光剣ジュニア
「あ、目覚めたトモくん?」
「え……? ライル姉さん? なんで?」
「あちゃー…カーテがぎゅってやったからトモくん昨日のこと思い出せてないよ」
たしかトロールの首を叩き割って、親父とベラルさんに助けられたところまでしか思い出せていない。ただ二人の戦いは俺の頭に鮮烈に残っている。
「ゴメン! カーテ、トーモに悪いことしちゃったみたい……」
「まったくこれだからカーテは。トモくん、カーテも反省しているみたいだから許してあげてね」
「カーテ反省しているから嫌いにならないで……お願いトーモ」
「別に気にしてないから泣くなよカーテ姉さん」
「許してくれるのトーモ?」
許してくれるもなにも俺はカーテ姉さんに何をされたのか記憶にない。だから謝られるとこっちが困る。でもカーテ姉さんは俺に何をしたのだろうか? きっと下らないことだろうが。
「やったー! トーモ大好き!」
「ごふっ!」
「こらカーテ! あんた全然反省してないでしょ!」
なぜカーテ姉さんが俺に謝ったのか分かったような気がする。なんかデジャヴだ。残念なことに気絶には至らない。
「トモくん骨折れているんだから無理しないでね?」
「大丈夫だ。歩ける」
「絶対安静だからねトーモ」
姉達は俺にそんな忠告をして部屋を出て行った。時刻はもう夕方だ。そろそろ俺も働かなくてはならない。でもこんな俺がいても邪魔になるだけか……今は休もう。
「治ったかな?」
俺は室内を歩いていた。骨折が治ったかどうか確認するためだ。ジャンプなどをしてみるが痛くはない。それにしても、この世界の治癒速度の速さには舌を巻く。なにせ骨折が十数日で治ってしまうのだから。
「さて久しぶりに外にでるか」
俺が階段を降りると困ったような顔をした親父がカウンターに突っ伏していた。まったく昼間からなにやってんだか。
「親父どした?」
「おートモか。ケガの具合はどうだ?」
「ほとんど治ってるぞ。それよりも顔色悪いけどなんかあったか?」
「ああ。そうだトモ。お前一つ頼まれてくれないか?」
親父はそう言うとメモ用紙を千切ってそれに住所を書き込んでいく。そして一つ風呂敷を取り出し箱に入れた料理を風呂敷で包んだ。
この料理を書かれてある住所のところまで届けろと?
「この住所に届けて欲しい」
「別にいいが……配達なんてやってたのか?」
「お前は昼はだいたい町に行っているから知らないだけだよ。本当なら他の奴に頼むんだが、みんな出払っているんだよ。だから頼むぜトモ」
「了解したが親父も暇そうだけどなんで俺なんだ?」
「それはだな……えっと、この店の主が居なくなったら困るだろ。だから俺は行けないんだ」
「ふ~ん」
なんか即席で考えた理由っぽいが、突っ込まないでおこう。俺は親父にせかされるように店を後にした。
「さーて、のんびり行きますか」
親父が言うには別に急ぐことでもないらしいので俺はまったり歩いて行くことにする。そういえばエンナにはしばらく会ってないな……どこに住んでいるのだろううか?
「ここか」
俺はある店の前に立っていた。見たところ床屋のようだ。さすがに店のドアからは入れないので裏口に回る。
「セントラルラザートです。配達に参りましたー」
俺はドアをコンコンと軽く叩く。それにしてもなぜ配達で頼む必要があるのだろう? そうやって俺が自問しているとドアが開き、この家の子と思われる少女が出てきた。
「は~い、ありがとうございま~す……ってモトキ!?」
「エンナ? お前がどうしてここに?」
「わたしここで働いているのよ」
エンナが働いている店ってここだったのか。ちょっと意外だ。
俺がエンナとの再会に驚いていると廊下からベラルさんが現れた。
「お、誰かと思えばエンナのパトーナーのモ……」
「モトキです。この前はありがとうございました」
「気にするな。ちょっと上がっていくか?」
「いいんですか?」
「エンナの命の恩人だ。是非上がってくれ」
断る理由もないので上がらせてもらう。これで親父がここに来たくない理由が分かった。ベラルさんと会いたくないのだ。顔が青ざめるほど嫌いってどんだけだよ。
「それでケガは大丈夫なのかモトキ?」
「はい、もう全然痛くないです。走り回っても大丈夫なくらいです」
「……」
俺はベラルさんにケガが快方に向かっていることを告げる。あとさっきからエンナが黙りこくっている。具合でも悪いのだろうか?
