第六話 - 魔法と科学の共鳴 -
Area 血の洞窟【BloodCave】
洞窟の中は思っていたより明るかった。それは松明があちこちに置いてあるからだ。
【輝きのスタッフ】が松明代わりになっているのも大きい。
獣人とはいえども、明かりがなければ生活はできない。そういうことだろう。
しばらく、細い道を歩いていると見回りをやっているのかゴブリンが2体見えた。
幸いこちらに背中を向け、なにやら雑談をしているようだ。
物陰に隠れてから【輝きのスタッフ】を背中にしまい、セカンドウェポンの【PMマカロフ】を右手に【魂のブロンズダガー】を右手を持ち、交差するように構える。
そして、右半身だけ障害物から乗り出し銃のサイトを右のゴブリンの頭に合わせたまま待機する。
狙うときは二体のゴブリンが左右の道に分かれたときだ。静かに、かつ確実に仕留める!
「ステンバーイ…。ステンバーイ…。石鹸大尉。僕に力を…!」
やがて、二体のゴブリンは左右の道に分かれ離れていく。
十分な距離が取れたことを確認し、右のゴブリンの頭を狙っていた銃の引き金を4回引く。
パスッパスッパスッパスッ。とサイレンサーによって抑えられた銃声が鳴り、紫色の弾丸はまっすぐゴブリンの頭に向かって飛んだ。
4発の9mm弾丸はそのまま直線の軌跡を描き、ゴブリンに全弾命中した。
反応もなく倒れていくゴブリン。サイレンサーの効果で射撃音がせず、左の道を行ったゴブリンは味方が倒されたことに気が付かなかった。
その後は同じ要領で左へ行ったゴブリンを射殺する。
「おやすみ。」
何故、弾が無かった筈なのに銃から弾が発射されているのか。
そして何故弾の色が紫色なのか。
原因は洞窟に入る前に遡る…。
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「昔の偉人(?)はこう言った。パンが無いならケーキを食べればいいじゃない、と。なら弾が無ければ弾の代わりを作ればいいじゃない!」
なんか関連性があまりないような気がするが、とりあえず実弾は一つもない。
手持ちの物はすべて弾薬と関係ない物ばかり。
なら何が残る?スキルが残ってるじゃないか!
僕の戦闘系スキルは【両手】【射撃】【炎魔法】【氷魔法】【雷魔法】【聖魔法】。
その中の【両手】は真っ先にアウト。なら残るのは魔法系。
そこでこう考えた。魔法弾ってできないのかな…と。
結論から述べると成功。能力はこんな感じになった。
『ライトニングブレット』【射撃Lv1】【雷属性Lv1】
説明:マナを使って銃の弾薬として使用する
効果:物理ダメージの100%を雷属性ダメージに変換
…とまぁこんな感じのスキルを作ってしまった。
このゲームの名前が|フリーダムな魂《FreedomSoul》なことだけはあり、自分自身でスキルを作ることも可能なようだ。
ちなみに自作したスキルは自分で名前を付ける。
このスキル、魔力を使うが、実弾が不要になるという点でコストが安く済むというアドバンテージもある。
ただし、ダメージが魔法ダメージになってしまう点については弱点を突けるという長点があるが、その代わり魔法が効かない相手にはかなり不利そうだ。
やっぱり実弾は準備しておいたほうがいいだろう。
ちなみに雷属性にしたのは成長が一番遅れているという理由だけである。
一応、炎属性と氷属性、聖属性のものも同じものを作っておいた。
変換する属性は違うが、ほぼ同じ性能を持つスキルが完成した。
炎魔法は『火炎銃弾』氷魔法は『凍結銃弾』聖魔法は『神聖銃弾』と名付けた。
「これで実弾の代わりは完成したし、潜入しようかな。」
とまぁ、こんな感じだったのだ。
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装填された弾を撃ち尽くし二体のゴブリンを片づけた後、スライドが後退したままの【PMマカロフ】から左手で弾倉を抜く。
抜いた弾倉を放り投げる。宙を舞った弾倉は地面に着地すると光を発し、消える。
そして、サンダーブレットを詠唱すると左手から紫電が走る。
紫電は徐々に形を成していき、一つの弾倉となった。
弾倉には雷属性を象徴する紫色のシンボルが掘り込まれており、中に込められている弾薬の色は神秘的な紫色を放っていた。
それを銃に装填し、スライドストップを外す。
カチャっ。っと音を鳴らしてスライドが前進し、再び射撃が可能な状態になった。
PMマカロフは1952年に旧ソビエト連邦において開発され、制式拳銃として採用された小型自動拳銃である。
8発の9mmマカロフ弾を装填することができる。
携帯性にすぐれ、取り回しにすぐれていることでソビエト軍に高い評価を受けている。
そんな銃の知識はともかく、一度スキルを使って分かったのだが、サンダーブレットを唱えるのに必要な魔力はチャージドスパークより多少多いが分かった。
比例すると5:2といったところか?
