシは今お主と戦いたいんじゃ」

 「うわーとんだ自己中だなこりゃあ」

 「この魔界はワシを中心に回ってるといっても過言ではないからのう」


 正直いってめんどくさいが、そうもいってられない。

 俺は刃に指を立て、剣の肉厚の刃を撫でる。


 「モトキ、加勢しますか?」

 「いや、大丈夫だ」

 

 いつの間にか鋭い目つきのミツキが俺の横に立っていた。

 舐めていた飴玉は無くなり、杖をロンギルの方へ向ける。

 ミツキがいたら心強いが、生憎これは一人で戦わなけでばならない、周りの雰囲気がそう語っている。

 

 「俺に任せろ。それから戦闘中には手を出すな絶対にだ」

 「……了解しました」


 ミツキは俺から二十メートルほど距離を取る。

  

 「準備はよいかの?」

 「ノーって言ったら?」

 「迷わず攻め落とす」


 次の瞬間、両者の剣と杖が衝突した。 

 


 


 

 

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