第六章 再会
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第六章 再会
人命第一大学病院の地下にある研究棟。
そこは、一般の医師や学生が立ち入ることのない、
“特別な治療”が行われる区画だった。
米倉孔明は、
佐々木教授に案内されながら、
薄暗い廊下を歩いていた。
「米倉君。
今日は、治癒後の患者を見てもらおうと思ってね」
教授の声は穏やかだった。
まるで、優れた研究成果を誇らしげに披露するかのように。
米倉は、胸の奥に重いものを抱えながら頷いた。
(……治癒後の患者……
植物状態……
本当に、苦痛はないのか……?)
疑念は消えない。
自動ドアが開き、
白い光が差し込む。
そこは、
透明な円柱状の水槽が並ぶ部屋だった。
淡い光を放つ液体が満たされ、
その奥のベットに“治癒を終えた患者”が静かに横たわっている。
佐々木が言った。
「この患者は、特に状態が良い。
肉体は完全に治癒している。
意識は戻らなかったがね」
米倉は、ベットのひとつに近づいた。
一人の男性が静かに眠っている。
皮膚は健康的な色をしており、
筋肉の張りもある。
まるで、ただ眠っているだけのようだった。
米倉は、
患者の顔を覗き込んだ。
その瞬間──
心臓が止まったように感じた。
「……嘘だ……」
ベットに横たわっていたのは、
紛れもなく──
親友の安藤健司だった。
「どうしたのかね、米倉君?」
佐々木が穏やかに問いかける。
米倉は、震える声で言った。
「……この人は……
僕の……親友です……」
佐々木は、少しだけ眉を上げた。
「そうだったのか。
それは偶然だね」
偶然──
その言葉が、米倉の胸に突き刺さる。
(……偶然……?
そんなはずが……)
米倉は、そっと胸の上手を触れた。
健司の寝顔は穏やかだった。
だが、その目尻に──
一筋の涙が浮かんでいた。
(……涙……?
植物状態のはずなのに……)
米倉の背筋に、
冷たいものが走った。
「教授……
この患者……
意識が……」
「ないよ」
佐々木は即答した。
「反射だ。
涙腺は自律神経で動くこともある。
珍しいことではない」
(……本当に……?)
米倉は、
健司の顔を見つめ続けた。
その時──
健司の指先が、
ほんのわずかに震えた。
米倉は息を呑んだ。
(……動いた……
やっぱり……意識が……)
だが、佐々木は言った。
「筋肉の微細な痙攣だよ。
死後硬直の逆だ。
治癒直後にはよくあることだ」
その説明は、
医学的には正しいように聞こえた。
だが──
米倉の胸には、
確信に近い感覚があった。
(……健司……
君は……生きているんだな……
意識が……あるんだな……)
健司の目から、
また一筋の涙が流れた。
それは、
反射ではなく──
訴えだった。
米倉は、
その涙を見て悟った。
(……助けなければ……
このままでは……
健司は……永遠に……)
佐々木が言った。
「米倉君。
これが、私の研究の成果だ。
君も協力してくれると嬉しい」
米倉は、
教授の穏やかな笑顔を見つめた。
その笑顔は、
優しさにも見えたし、
狂気にも見えた。
そして米倉は、
静かに決意した。
(……この研究を……
止めなければならない)
親友の涙が、
その決意を確かなものにした。
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