嘘つきトール
感想ありましたら下さると嬉しいです
「報酬は幾らでも支払う。条件に合う黒髪の少年を見つけたらな。他にも少年の特徴を挙げるとすればジョブが特殊だということだ。国民達よの協力に期待する」
召喚師はそれだけ言うと、ステージから退場する。大通りは十秒ほど静寂を保つと、誰かがしゃべりだす。それを皮切りに大通りに喧騒が戻る。話に耳を傾けてみると、大体が勇者と俺の話題だ。
「勇者凄かったな。かなり前の国王に似ているな」
「まぁ王の命令は絶対厳守っていうのに勇者が追加されただけだ」
どうやら周りは勇者の行為をそこまで重く受け止めていないらしい。やっぱり王の独裁政治などがあったりするだろうか。
「あの指名手配の少年ってどう思う?」
「結構な大金もらえるんだろ。だけど手がかりがあれだけじゃなー」
「しかも見つけたら勇者と顔を合わせることになるかもしれん。あの勇者と関わるといつ殺されるかわからん」
今度は俺の話をしている。国が金を出してくれるだけあって結構な話題になっている。一体どれくらいもらえるのだろうか?
「はぁ……どうしよ」
大変なことになった。
俺はこれからどうすればいいだろうか?
もちろん逃げなければならない。でもどこへ?
「……はぁ。頭痛い……」
ちょっと考え過ぎだ。今すぐ俺が捕まるというわけでは無い。周りの連中も、あの惨劇を見て「さーて黒髪少年を見つけてガッポリだぜ」と考えには至らないだろう。あくまで予想の域を出ないが。
「ひぃ!?」
「あ? 変な声出すんじゃねえよ」
俺の肩に他人の肩がぶつかる。
たったそれだけの事だというのに俺の心臓は跳ね上がる。怯えているのだ……捕まる恐怖に。
この町の全ての人が俺の敵だと思えてくる。いつ狙われてもおかしくないこの状況。まるで全員に銃口を向けられているみたいだ。
自然と体に力が入る。
腕がプルプルと震え、血管が浮き出る。手にはこれどもかというくらい力を入れる。
こんなことでは防ぎようが無いが、それでも力を入れてしまう。
「そうだ……店に戻ろう。一旦落ち着こう」
俺は自分働いているところであり、マイホームである。セントラルラザートを目指す。今は誰一人としていないはずだが、ここにいるよりずっとマシだ。
俺はいつものように店の扉を開く。それだけの行為なのに、こんなにも憂鬱になるのは初めてだ。
店には誰もいない……いや誰かいる。厨房の方で音がしている。
「誰かいるのか? 親父か?」
「……モトキです」
「おおモトモか。ちょっと厨房来いよ」
声の主はトールさんだった。どうやら状況を見るに、出店に使う野菜やら肉などを運び出しているらいい。俺が厨房に入るとトールさんは動きを止めてイスに腰掛ける。一体何を話し始めるのだろうか?
「何でここに来たんだ? まだ祭りはこれからが本番だろ?」
「いえ、ちょっと眠くて……はは」
「トモは店の手伝い頼まれてるだろうが。しかもまだ九時だぞ。いつもならピンピンしているじゃないか。嘘つくな」
「……ばれちゃいましたか」
「トモは嘘つくの下手だな」
どうやらトールさんには即席の嘘は通用しないらしい。
でもどうする? ありのままを話すのか?
それは危険だ。人間は金のためなら裏切る生き物だ。トールさんも例外ではないかも知れない。たとえ親父が認めた人であってもだ。
俺が次どうするか考えていると、トールさんの方から話し出した。
「もしかしてトモ……さっき召喚師が話していた少年なのか? 違っていたら謝る」
「え? どうしてそう思うんですか?」
「だって親父がトモを引き取った時、まだ初日だっていうのに元気に自己紹介までしてたじゃないか。本来ならそんな事はまず無い。ライルちゃんやカーテちゃんだって店に馴染むのに少なくとも一ヶ月はかかったんだぞ。怪しいと思わない方がどうかしてる」
まずい……どうやらお見通しのようだ。どうしよう。
口封じをするか? いや、俺はそこまでの金を持ち合わせていない。
だったらどうする? このままでは捕まってしまう。
――――殺すか?
幸いなことにここは厨房だ。手の届く範囲に刃物がある。
しかし、ここで殺したら別の罪が俺を襲う。それではダメだ。物事が進展してない。
それ以前に俺は人を殺せない。殺す勇気が無い。
「お~いトモ。生きてるか~」
「っは!? 大丈夫です。ちょっと混乱してて……」
「ってことは黒髪の少年はトモで間違いなんだな?」
「え? それは……」
「いや……この後に及んでまだ言い訳できると思ってんのか。いい根性してんなトモ」
「……はあもうダメか。俺だよ、黒髪の少年っていうのは」
遂にゲロッた。そうするしか道は無かった。完全にばれている。言い逃れはできない。
トールさんは勘が良すぎる。そのお陰で早々にばれてしまった。
「で、俺を捕まえて金取りますか? でも俺もここで無様に死ぬわけにはいかない。トールさんが通報する前に殺しますよ……」
「トモ……そんな震えた体でそんな事言っても怖く無いぞ。それに殺すに気無いだろお前。殺すなら本気で殺気を込めろ。お前の目は怯えている様にしか見えない」
「……やっぱりダメですか。せめて祭りが終わるまでは自由にしてもらええませんか?」
俺は人生最後の願いをトールさんに告げる。逃げようなどとは思っていない。
せめて捕まる前に皆の顔は見ておきたいな。
「トモさ、俺がいつお前を通報するって言った?」
「え? それってどいうことですか?」
「普通に考えてみろよ。お前を国に差し出したら、お前を匿っていた親父達が危なくなる。そうなったらこの店は潰れる。そんな事になってみろ、俺の就職先が無くなっちまう。どうだ? 俺にとって悪いことしか起きない」
「……そうですね。確かにそうだ」
「分かってくれたらいいんだ。それじゃ俺は出店のほうに行ってくるから。気が向いたら手伝いに来いよ」
「はい。分かりました……」
トールさんはそう告げると店の扉を閉める。店に静寂が訪れる。その静寂は俺を安心させる。
結局トールさんは通報しないと約束してくれた。それが自分に害が及ぶという理由だったとしてもだ。
「ん、待てよ……」
俺は召喚師の言葉を思い出す。召喚師は国民に「報酬なら幾らでも支払う」と言っていなかっただろうか。もしそうなら、先のトールさんの言葉に合点がいかない。トールさんは、通報したら働き口が無くなると言っていたのだ。
――おかしい。おそらく報酬というのは、ずっと暮らしていける金額だろう。トールさんは働く必要など無いのだ。つまり――――
「トールさんは優しいな。こんな俺を助けてくれるなんて」
つまり先のトールさんの発言は嘘だったのだ。おそらく俺を裏切りたくないと言ったら俺が疑うとでも思ったのだろう。
だから俺に信じてもらうために、自分が通報できない理由をつくったのだ。
優しい嘘。
俺から信頼を勝ち取るための嘘。
「この店にはいい人がいっぱいいるな」
俺は店の天井を見上げながらそう呟いた。
お手に取って頂きありがとうございます。
これからも温かい目で見守って下さると嬉しいです




