転生者と廃棄処分
――――声が聞こえる。
「成功…したのか……?」
「あぁ。おそらく召喚には成功しただろう。しかしまだ召喚に成功しただけだ」
二人の男の声が脳に響き、それと共に意識も覚醒してくる。
なんかだるいな……てかライトを向けるな、眩しいだろうが。
「ここは? どこだよ? 死後の世界?」
「目覚めたか、異世界の民よ」
「だからどこや?」
その質問には二人の男は答えてはくれない。重たい頭を左右に回し、周囲を見回すともう一人大きな斧を持った男がいた。
床には魔方陣的なものがある。かなり厨二病感溢れる部屋だ。俺はこいうの好きだ。
「……ぁえ?」
俺は自分の姿に目を落として自らの異変に気づく。
おかしなことに全裸だ。なぜか背が低くなったような感じもする。
「ステータスを見せろ……」
「はぇ? それよりも何が何だか分からん」
は?ステータス?この男は何を言っているんだろうか。もちろん意味はわかるが。
新手のオカルト団体だろうかというありえない予想が俺の頭をよぎる。
と、次の瞬間に俺の目の前に青白い画面が浮かび上がった。お、なんかゲームみたいだ。
俺がその画面を開いた途端、男二人が画面を覗きこむ。
おいあんまりくっつくな気持ち悪い。
タカハシ・モトキ 男 9歳
メイン:変動者
サブ:なし
固定能力:勇者もどき
おいおいなんだよ9歳って……一体どうなっているだ?
あれから俺は死んで女が話しかけてきて目の前が暗くなって……どうしたんだっけ?
俺が全裸でウンウン唸っていても、男達は構わず話を続行する。どうやら俺のステータスは男達の求めていたものとは違ったらしい。
「変動者…?なんだこれは…?」
「私にもさっぱりわかりません。こんなジョブの報告例はいまだありません」
「まあいい。勇者でも英雄でも賢者でもないこいつに用はない」
「そうですね……これで何十回目の失敗だろうか」
「おい!こいつを処分しろ」
「分かった…」
男がそう言うと斧を持った男がゆっくりと立ち上がる。その体は分厚い筋肉の鎧で覆われ、まるでボディービルダーのようだ。いや~良く鍛えられてるね。
「本当に処分していいなだな?」
「ああ問題ない」
「は? 処分て一体――」
何か話が勝手に進んで、俺は処分されるらしい。
まるで他人事だな、しょうがないだろ、実感湧かないし、俺にとっては、あんな奴はコスプレ野郎にしか見えない。
「あの斧で俺をスパーンとやっちまうわけか。やばそうだが怖さが足りんな」
あいつが唯のコスプレ野郎だったら、あの斧も何ヶ月かかけて作った木製の斧だろうか?
斧男が素振りを始めた。
ブンブンというデカイ効果音を鳴らしながら。音が明らかにヤバイ。野球の素振りの音よりもよっぽど凶悪だ。俺の体が強張るのを感じる。
「おっと」
男が斧を落とした。たったそれだけの事ことだった……たったそれだけの事なのに、木の床に深い傷がつく。
コスプレ野郎と思っていた俺がいけなかった。あかん……死んでまう。
「あの~斬らないでくれますかね?」
「……無理だ」
「いや少しくらい話を聞いても……」
「お前は死人の言葉が聞こえるのか。不思議な奴だな」
え……? やばくね……交渉の余地すら与えては貰えないらしい。こういう相手はてこでも考えを曲げることは無い。
途端に物事が現実味を帯びてきた。
やめて! そんな物騒ものをか弱い少年に向けないで!
斧男は俺の制止の声に耳を貸さず勢いよく斧を振りおろす――――!
「ちょおおおおおおぉぉぉぉ!! タイムタイムゥゥ!」
叫んだ。自分の恐怖心に忠実なった俺は絶叫する。
芋虫のようにゴロゴロと床を転がる。俺の頬に冷や汗が流れる。避けられただけでも奇跡に等しい。
間一髪避けたが、髪が何本か持っていかれた。
床には大きな傷跡。相手がモーションの大きい斧で本当によかったと俺は思った。これがナイフとか銃だったら……考えるだけで寒気がしてくる。
「ちっ! 素早いガキだ! 大人しく殺されろ!」
「いや逃げなきゃ不味いでしょ!」
そんな斧男の言葉に苦し紛れに答えながら俺は周りを見る。
奴が二撃目に入る前にこの戦況をどうにかしなければならない。
でもどうやって?
(ドアの前には斧男がいる。後ろにはガラスの窓。後者しか逃げ延びる道はないか……)
俺は、後ろのガラス窓に向かって走る。
強化ガラスという不吉な単語が頭に浮かぶが、この際気にしない。
俺は人生で初めてハリウッド映画のようにガラスを突き破った。
「オオオォォォォォォーーーーーーーーーー!」
ガラスの砕ける音が部屋中に響いた。ガラスの破片が俺の腕を傷つける。そこまでの出血ではない。
「死へのダイビング……」
刹那の浮遊感が俺を襲う。恐怖は無い。さっきの斧の攻撃の方がよっぽど怖かった。ちなみにそこまで高度はなかった。二階分くらいだ。
「ごふっ!」
大きな音を立てて芝生の上に落ちる。視界が眩む。まさか人生で二階からと飛び降りることになるなんて思わなかった。
幸い骨折などはなかった。地味にこの体は丈夫だな。
上から男達の話声が聞こえる。一体こいつらは何者なのだろう。一般人ではないのは確かだろうが。
「落ちましたね」
「あ…ああ」
「まあ、きっとどこかで飢えて死んでしまうだろう。放っておけ」
まあ男達がそう言うのも頷ける。なぜなら、俺は全裸で外に出ていき、金も無いのだから。ホームレスよりも状況が悪い。
「さて……これからどうすっかな」
とりあえず見つからないように森に入る。
不意に頭がクラクラしてくる。頭を触ってみると血が手にベットリと付いている。まあこの程度の出血ならば死なないだろう。
「少し休むか」
俺は深い眠りについた。
辺りは真っ暗で静かな夜だった。