第壱話 - グループって楽だよね -
「…3、2、1、行くぞ!」
カウントを取り、サキと同時に大羊に突っ込む。
重装備をしているのにもかかわらずわずかに僕より素早いサキは僕より素早く前進、両手剣を取り出し敵に斬りつける。
不意打ちを食らった眠れる大羊は突然の敵襲に驚き、なすがままにサキの鋭い一撃を食らった。
「メェエエエ!!!」
カウンター気味に行ってきた踏みつけ攻撃をサキはスライディングをするように回避し、大羊の懐に潜り込む。
スライディング状態から素早く起き上がりながら両手剣を腹に突き刺し、そのまま引っ張るように走り、大羊の後ろ脚から抜け出す。
結果、眠れる大羊は腹を大きく引き裂かれ、大きなダメージを与えれたようだ。流石ゲームの世界。こんな動きは現実では無理だ。
傷を負わされたことに怒った敵はサキを狙うために体をサキの方向に向ける。
一歩遅れた僕は敵を足止めするために氷魔法、『フロストノヴァ』を足に向けて発射する。
氷が大羊の後ろ脚を覆い、氷結したかと思われたが―――
パリンッ
「なッ!?」
―――すぐさま氷は割れ、自由の身となった。
考えられる原因は一つ。
「アイツ、氷属性のレジスト率が高いのか!?」
レジスト。いわば属性に抵抗する力。この値が高いとその属性に対する抵抗力が強くなり、結果として異常状態になりにくくなったり属性攻撃が利きにくくなったりする。
ともあれ、氷のレジストが高いとなると、氷結による足止めはほぼ不可能。それに伴い、ダメージも期待できない。
光属性の魔法攻撃はまだ僕は覚えていないので、結果的には僕が使える属性攻撃は炎か雷となる。
今の魔法で大羊に気付かれたのは言うまでもない。しかし、サキの方に敵対心が向かっているらしくこちらを向かない。
敵対心とは、モンスターにとってプレイヤーに対して働く警戒心と言っていいだろう。
敵対心が高いと、この場で最も脅威な敵として見られ、攻撃されやすくなる。
現在の状況で言うならば、手痛い攻撃をしてきたサキにはお怒り、痛くも痒くもない魔法をしてきた僕にはほぼ興味なし。といったところか。
大型の敵に敵対心を向けられるとそれだけ危険度が高まる。
前衛をサキがやっているとはいえ、ずっとターゲットを取っていると不安だ。
氷結できないならほかの攻撃で足止めを行った方がいいだろう。
もう一度魔法を唱えなおす時間は無い。背中にかけてある自動小銃を抜き、安全装置を外す。
そして、サキを踏みつけようとしている左前脚をフルオートで撃ち抜く。
サブマシンガンに使うような9mm弾丸と違い、貫通力が高いのか、308口径の炎弾は堅い足裏を貫通する。
毛が無い足裏は炎弾によって焼かれた。それには流石の大羊も怯んだのかフラッとバランスを崩し、攻撃を中断した。
その隙にサキがスキルを使ったのか三連激を繰り出す。
縦、突き、一回転しての横薙ぎ。
流石生っ粋の前衛職といったところだろうか?両手剣とは思えない攻撃スピードで連撃を繰り出した。
だが、しかしスキルを使った後には大きな隙が出来てしまう。つまり――
「メェエエエエエエエエエエエエ!!!」
「えッ?」
――サキは被弾覚悟で突進してきた大羊の突進を回避することができず、もろ受けてしまった。
「きゃああああッ!?」
「サキ!?」
突進を受け勢いよく転がるサキを見て、僕は自動小銃を捨て、腰の後ろに装備している短剣を抜き大羊の頭に向け投擲する。
その短剣は大羊の額に突き刺さる。さっきサキを吹っ飛ばし、すっきりしたのか今度は僕にターゲットを向ける。
背中の杖をクルクル回すように引き抜き、敵と対面する。
武器を抜いたときに行ってきた頭突きを横ステップ回避する。
そして、僕は大羊が頭突きのために低く下げた頭、つまりは目に向け杖のとがった部分で力いっぱい突く。
「ッメェエエエエエエエッ!!!」
火力不足の僕には弱点を突くことは必須。弱点に攻撃を受けた大羊は怯む怯む。
その隙にサキのもとに走り寄り、光魔法『ヒール』を唱え、体力を回復させる。
「サキ!大丈夫!?」
「うん…。ちょっと油断してたよ…。」
サキは堅い防具のお陰で何とか致命傷にならずに済んだようだ。
回復魔法をかけてあげるサキはすぐに立ち上がり、両手剣を構えなおした。
大羊の方を向きなおすと、まだ怯み続けている。
「おにいちゃん、あれ何であんなに怯んでるの?」
「杖で思いっきり目を突いたからじゃない?」
「あぁ…なるほどね。まぁ、とりあえず、チャンスなのかな?」
「まぁ、そうなんだろうね。」
「なら…。今がッ!総攻撃チャンスッ!」
「ボッコボコにしてやんよ!」
一芝居するとサキと僕は敵に猛突進。
ドカッドカッゲシッザクッザクッ
抵抗することができない大羊に突くわ蹴るわ斬るわ叩くわなどのあらゆる暴力という暴力を加える。
辺りには煙が舞い、髑髏が浮かんだ気がする。
そして、サキが怖い。黒い。黒いです。Sなセリフなんてまったく聞こえない。
ただ、さっきのやられた分で怒ってるだけだよね!?
