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逃亡当日

至らぬ点が多いと思います。すみません。

 

 勇者召喚祭のパレードから五日が経った。

 勇者に関しては国民はそこまで気にしていないらしい。歯向かわなければ大丈夫だと思っているのだろう。さすがに国民全員死刑と言うことは無いだろうしな。


 今日は俺の"逃亡作戦"の実行日だ。

 その日が来るまでは、俺はずっと店の奥に引きこもっていた。

 親父やケインさんには「覚悟ならできている」とかなんとか言っているが、内心では「一人旅なんて無理だろ」なんて思っている。




 (さて……そろそろか)


 時刻は午前二時を回っていた。そろそろキャラバンが出発する時間だ。俺は布団から這い出す。

 姉さん達はぐっすりと眠りについている。 

 安心しきった顔だ。


 (ごめん、姉さん達。嘘ついてちゃったな)


 部屋のドアをそっと閉める。それから部屋の隅に置いてある自分の剣を握る。

 その剣は重い。まだここに居たいと主張しているように。俺だってできることならそうしたい。

 だが、俺はここにいることができない。剣を勢いよく持ち上げる。


 剣を腰に差すと、ドアに手をかける。この部屋での一挙一動も最後だと思うと感慨深いものがある。

 ゆっくりとドアをを開けて外に出る。


 (またね姉さん……ってもう会えないかもしれないのか)


 そう、もう会えないかもしれない。俺はドアから少し顔を覗かせ、二人の自慢の姉の顔を眺める。

 もしここで起こしたら姉さん達は俺を止めてくれるだろうか?

 絶対に姉さん達は引き止めてくれるだろう。そう思うと、決意したはずなのに心が揺らいでしまう。


 (くそ……だめだ。ここで起こしたらだめだ)


 俺は姉さん達に延ばそうとしていた手を引っ込める。あと少し手を延ばせば届く距離だ。しかしこのままでは、姉さん達に甘えてしまう。

 俺はドアをゆっくりと、力を込めて閉める。これでもう手は届かない。俺は誰もいない廊下を歩き出す。


 「これで準備完了っと」


 俺は更衣室から大きなリュックサックを背負って出てくる。

 このリュックサックには旅に必要な最低限の物が一通り揃っている。この更衣室で旅の準備をする時は憂鬱になったものだ。その度にトールさんがサラッと元気付けてくれたのは記憶に新しい。

 

 俺は体に不釣合いな大きなリュックサックを背負って店の扉を握る。

 店から出ると、見慣れた看板を見上げる。


 「この店ともお別れか。また帰ってこれるかな? いや何言ってんだよ俺は」


 今から旅立つというのに、もう帰ってくることを考えている自分に軽く突っ込みをいれる。

 帰ってこれるかなどは分からない。運がよければ帰ってこれるかもしれないし、ここに帰ってくる前に白骨化とい線もある。


 「まぁ……なるようにしかならないか」


 今ここで考えを張り巡らしても意味がない。 

 俺は頭をカラッポにしてみる。当然そんなことはできない。すぐに不安が俺の頭を侵食し始める。

 ボチボチとしか人がいない夜道を歩く。歩く速さは段々と速くなっていき、終いには全力疾走になっていた。


 「オォォォォォォォオォォ!!」

 

 こんな大通りで叫びながら走っていたら大迷惑だな。だけどこうしていると不思議と難しいことは考えなくなる。走ることに夢中になっているからだろうか。



 

 「おいトモ。お前は何全力で走ってんだ?」

 「はぁ、はぁ。お……やじか。ちょっと風を感じたくてね。走るってやっぱ気持ちいいな」

 「お、おう。そうだな」


 俺は陸上選手のような言葉を口に出す。どうやら親父は反応に困っているようだ。

 息を整えて改めて周りを見渡す。

 

 親父、ケインさん、トールさん、ガル爺、ベラルさん。どうやらメンバーは揃っているようだ。

 この大人達は俺を助け、支えてくれた大事な人々だ。安心したのか自然と口元が緩む。


 「トモ、これは当面の資金だ。考えて使うようにしろよ」

 「さんきゅ、親父」

 「俺にはこれくらいしかできないけどな」

 「いや十分だ」


 俺は親父から硬貨を有難く貰う。しかし、これは生活が安定するまでの資金に過ぎない。ある程度安定してきたら自分で働き口を捜すか、冒険者になってモンスターを狩って生計を立てていくつもりだ。