「エンナどうした?」
「はひっ!?」
「さっきから俯いて……なんかあったか?」
「べ、別になにもないわよ」
「エンナ、モトキに言うことがあるんだろ」
「師匠……でも」
どうやらエンナは俺に言いたいことがあるらしい。胸を揉んだことを怒っているのだろうか? それとも「モトキ大好き!」とか愛の告白だろうか…これはないな。
「えっと…ありがとうモトキ」
「は?」
「だーかーら! 助けてくれてありがとう!」
「お、おう」
なるほど、お礼を言いたかったわけか。そんなに恥ずかしがることだろうか? お礼なんて日常茶飯事だぞ。
「エンナはスケルトンにやられてモトキに迷惑を掛けたのではないかと心配しているのだ。自分せいでモトキに大怪我をさせてしまった。そんな後ろめたさから……」
「そういうことでしたか」
「師匠もうやめてーーーー!」
それにしてもエンアにも女の子らしいところがあるじゃないか。本人の前では決して言わないけど。ベラルはエンナが恥ずかしがっている秘密を暴露すると席を立つ。
「それじゃ俺は仕事に戻る。あとはお前たちだけで好きにやってくれ」
「師匠のいじわる……」
しばらく部屋に沈黙が流れる。いや~気まずいな。さっさと帰ってしまおうか。そうだな、用事も済んだし帰ろう。
「じゃあエンナ、俺はそろそろ……」
「……待ってモトキ」
「ん? なんだ?」
「その…私とまたパーティー組んでくれる?」
「いいぞ。てゆうかお前しか組む奴いねぇよ」
「ホントにいいの?」
「いいもなにも、今まで二人で倒してきただろうが」
俺がそう言うとエンナの顔がさっきと比べ明るくなる。それからは本調子に戻ったエンナと他愛もない話をした。
「あ、そうだモトキ。いいことを教えたあげるわ」
「なんだ、いいことって?」
「えっとね。私、剣を習い始めたのよ」
「剣?」
エンナはタガーを抜くと軽く振り回す。なんだかこの前よりも剣の速度が速くなっている。
「凄い成長だなエンナ」
「まぁね。師匠に剣を習っていればこんなもんよ。なにせ師匠は光剣ベラルって呼ばれてんだから」
「すごいんだな、ベラルさんって」
ん? まてよ。このままじゃエンナに剣の腕で引き離されてしまうのではないだろうか?
それはマズい。俺もエンナのような力をを身につけなければパートナーとして示しがつかない。でもどうすればいい?
「どうしたのモトキ?」
「ああ。ちょっとな」
「私の剣術が凄すぎて度肝抜かれちゃった? それは師匠は凄い剣の指導者だからね」
「エンナにしては大体あってるな」
「それどういう意味よ」
――そうだ、指導者だ。エンナもベラルさんに剣を教えてもらったから、あんなに剣の速度が上がったのだ。でも誰に教えてもらう? 道場にでも通うか?
「この剣で私はモトキを追い抜くわ。もう足手まといなんかじゃ……」
「そうだ! いるじゃないか一人適任が!」
「どうしたのよ急に?」
「すまん。ちょっと用事ができた」
俺は床屋を後にする。俺の指導者としてベラルさんに釣り合う人と言えば一人しかいない……
「親父! 俺に剣を教えてくれ!!」
俺はセントラルラザートのドアを勢いよく開け放った。