「これでお終いっと。」
気が済むまでフルボッコにした後、サキが倒れ込んだ大羊の首に直接両手剣を突き刺し絶命させる。
大羊の姿ばボロッボロでみるも絶えない姿となっていた。
僕も半分ノリだったとはいえ、よくもまぁこんなに攻撃しまくったものだ。
眠れる大羊が消えていくのを尻目に僕はさっき投げた自動小銃を拾い、砂を払って片づける。
「やっぱり2人だと楽だね。」
「私は3人でゴブリンリーダー倒したからわからないけど、やっぱり中衛がいると違うよ。」
「そう?」
「うん。比較的、カバーできる範囲が広いからねぇ。安心して攻撃ができるよ。」
「まぁ、前衛に魔法、回復にさらには射撃までできるからなぁ…。」
自分でも半端キャラだと自負してますから。
眠れる大羊のドロップアイテムは…と。
『眠羊の毛皮』
スリープシープの毛皮。ふわふわしている。
『眠羊の歯』
スリープシープの大きな臼歯。
普通の素材アイテムか…。防具系の素材かな?
「サキ。手に入った素材。いる?」
「う~ん。おにいちゃんと交換するものがないから、いいよ。」
「そう?わかった。」
ならこの素材は鞄にしまっておこう。
「んじゃ、次のエリアに進む?」
「あー。私、ちょっとカリンさんに呼ばれたから拠点に帰るね。残った草刈鎌はお兄ちゃんにあげる。」
そういうとサキは僕に残った草刈鎌を僕に渡した。
「あらら、そうなの。んじゃ、これで解散かな?」
「うん。楽しかったよお兄ちゃん。またあとでね~。」
「はいよ~。」
王国に帰っていくサキを見送り、僕は次のエリアへと進むことになった。
◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆
Area サンバード高原
リヘナ草原の次のエリアはサンバード高原という名前のようだ。
リヘナ草原では短めの野草が多くのどかな雰囲気だったが、サンバード高原では整備された道の左右が腰程度の高さがある草で覆われていて、少し湿気ぽい。
生えている木も多くなり、視界が少し悪くなった。
うっすら見える程度だが離れたところには深い崖が見える。落ちたら死亡確実だろう。
モンスターはリヘナ草原では兎や羊など、比較的おとなしそうな敵が多かったが、ここでは大きな甲虫やらいかにも毒っぽい動く化け茸、でっかい兎やらがいるように見える。
ゴブリンも防具が強化されているのか今までは布装備のゴブリンしかみてこなかったが、ここでは銅装備をしたゴブリンが徘徊しているようだ。
辺りの様子をうかがいつつ、木の下に生えている茸を草刈鎌で採取する。
ふむ、見たことのない素材アイテムだ。
ノンアクティブなのか『高原の甲虫』や『踊るキノコ』、『大型鳥』は自分から襲ってこなかった。
採取をしながらも雑魚を蹴散らしながら道なりに進んでいく。
やがて、草刈鎌がすべて壊れてしまった。集まった素材アイテムはこれらだ。
『シビレタケ』
麻痺効果を持つキノコ。
『ドクドクタケ』
猛毒効果を持つキノコ。
『ネムリタケ』
睡眠効果を持つキノコ。
『甲虫の甲殻』
甲虫類の頭部外骨格。
『甲虫の羽』
甲虫類の透き通った羽。
『怪鳥の嘴』
怪鳥類の嘴。
『怪鳥の羽』
怪鳥類の羽。
『野兎の肉』
小さな野兎の生肉。
『野兎の毛皮』
野兎の小さな毛皮。
などだ。薬草や霊草なども採取によって増えた。
ちなみに踊るキノコはキノコ系のアイテムをドロップした、とだけ言っておこう。
木の下でも生えてはいたが。
現在のステータスはこんな感じだ。
---------------------------------------
『Winds』♂ Lv.9 称号『スリープシープ・スレイヤー』
【アクティブスキル】
『両手Lv8』『射撃Lv5』『炎魔Lv5』『氷魔Lv5』『雷魔Lv6』
『聖魔Lv4』『調薬Lv1』『合成Lv1』『無し 』『無し 』
【パッシブスキル】
『知力Lv3』『敏捷Lv2』
---------------------------------------
さて、そろそろ疲れてきたし、帰るとしますか。