マナの消費力が2倍以上に多いが、それでもこのスキル十分すぎるほど使い勝手と燃費がよい。
PMマカロフの装填数は8発。サンダーブレットで生成された魔法弾の4発を当てることによってゴブリンを一体倒すことができる。
つまり、一回の魔法で2体のゴブリンを倒すことができるということだ。
反面、チャージドスパークは何度も言っているがダメージのブレ幅が大きく、2発から6発必要。
つまり、1体倒すためにでは、チャージドスパークでは4から12の魔力が必要だが、サンダーブレットではわずか2.5である。
この差は歴然だろう。マナの少ない僕にとってはうれしい誤算だった。
物理ダメージの100%を雷属性ダメージに変換ってもしかしてかなり強い!?
弱点として思いつくのは攻撃力がもともとの銃の性能に大きく左右されることぐらいだろうか。
でもなんだろ…?
実弾が不要で属性付きでなおかつ燃費は最高。
今思ったが、このスキル。魔法が使えない遠距離職に喧嘩を売るような性能な気がする。
なんか…。正直、やってしまった感がする…。
「し…仕方ないもん!ステータスが中途半端なんだからこれぐらい大丈夫だよね!?」
そう自分に言い聞かせ、この話題を頭から放す。
はぁ…。ハンドガンだけじゃなくてライフルもいつか欲しいなぁ…。
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あの後は、群がってきたモンスターをボッコボコにしながら奥へ奥へと進んだ。
進んでいくにつれ、だんだん敵が強くはなってきたが、戦闘方法が固まってきた。
まずはメイン武器の杖。
魔法を詠唱しながら近づき、輝きのスタッフでぶん殴る。とにかく時間をかせぐことを前提でぶん殴る。
魔法が完成したら遠慮なくぶっ放す。ただそれだけだ。
この戦い方をしていると、通りすがる他のプレイヤーからなんだか驚愕の視線を感じる。
おそらく僕の火力の無さに驚いていたのだろう。
ふッ…。笑いたければ笑え。どうせ僕は雑魚ですよ…。
つぎはサブ武器の銃と短剣。
こちらの戦闘方法は割と普通だとは思うが、遠距離はただ魔法弾で撃ち抜く。近距離はナイフで突き刺す。
はっきり言って誰でもできる戦い方だと思う。ただ、攻撃は出来るだけ魂のブロンズダガーで刺す。
まぁ、効果が一撃ごとにマナを3%回復だからね。せっかくだから使わないと。
ちなみにこの戦い方をしていても視線を感じた。
やめて!これ以上僕を見ないで!弱いのはわかってるんだから!
まぁ、そうこうしているうちに洞窟の奥底までたどり着いた。
どうやらここは安全地帯らしく、数人のプレイヤーが座って休んでいた。
ただ、目に一番焼きついたのは、禍々しい存在感を放つ魔法陣である。
この魔法陣は『バーニングサークル』と呼ばれ、これに飛び込むとボス戦に突入する。
僕が受けたクエストに関係してるのではないかと、クエスト受注状態を確認する。
『聖堂のロザリオ奪還作戦』
教会関係者が宝物の運搬中、モンスターに襲われ『祝福されしロザリオ』を盗まれた。
そのモンスターの拠点はトリストラム王国の南門をでてリヘナ草原に存在するという噂だ。
その拠点、『血の洞窟』に潜入し宝物を奪還せよ。
バーニングサークルを確認すると、メニューが表示された。
どのバトルフィールドに参加しますか?
→聖堂のロザリオ奪還作戦
参加しない
どうやら、クエストをクリアするためにはこの魔法陣に入らなくてはいけなさそうだ。
とりあえず、『参加しない』を選択。戦闘の準備をしないとね。