 「トモ、絶対に帰ってきなさいよ」

 「わかっていますよケインさん。殺されるつもりなんかありませんよ」

 

 さっき、ここに帰って来る時には白骨化してるかも、などと言った俺は、自信ありげにケインさんに"絶対に生き抜く"宣言をする。

 少しでも安心させなきゃと思う反面、顔は上手く表情を作れていないようだ。


 「トモ、これを持っていけ。選別だ」

 「これってレシピ本ですかトールさん?」

 「ああ、俺の手作りのレシピ本だ。感謝しろよ」

 「でもこれって本当にもらっていいんですか?」

 「これは唯のコピーだ。貰ってくれて問題ない」


 トールさんはレシピ本をくれるらしい。それにしてもレシピ本って……この世界では珍しい。だがこれは、あくまでコピー品だ。さすがに本物は家にあるらしい。


 いやコピー品というのは合っているのだが、その前の"唯の"のが気になる。

 この世界にはコピー機なんていう機械は存在しない。だからコピーも全て手書きになる。

 つまりトールさんはこの量を五日で終わらせたのか。いくらコピーと言えども、五日で終わらせるのは並みの人間にはできない。


 「トモよ、ワシからはこれを授けよう」 

 「ガル爺これは?」

 「唯の魔石じゃよ。金に困ったら売るとよいじゃろう」

 「……分かった。金に困ったらな」

 

 ガル爺から譲り受けた魔石を腰のポーチにしまう。

 魔石は道端にいるモンスターを倒しても得ることができない。迷宮のモンスターを倒さなければならないのだ。しかし、俺とエンナはこれまで何十回の迷宮へアタックを仕掛けているがドロップしたことがない。魔石はモンスターがドロップする確率が極端に低いのだ。そのため値段も相応に高くなってくる。


 「でも、この魔石、俺の知ってる魔石の色と違うけど……」

 「いいんじゃよ。これでもかなりの金になる」

 「そうなのか」


 この魔石は俺が知っている紫色の光を放つ魔石とは違って、赤黒い光を放っている。まぁガル爺が金になるというのだから信じよう。


 「……モトキ。エンナのことは任せろ」

 「はい。頼みますベラルさん。それにしてもエンナだけがまた強くなっちゃうな~」

 

 俺は旅立ったら剣を習う人はいないけど、エンナにはベラルさんがいるから、このままの勢いで強くなったら俺なんて追い越してしまうだろう。

 しかし、俺が本心から言った一言をベラルさんは否定する。


 「……モトキ。お前はエンナよりも強い。数十倍もな」

 「え? それってどういうことですか? 俺とエンナって強さは同格のはずですよ。それにエンナの方が二つ勝ち越してますよ」

 「……俺は単純な力勝負のことを言ったのではない。覚悟の強さの問題だ」

 「覚悟の強さですか?」

 「……ああ。もしエンナがお前同様に旅をしろと言ったら、泣きじゃくるだろうな。不安で押しつぶされるだろう。しかしお前は今、冷静を保っている。並の子供の神経ではない」

 「そういうもんですかね」


 一見大げさに聞こえるかもしれないが、この世界では引ったくりなんて日常茶飯事で全財産を失うことだってある。交番なんてものも無いし、迷宮よりも厄介かもしれない。かく言う俺も、一人のときに何回かゼニを奪われたことがる。


 「……お前なら問題ない。冷静さが備わっているからな」

 「はい、エンナのことよろしく頼みます」

 「……任せておけ」


 ベラルさんは俺に冷静を保っているから大丈夫などといっていたが、あれは冷静を保っているのでは無く、平然を装っているだけだ。ローブで下半身は見えないが、足は恐ろしい速さで震えている。


