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4  変化のはじまり

------ファリーナとフレディック、ローザの出会いから一週間。


少年2人は頻繁に彼女の部屋を訪れるようになっていた。



「ひーめっ、宜しければ図書館にご一緒しませんか?」


ひょっこりと扉から顔を出したローザが、唐突にそんな事を言った。


ファリーナは突然声をかけられて驚いたのか、抱えていたテディベアを抱いたまま振り向いてローザを見止めると、大きな瞳を何度も(まばた)きさせて首を傾げる。


「としょ、かん?」

「宮廷の東側にある王立図書館ですよ。ファリーナ姫、こちらに来てから宮殿から一歩も出てないでしょう?気晴らしになるのではないかとフレディが…った!」

「余計な事まで言うな。」


ローザの後ろからフレディックが顔を出した。 眉を寄せて、なぜだか少し不機嫌そうだ。


「もー、恥ずかしいからって叩かないで下さいよぅ。」


フレディックは今度はもう黙殺して睨むだけに留めることにした。

少々乱暴にローザの背を押して部屋に入室すると、次にいつもの窓際のソファに座るファリーナに目を向ける。


「宮殿の外だから護衛は付くけどな。敷地内だから許可なく行けるだろう。」


(まつりごと)が行われる太陽宮廷(たいようきゅうてい)を中心に、北に王族の居住する月宮殿(げっきゅうでん)、東には王立図書館があるのだ。


ちなみに西には騎士の訓練場や馬屋、常駐している騎士や侍女たちが寝起きする為の棟が纏められており、南は荘厳な正門と、庭園のある大きな広場になっていた。

図書館と広場は昼間のみ一般開放されている。

そして敷地内にあるそれら全てをまとめて、エスティーナ王城と称される。



「まぁ、素敵ですわ。図書館にはリーナ様のお好きな絵本がたくさんありますもの。是非いってらっしゃいませ。」


ファリーナの傍に仕えていたマリーがそう促す。 

よく知らない場所を動き回るのは怖いのか、ファリーナはほとんど自室にこもった生活をしており、中庭への散歩でさえ、侍女が促してやっと動くような状況だ。

彼女が外へ出ることを、既に姉か母親の気分でいるマリーが喜ばないわけがなかった。


すると、その言葉を耳にしたフレディックとローザが首をひねる。


「なになに?リーナ様って、ファリーナ姫のこと?」


ローザに話しかけられたマリーは、慌ててスカートを指先でつまみ、姿勢を低くして礼を取りながら緊張した小さな声で答えた。


「あ。は、はい…ご家族にそう呼ばれてらっしゃったようで、|私«わたくし»たち侍女にも呼んでほしいとご希望がございましたので。」


「へぇ、いいなー。仲良しっぽい!私もそう呼びたいです、リーナ姫。」


ファリーナはパッと嬉しそうに微笑み、何度も何度も強くうなずいた。


その愛らしい笑顔に、マリーは力いっぱいファリーナを抱きしめたい衝動にかられるものの、王子とローザが居るので気合を入れてどうにか(こら)える。


本来、侍女が慣れ慣れしくしすぎると不敬罪に取られるのが一般的だ。

しかしマリーを含むファリーナ専属の侍女3人は、侍女であると共に半分ほど乳母の役目も賜っている為、抱きしめる事や親愛のキス、教育の為の説教程度の行為は許されていた。

しかしローザはマリーのように耐えることはせず、衝動のままに勢いよくマリーを抱き上げ、更にくるくると踊るように回り出した。



「あー、可愛い可愛い可愛い!うちの弟妹もこんなだったら毎日幸せなのにー!」

「わ、わぁっ・・・!」

「何を馬鹿らしい事やってるんだか。」


呆れて嘆息するフレディックの目の前に、ローザは抱き上げたままのファリーナを近づけた。

フレディックより頭ひとつぶん背の高いローザに抱かれて居るため、フレディックは彼女を見上げることになる。

きょとんと目を丸くして見つめてくる彼女との、常より近い距離に落ち着かず、思わず後ずさりしたものの、後ろに下がった分だけまた距離を詰められてしまった。


「なんだよ…。」

「ほらほら、フレディも。 『リーナ』って。」

「………。」

「ほらほらー。遠慮しないでー。」

「………。」


元より心を許せる者の少ない立場である彼が、愛称で呼び合う事の出来る人間なんてローザただ一人。


人との距離が縮まりすぎるのは少し落ち着かない。


視線を右往左往させた後、あまり見つめすぎないように意識しつつファリーナに向き合った。


「で、図書館へは行くのか?…リーナ。」


大きな瞳を繰り返し(まばた)かせてフレディの言葉を理解すると、嬉しそうにふにゃっと柔らかく笑うファリーナ。


「ご本、たくさんある?絵本も?」

「そりゃあ国で一番大きい図書館だしな。」

「行きたい!フレディック様、連れて行って?」

「………フレディだ。」

「フレディ?」



「っ…!俺だけ愛称で呼ぶなんて不公平だしな!」


そう言い放つと「図書館までの護衛を手配してくる!」と乱暴に部屋を出ていってしまった。


その勢いと素早さに、ファリーナは茫然として言葉も無く(まばた)きを繰り返す。

どうやら驚くと瞬きの回数が多くなるのは彼女の(くせ)のようだ。


「ふふっ、照れやさんですよねぇ。」

「んんー?」


ファリーナは訳が分からず首をかしげるが、ローザもマリーも含み笑いをするだけで何がどうなっているのか教えることは無かった。


この時から、ファリーナはリーナに、そしてフレディックはフレディになり、


二人の関係が少しずつ変わり始めるのだった-----。




次話からは3人称でもファリーナ→リーナ、フレディック→フレディに変わります。

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