 みんなと別れの挨拶をかわすと、キャラバンへ乗り込もうとする。ガシンガシンと効果音が聞こえてきそうなロボットみたいな歩き方だ。

 キャラバンに乗り込むと窓から顔を出す。その顔は全員違っている。

 不安そうな顔をしている者。

 笑っている者。

 無表情な者。


 そんな中で不安な顔をしている親父に話しかける。今にも泣きそうな顔だ。


 「なんて顔してんだよ親父」

 「そんな顔してるか俺は?」

 「ああ。そんな心配そうな顔してるとこっちまで不安になるだろ。せめて、達者でなくらい言ったらどうだ?」

 「そ、そうだな。よし……トモ、頑張って迷宮踏破してくるんだぞ」

 「おいおい、それは無理だろ親父」


 俺よりも親父の方が不安だ。あんなことで仕事が勤まるのだろうか?

 俺が親父のことを気にかけていると、ガル爺が俺のもとへ歩み寄ってくる。


 「トモよ、ちょいと耳を貸しなさい」

 「なんだガル爺?」

 「この旅はキツいものになるかも知れん……だからワシから特別に一つプレゼントじゃ。後々分かるじゃろ」

 

 どうやらガル爺は魔石の他にもプレゼントを用意してくれたらしい。一体なんだろうか、後々わかるらしいが。その時のお楽しみとしておこう。


 

 「それじゃあ行ってきます」

 「おう頑張ってこいよトモ。お前ならなんとかなる」

 「トモ、盗難にだけは気お付けなさいよ」

 「死ぬんじゃないぞい、トモ」

 「レシピ、活用しろよ」

 「……その判断力は冒険者としては重要だ。初心を忘れるな」


 みんなのエールをもらい、俺を乗せたキャラバンは走り出す。

 窓から顔を引っ込めると、俺は体育座りになりながら顔を俯かせる。


 ――――優しい人達だった。別れるのが辛くなるくらいに。

 優しいと言えば、俺のパートナーがいた。アイツの場合は、時々優しいだが。


 「…………エンナ。最後に顔くらいは見たかったな」


 俺は、二本のタガーを携えた少女を思い浮かべる。アイツといた時間は姉さん達よりも長い。

 一緒に迷宮探索をして、時には走りこみをして、勝てないモンスターから逃げた回数なんて計り知れない。


 ――その少女もここにはいない。

 この五日間で俺の店を訪れて、一度だけ話したことがある。

 俺はその時、「エンナならば俺の実力と互角なのだから連れて行ってもいいんじゃないか」と思っていた。一人旅より二人旅のほうが安心ができる。


 しかし、誘わなかった。一回でも誘ってしまえば、もうキャンセルすることはできなかっただろう。

 それにエンナには両親もいる。そんな状態のエンナを誘うのは気が引けたのだ。


 結局、エンナには何一つ本当のことを話せなかった。

 ただ単に"風邪"ということで、この五日間エンナを騙し通した。エンナはこういう時には優しいのだ。 

 五日目は、いつもよりエンナが心配そうな顔をしていた。

 その顔は心配しているというより悲しんでいる顔だった。


 俺が顔を上げると同時にローブを羽織った人が一人立ち上がる。この人も旅の人だろうか?

 まぁ他人のことはどうでもいい。今の俺は他人のこと気にかけられる状態ではない。


 「犠牲になるのは俺一人で十分……か」

 「何一人で勝手に逃げ出してるのよモトキ」

 「いやしょうがないだろ。だってエンナは巻き込めないし……はぁ!?」

 

 そんな俺の自己犠牲の鏡みたいな言葉に反論する少女がいた。少女の声だ。

 茶髪の三つ編み。

 澄んだ瞳。

 羽織っていたローブを取っ払い、少女は俺の前で仁王立ちになる。



 「なんで……お前がいるん……だ!?」

 「モトキが心配だから付いてきちゃった。パートナーだから当然でしょ」

 

 エンナは満面の笑みで俺に向かってピースをする。


 この時点で俺の一人旅は幕を下ろし、エンナと一緒の二人旅が始まった。

 

 

 


読んでいただきありがとうございます。

最初は一人旅にする予定だったのですが、ヒロイン欠如という問題が発生してしまうので、こうなりました。

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